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3月28日(2)『来たるは英雄』

今日は、エリィにとっても久々の休日。

家でマンドラゴラ剣の叫びを聞いた後、彼女は再び外に出た。毎日忙しい兄に何か贈り物をしようと考えたのだ。


そんな優しい彼女が、兄に何を渡そうかと考えながら歩いていた時、向こうの方が騒がしい事に気付いた。道の真ん中に人だかりができている。一体どうしたのだろうと、エリィはその場所に近付いた。


「・・・!?」


恐ろしい光景が広がっていた。

あちこちにクレーターが出来上がり、道の真ん中に一人の青年が倒れている。そんな彼の上に橙色の髪の少女が馬乗りになり、青年を何度も何度も殴りつけているではないか。


少女が青年を殴る度に地面が揺れる。何があったのかは分からないが、エリィは急いで二人のもとに駆け寄った。


「な、何してるんですか!」

「ゴミの処分よ」

「そんな事したら死んじゃいますよ!」

「いや、大丈夫よ。だってこいつ────」

「うおおおっ、美少女が俺のことを心配してくれているだと!?」

「ひっ!?」


ボコボコにされていた青年が突然起き上がり、驚いているエリィに顔を近づける。


「おお、おおお・・・!」

「な、何ですか・・・?」

「可愛いし、胸もそれなりに─────」

「何を言ってんだこのド変態があッ!!」

「ぐべっ!?」


青年が地面に埋まる。さらにその上から、少女が青年を勢いよく踏みつけた。


「見ての通り変態だから、何しても死なないのよ」

「は、はあ・・・」

「そうだ、今のうちに聞いとこうかしら」


何かを聞く前に、少女が起き上がろうとしている青年を再び踏みつける。


「スクード・スミスって男、知らないかな?」

「え?」

「王都に住んでるって事は知ってたんだけど、この馬鹿のせいで来るのに時間がかかってね。今日中には会いたいんだけど・・・」

「あ、あの、スクードは私の兄ですが・・・」

「・・・へ?」

「はじめまして。私、エリィ・スミスっていいます」


ぺこりと頭を下げたエリィを見て、少女は目を丸くした。








▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼








「ただいま、兄さん」

「おう、おかえり・・・って、誰だ後ろの連中は」

「お客さんだよ。兄さんに会いに来たんだって」

「俺に?」

「よう、スクード!元気だったかー?」

「ッ!?」


突然エリィの背後から顔を出した青年を見て、スクードの動きが止まる。


「へえ、ほんとに鍛冶屋やってるんだ。あのスクードがねぇ・・・」

「な、お前ら・・・!」


さらに青年をどかして顔を出した少女を見たスクードが立ち上がる。


「あ、あの、兄さんの友達なの?」

「友達というか、一緒に旅した仲間というか・・・」

「旅?え、もしかして・・・」


驚いたエリィが振り向くと、金髪の青年がエリィの手を掴んで笑った。


「はっはっは!俺はラグナ・ラインハルト。よろしく、可愛いスクードのいも────」


ラグナと名乗った青年が吹っ飛び、顔面から棚に激突する。そんな彼の頭を、スクードが思いっきり踏みつけた。


「お前、ここに来るまでの間に、エリィに手ぇ出したりしてないだろうな」

「しでおりまぜん・・・」

「ならいい」


そう言ってラグナから足をどけたスクードを見て、少女が腹を抱えて笑い出す。


「あっはっはっは!あんた、ほんと妹ちゃんのこと大好きよねえ!」

「はあ?」

「だって、旅してる時も妹ちゃんの話ばっかりしてたじゃないの。くくっ、良いお兄ちゃんね・・・」

「・・・」


若干ムスッとしているスクードに比べ、エリィは顔が真っ赤になっていた。そんな話は一度も兄から聞いたことがなかったので、照れと嬉しさが全て顔に出ている。


「あ、自己紹介してなかったか。あたしはユーリ・ステラ。みんなには『破壊王』なーんて呼ばれてるけど、よろしくね」

「破壊王・・・ということは、ラグナさんも」

「ぶ、聖天勇者ブレイブことラグナです」


かつて、魔王を打ち破った四人の英雄。そのうちの三人が一箇所に集結している。それはとても凄いことであった。


「気を付けなよ、妹ちゃん。こいつ、勇者のくせにド変態だからね」

「失礼な。寧ろユーリの方が危険だぞ。怒らせたら地面に埋められちまうからな」

「あたしを怒らせるのはお前だけだろうが!!」

「いでえっ!?」


殴っただけで地面が揺れる。とてつもない力を持つユーリも凄いが、その衝撃に耐えるラグナが最も恐ろしい。


「おい、そろそろ何をしに来たのか教えたらどうだ。ただ暴れに来たわけじゃないんだろう?」

「もちろんよ。とりあえず座ってもいいかな?」

「そっちで話を聞こう」


場所を移動し、それぞれが椅子に腰掛けた。しかし、ラグナだけは置かれてある武器を物珍しそうに眺めている。そんな彼を無視してユーリが口を開く。


「最近魔族の動きが活発になってきてるの、スクードは知ってる?」

「いや、知らなかったな。だが、今日森の中で人間に化けた魔族の男と交戦したぞ」

「魔王を倒してから姿を隠していた魔族達が、最近再び各地で目撃されるようになっている・・・、これがどういうことか、スクードは分かる?」

「まあ、恐らくだが」


面倒臭そうにスクードが何かを言おうとした次の瞬間、突然叫び声が響き渡った。それを聞いたエリィとユーリは耳を塞ぎ、スクードは立ち上がってラグナのもとへと向かう。


「おいスクード、なんだこの剣。急に叫び始めたぞ!?」

「勝手に触るな馬鹿。お前は子供か」

「ははっ、別にいいじゃんよー」


次第にイライラし始めたスクードが、ラグナに強烈な拳骨をプレゼントする。


「エリィはその音が苦手らしい。だから二度とマンドラゴラ剣に触れるな」

「スクード君ったら、エリィちゃん大好きかよ!」

「・・・」

「はい、もう触りません」


スクードの魔力に身を震わせ、ラグナが黙る。そんな彼に背を向け、スクードはユーリの前に腰掛けた。


「相変わらずだな、あいつは」

「でしょ?ここに来るまでどれだけ大変な思いをしたことか・・・」

「お疲れだな」


そんな会話を聞きながら、エリィは頬を緩めた。普段はあまり外に出ない兄にも、こうして気を許している友が居る。それが分かり、とても安心したのだ。


「それで、話を戻すが、魔族の活発化の原因・・・それには()()()が絡んでいるのか?」

「多分というか、ほぼ確実に絡んでると思う。信じたくはないけど、また大戦が勃発するかもね」

「あ、あの、あいつって誰なんですか?」


エリィが二人に質問する。

そんな彼女に、いつの間にか真剣な表情になっているユーリが言った。


「魔王よ」

「え・・・」

「三年前、私達が葬った魔王ベルゼーが復活した可能性が高いの」


雷が落ちたかのような衝撃が、エリィの全身を駆け巡る。


「ど、どうして分かるんですか・・・?」

「魔族が動き出したのと、この前とある事件が起こったから」

「事件・・・ですか?」

「王国南方にあったとある町が、魔族達の襲撃を受けて壊滅したらしいの。その時の生き残りが、実際に魔王の姿を目撃したと言っていてね」

「ふむ、町が壊滅したという話は知っていたが、その人物は何故魔王だと決めつけたんだ」

「三年前、魔王が全世界に宣戦布告した時、よく分からない魔法で自身の姿を空に映し出してたでしょ?その姿と今回現れた魔族の姿が一緒だったんだって」


魔王復活。

その話が本当であれば、再び兄は旅に出てしまうのではないか。そう思ったエリィの表情が曇る。


「とりあえず、魔王が復活したとは言いきれないから、一応覚えておいてね。いつ戦争が起こるかは分からないから」

「ああ、教えてくれてありがとう」


そう言うと、スクードは立ち上がってラグナのもとへと向かった。残されたユーリは、隣で兄の背中を見つめているエリィに顔を向ける。


「どうしたの、妹ちゃん。またお兄ちゃんが旅に出ちゃったら寂しい?」

「へっ、いや、その・・・」

「可愛いわねー。仲良し兄妹なのね」

「そう、でしょうか・・・」


エリィの頬が赤く染まる。


「でも、何でかしら。兄妹なのに、二人ともあんまり似てないわよね。美男美女なんだけど」

「あ、それは・・・」


その先を遮るかのように大きな音が響く。何事かと思って向こうを見れば、ラグナがスクードに踏みつけられていた。


「勝手に触るなって言ったよな・・・?」

「ち、違うんだ!この剣をユーリの耳元に当てて、あの音でユーリを驚かそうと思っただけなんだ!」

「そんな事は何処かの森でやれ。ここには俺達以外にもエリィが居るんだぞ」

「ぐっ、このシスコン野郎め!」


スクードが何かを呟いた直後、ラグナは天井を突き破って何処かに飛んでいった。砕けた天井はスクードの魔法で元通りに出来るので、何の心配もいらない。


「おいユーリ、しばらく王都に滞在するのか?」

「ええ、そのつもりだけど」

「勘弁してくれ・・・」


額を押さえた兄を見て、エリィは苦笑した。

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