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6月16日『リオンの恋』

「おはようございまーす!」


突然鍛冶屋に元気な少女の声が響いた。そんな少女の声を聞いて、素材を運んでいたエリィが笑顔で挨拶する。


「おはようリオンちゃん」

「おはよーエリィ。お兄さんは居る?」

「向こうで武器を作ってる最中だと思うよ」

「そっか、ありがと」


よく見ればリオンは全身に包帯を巻いており、まだあの時の傷が癒えていないという事が分かる。だというのに、リオンは痛そうな素振りは見せずに奥の部屋へと歩いていった。


「お兄さん、おはようございます!」

「む、リオンか」


長い棒のようなものを満足げに見ていたスクードに、リオンは敬礼しながら挨拶した。そんな彼女を見てスクードが呆れたような表情を浮かべる。


「まだ怪我が治っていないようだが」

「全然平気ですよ!もうこんな動きだって普通に・・・痛い!?」


腕をブンブン振り回したリオンが肩を押さえて涙目になる。やはり彼女は少々馬鹿のようだ。


「はぁ、ここに来るのは騒がしい奴らばかりだな。それで、今日は何の用だ?」


スクードにそう言われたリオンは急いで姿勢を正し、そして深く頭を下げた。


「きちんとお礼を言えていなかったので・・・。あの時は助けに来てくださって、本当にありがとうございました!」

「別に大したことはしていない」

「いえ、お兄さんが来てくれなかったら私は死んでいました。こうして私が生きているのはお兄さんのおかげなんです!」

「・・・まあ、そうなのかもな」


礼を言われて若干照れているのか、スクードはそう言ってリオンから目を逸らした。そして再び持っていた棒のようなものに目を向ける。


「あれ、それは何ですか?」

「ん、まあ、何となく作った槍というか」

「槍?」

「いつも使っている槍より、多分こっちの方が鋭い一撃を放つことが出来るだろう。後日渡そうと思ってたんだが・・・」


スクードがリオンに槍を手渡す。銀色の輝きを放つその槍は、以前からリオンが愛用している槍に見た目は似ているが、持った瞬間に前とは比べ物にならない程手に馴染むのが分かった。


「私に・・・ですか?」

「あの時の一撃を見て思った。強いお前にぴったりな武器を作ってやろうとな。まあ、これからも頑張れよという事で受け取っておけ」

「う、嬉しいです!ありがとうございます!」


受け取った槍を嬉しそうに見つめながらリオンがそう言う。やはり自分が作った武器を見て誰かが喜んでくれるというのはスクードにとっても嬉しいものだ。


「・・・あ」


そんな彼が笑っているのをリオンは初めて見た。微笑みなどではない。心底嬉しそうに笑っているのだ。


「っ・・・」


何故かリオンは目を逸らしてしまった。顔が熱くなる。その原因もイマイチよく分からない。


「どうした?」

「い、いえ、何でも・・・!」


そのままリオンがスクードの前から逃げるように去っていく。自分が余計なことを言ったりしてしまったのかと少しだけ不安になったスクードであったが、まあいいかと座り込み、また別の武器を作り始めるのだった。


「え、エリィ!どっ、どうしよう!」

「わっ、リオンちゃん!?」


家から飛び出したリオンは、混乱しながら玄関前を掃除していたエリィの肩を掴んでガクガク揺さぶる。


「何かあったの・・・?」


顔が真っ赤になっているリオンを見て、最初にエリィは兄が何かしたのかと思ったが、それは違うということをすぐに思い知らされる。


「わ、私、お兄さんのこと好きになっちゃったかもしれないよぉ!」

「ええっ!?」


新たなライバル誕生の瞬間であった。









▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲








「前からかっこいいなとは思ってたんだけど、昨日助けに来てくれてからなんかお兄さんのことばっかり考えちゃうようになって、それでさっきお礼を言った時にお兄さんの笑った顔を見てから顔は熱いしドキドキするし・・・うあぁぁ」


顔を隠しながらそう言うリオンは、まさに『恋する乙女』そのものだ。エリィはものすごく複雑な気持ちでリオンの話を聞いていた。


(でも、兄さんかっこいいしなぁ・・・)


自分もそうであったように、大ピンチの状況で颯爽と現れ、そして強い敵を圧倒して助けられたら殆どの女性は惚れてしまうのではないだろうか。


聞いた話によれば、彼女のトラウマとなったアーサー・ルークシードはこの国の騎士団の中で最も強い人物で、更に魔王軍の中でもかなり上の実力者であったという。


そんなアーサーですら、やはりスクードには手も足も出なかったらしい。


「ほんとどうしよ。これからまともに顔見れないかもしんない」

「ふふ、その気持ちはちょっとだけ分かるかな」

「あー顔が熱い」


リオンが手をパタパタさせて風を発生させている。そんな彼女の顔はリンゴのように赤くなっていた。


「でも、あんなにかっこいいお兄さんが居るエリィが羨ましいよ」

「確かに、私は他の人より得してるかも。毎日近くで刀を打ってるのとかも見れるし・・・」

「いいなぁいいなぁ。私もお兄さんの妹になりたい」

「それは駄目。兄さんの妹は私だけだよ」

「あらら、エリィにそんな事言われるなんて」

「私もリオンちゃんがそんな事言うとは思わなかった」


そう言って二人は笑う。さっきは『なっちゃったかも』と言っていたが、リオンは完全に恋に落ちたらしい。エリィも『妹は自分だけ』と言えるほど兄に惚れているようだ。


「リオン様!もうすぐ会議が始まってしまいますよ!」


しばらくスクードについて二人が語り合っていると、突然男性の声が聞こえてリオンは振り返った。


「げげっ、忘れてた・・・!」

「会議?」

「新しい隊長を決めなきゃならないの。というわけで今日はもう行くね!」

「あ、うん」


手を振りながらリオンが猛ダッシュで男性に向かって走っていく。そんな彼女を見てエリィは元気だなぁと思いながら、兄が居る鍛冶屋の中へと戻った。



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