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6月20日 『カイン隊長の悩み』

「あ、カインさんおはよー」

「・・・おはよう」


たまたま街中で出会った男女。片方はクールな印象が漂う青年で、もう片方は明るい水色の髪が特徴的な人気者、第七騎士団隊長のリオン・サンドライトだ。


「どうしたんですか?今日王都の見回り任務に就いてるの私達ですよ?」

「家の中でじっとしているより、こうして王都を見て回っている方がいい。それに、犯罪を発見できるかもしれない」

「おおっ、なんかかっこいいですね!」

「そんなことは無い」


まるでスクードのようだが、彼は王都第三騎士団隊長のカイン・リヴェルテ。無口だがそれがかっこいいと騎士団の中でもかなり人気が高い青年である。


そんなカインだが、実はそんなに無口ではない。


(リオンちゃんにかっこいいって言われたァァァ!!!)


ただ人と話すのが苦手なだけで、心の中ではかなり荒ぶっているのだ。


(やっぱりリオンちゃんは俺の天使だぜまったく。朝から嬉しすぎて死んじまうところだった)

「どうかしました?」

「・・・いや、何でもない」


そんな彼だが、実はリオンに惚れている。こうして休みの日に見回りに参加しているのも単純にリオンに良いところを見せようとしていただけだ。


「リオン、もし良かったら一緒に見回りを───」

「あれ、あそこに居るのって・・・やっぱりお兄さんだ!」

「え」


勇気を出してカインがリオンに声をかけようとした瞬間、何かを見つけたリオンは笑顔で向こうに走っていった。


「お兄さん、おはようございます!」

「ん、リオンか。朝から見回りか?」

「はい!お兄さんは何してるんですか?」

「足りなくなった鉱石を知り合いのところに取りに行っていたんだ」


そんなやり取りをしている二人を見て、残されたカインは一体どういう関係なのだろうかと思った。


(〝お兄さん〟と言っていたし、昔から世話になっている人なのか・・・それとも実の兄なのかもしれない)


きっとそうだろうとカインは安心する。しかし、しばらくして戻ってきたリオンの顔を見た瞬間に彼は動揺した。


「ああ、やっぱりかっこよかったぁ」

「っ・・・!?」


頬を赤らめながら嬉しそうにそんな事を言うリオン。そんな彼女にカインは恐る恐る聞いてみる。


「・・・リオン、さっきの男性は?」

「お兄・・・スクードさんです。私の友達があの人の妹なんですよ」

「そ、そうなのか。しかし、そんな友達の兄に会っただけだというのに、随分嬉しそうだな」

「あはは。だって私、お兄さんのこと好きですもん」

「・・・ッ!!!」


雷が落ちたかのような衝撃がカインの全身を駆け巡る。


「す、好きというのは、兄のような存在として好きということか?」

「いえ、お付き合いしたいなーって感じの好きです」

「ーーーーーーッ!!?」


照れながら『言っちゃった』などと言っている彼女は、つまりスクードを恋愛対象として見ているということだ。


(あああああああああああああ!!!!)


心の中でカインは血の涙を流した。










▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼









「失礼します!!」


昼過ぎ、突然鍛冶屋に一人の青年が現れた。そんな彼を見てエリィが笑顔で挨拶する。


「いらっしゃいませ」

(え、待って。めちゃくちゃ可愛いんだけど)


その青年とは、先程衝撃の事実を知ってしまったカインである。彼はエリィを見た瞬間に更なる衝撃を受けた。


(馬鹿な・・・これがスクードという男の妹なのか?ちょっと可愛すぎだろおい!!)


リオン一筋のカインですら認めるエリィの可愛さ。まるで天使のような笑みを浮かべるエリィから目が離せない。


「おいお前、エリィを見に来ただけなら帰れ」

「っ!」


そんな彼の元に不機嫌な青年がやって来た。彼こそがカインのライバルとなるスクード・スミスである。


(こ、こいつ、よく見たらめちゃくちゃイケメンじゃねえかよ!)


後ずさるカイン。そう、スクードはめちゃくちゃイケメンだ。


(まさか、リオンちゃんはこいつがイケメンだから惚れたのか・・・!?)

「なんだお前。さっきから人の顔をジロジロ見て」

「いえ、何でも・・・」


睨まれてカインが更に後ずさる。スクードは完全にカインがエリィ目的でここを訪れたのだと勘違いしているようだ。


しかし、リオンが惚れているスクードがどんな男なのかを見に来たカインはまだ帰らない。


「か、鍛冶屋をやってるみたいですね」

「そうだが」

「武器を一つ欲しいんですが」

「なんだ、ただの客か。素材があるのなら今すぐ打ってやるが・・・」

「・・・素材ならいくつか持っていますが、時間がかかるので結構です」

「あ、あの、兄さんなら3分程度で武器作成が行えますよ?」

(な、なんだと・・・!?)


エリィにそう言われ、驚きながらカインがスクードを見る。


「素材によるがな」

「なら剣を一つ」

「いいだろう」


受け取った素材を持ってスクードが奥の部屋へと向かう。そして数十秒後、鉄を叩く音が鳴り始めた。


(しかし、リオンちゃんはなんで鍛冶屋なんかを好きになったんだろうか。あ、そういえば最近武器の槍が新しいのに変わってたな。もしかして、あれを作ったのがスクードって事か)


部下に槍を自慢していたリオンの姿を思い出す。あれは、好きな人から槍を貰えたからこその自慢だったのか。


「あの、どうかしましたか?」

「・・・ん?」

「さっきから怖い顔をしてたから、怒っているのかなと・・・」

「いや、別に何も無い」

「そうですか・・・」


変わった人だなぁと思いながらエリィが奥の部屋へと向かう。そんな彼女を見ながら可愛い妹がいるスクード爆ぜろとカインは心の中で思った。


「はい、お待たせしました」


数分後、エリィに手渡された出来立ての剣を見てカインは驚愕する。これまで見てきた武器の中でもトップクラスの美しさ。とても数分で完成させたとは思えない程素晴らしい剣がそこにはあった。


「・・・」


改めてスクードの顔を見る。イケメンで鍛冶屋としての腕も最高峰。しかし、それだけでリオンが惚れたとは限らない。


(今度リオンちゃんに話を聞いてみるか)


そう思いながら剣を手にカインは玄関に向かって歩き出した。しかし、後ろからスクードに肩を掴まれて鬱陶しそうに振り返る。


「・・・何ですか?」

「何普通に帰ろうとしてんだお前。金払っていけよ」

「あ、すいません」


引き止められて当然であった。








▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲








「え、ええ!?私がお兄さんを好きになった理由・・・!?」


夕方、たまたま王都でリオンを発見することが出来たカインはそう聞いてみた。するとリオンは真っ赤な顔を手で隠しながら悶え出す。


「あ、アーサーさんって今も魔王軍の一員として何処かに居るって思われてますよね・・・?」

「ああ、そうだな」


元第一騎士団隊長アーサー・ルークシード。大好きなリオンに大怪我を負わせた彼のことがカインは嫌いだ。


元々それほど良い印象を持っていなかったので、今回の件で騎士団から消えて良かったと少しだけ思っている。


「他の人達に言わないって約束してくれますか・・・?」

「っ、ああ」


つまり、二人だけの秘密。思わずカインはニヤけそうになったが気合いで耐えた。


「実はですね、アーサーさんと戦って死にかけてた私を助けてくれたのはお兄さんなんです」

「・・・え?」

「あのアーサーさんですら、お兄さんには手も足も出なかったんですよ」

「いや、それは有り得ないだろう」

「アーサーさん、強かったですもんね。でも、お兄さんはアーサーさんの何倍も強いんです」


目を見ればリオンがふざけていないという事は分かる。しかし、ただの鍛冶屋があのアーサーを上回る力を持っているということなど簡単には信じられない。


「だってお兄さん、〝魔人〟って呼ばれてる大魔導士ですから」

「っ・・・!?」

「これ絶対誰かに言っちゃ駄目ですからね!」


魔人。

それはこの世界を救った最強の魔導士の二つ名だ。


(あ、あの男が伝説の魔人・・・!?)

「それで、追い詰められたアーサーさんは魔法を使って魔物化して・・・トドメを刺したのは私なんですけど、お兄さんは色々気遣ってくれて・・・いつの間にか好きになってました」


照れながらそう言うリオンは本気でスクードの事が好きなのだと分かる。しかし、今は嫉妬よりも驚きの方が勝っていた。


「そう、なのか」


惚れて当然だ。

不機嫌の塊のような男だったが、きっとリオンの事を大事に思っているのだろう。


だからといって諦める男ではない。


(まさか相手があの魔人とはな。けど、リオンちゃんのハートを掴むのはお前じゃなくてこの俺だくそったれ!!)


顔は常に無表情だが、心の中は熱く煮えたぎっていた。


「リオン、もし良かったら今から食事でもどうだ?」


早速勇気を出して食事に誘ってみる。


「珍しいですね、カインさんがそんな事言うなんて。でも、今から鍛冶屋に行くので遠慮しておきますね」

「え」

「ラグナさん達も来るらしくて、皆で食事会を開こうって話になってるんです。その話をした時、うるさいから嫌だって言ってたお兄さんの顔がまた面白くて・・・」

「そ、そうか」


やっぱり勝てないかもしれない。楽しそうに話すリオンを見ながらそう思うカインであった。

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