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6月6日(2)『魔人VS光魔騎士』

「く、くはははははは!!まさか君の方から来てくれるとはねぇ、スクード・スミスッ!!」

「黙れ、声がでかい。お前は馬鹿なのか?人が妹と一緒に朝食を食ってる最中に家の中で魔獣を召喚するなんてよ」

「馬鹿ではないさ。それで、魔獣はどうしたんだい?家の中じゃ思うように戦えないだろう?」

「転移魔法で活火山の上に転移させて火口に落とした」

「・・・」

「・・・?なんだよその顔は」


呆然としているアーサーを見ながらスクードはゴキゴキと首の骨を鳴らす。


「まさかお前、あんな雑魚で俺を殺せるとでも思ってたのか?」


じわじわとスクードの身体から溢れ出す魔力。それはこの場を満たしていたアーサーの魔力を飲み込み、そして膨張していく。


「お兄さん、エリィは・・・」

「シルヴィが側に居るから大丈夫だ。それよりも自分の心配をしろ。怪我が酷いからあまり喋るな」

「えへへ、大丈夫ですよ。お兄さんが来てくれたから」


そう言うも、リオンは立ち上がることすら出来ない状態だ。このままだと命に関わると判断したスクードは、しゃがみこんでリオンの頭を軽く撫でた。


「寝てていいんだぞ?」

「うー、お兄さんが戦うとこ見てみたい・・・」

「ったく。まあ、とりあえずすぐに終わらせる」

「お兄さん・・・」


立ち上がろうとしたスクードの服をリオンが掴む。そんな彼女の目からは涙が溢れ出していた。


「仲間を殺されて、無念を晴らしてあげようと思ってたのに、手も足も出なくて・・・悔しいよぉぉ・・・」


いつも元気に笑っていた少女が初めてスクードに見せた涙。こうして仲間の為に涙を流せるリオンは、やはり素晴らしい人間の一人なのだろう。


「リオン、さっきあいつは英雄なんて居ないって言ってたな」


魔力がスクードの周囲を渦巻く。


「安心しろ。英雄が居なくても、〝魔人〟などと呼ばれている男ならここに居る」


次の瞬間、二人のやり取りを離れた場所で見ていたアーサーが突然真上に吹っ飛んだ。スクードが魔法で彼の真下の床を拳のように変え、猛スピードで殴り飛ばしたのだ。


「ぐっ、何故ここに俺達が居ると分かったんだ!?」

「リオンの魔力を感じたからだ」


スクードの手元が燃え上がる。


「俺からも質問だ。何故エリィを狙った」


そして炎は爆炎となり、猛スピードで天井に吹っ飛んでいくアーサーに向けて放った。


「気に入ったからさ!あれ程僕に相応しい女性はこの世に存在しないからね!何としてでも僕のモノにしてみせる!!」


爆炎が真っ二つに割れ、そして天井を破壊する。しかし聖剣で爆炎を斬り裂いたアーサーは無傷である。


「殺すぞお前。エリィ相手にお前程度じゃ釣り合わない。まあ、お前じゃなくても誰一人としてエリィに釣り合う男なんて存在しないがな」

「殺してみろよ、魔人スクードォッ!!」


天井を蹴り、アーサーがスクードに急接近する。しかしスクードは慌てることなく振り下ろされた聖剣を障壁でガードした。


「なるほど、やっぱりお前は魔王軍か」

「〝光魔騎士リヒトシュヴァルツ〟と呼んでくれたまえ!!」

「以前の四天王よりも遥かに格上・・・また面倒な戦いに巻き込まれる予感しかしないな」


アーサーが何度も障壁を斬りつける。その度に砦全体が振動する程の衝撃が駆け巡るが、スクードの障壁には傷一つ付かない。


「おいお前、砦が揺れたらリオンの傷に響くだろうが」

「知ったことか!死にぞこないの事などどうでもいいんだよ!!」

「そうか。少し調子に乗っているようだな」


放たれた魔力の壁が高速でアーサーに迫り、そしてそのまま彼を吹っ飛ばす。さらにスクードは転移魔法で彼の真上に移動し、風魔法で自身を加速させて空中で体勢を崩しているアーサーを踏んで地面に叩きつけた。


「この、クソッタレが!!誰を踏んでいるのか分かってるのかお前は!!」

「ゴミだが」

「ゴミはお前だろうがァァッ!!」


アーサーが魔力を放つ。そして輝きを放つ聖剣を振るい、自身を踏み付けているスクードを斬り裂いた・・・と思われたが。


「何処を見ている」

「なっ!?」


いつの間にかスクードは天井付近でフワフワと浮いていた。そんな彼の周囲には火球が数個浮遊している。


炎魔弾雨フレアレイン


それはスクードの言葉と共に爆ぜ、何十発もの小さな炎の弾丸となってアーサーに降り注ぐ。しかし流石は第一騎士団隊長、その全てを聖剣で弾いていく。


「まあ、お前が凄くても休ませはしないがな」


そんなアーサーを今度は風の弾丸が吹っ飛ばした。さらに光の光線が天井に描かれた魔法陣から放たれてアーサーの身を焼く。


「がはっ!?このデタラメ魔法使いめ・・・!!」

「なあお前、転移魔法は使えるか?」

「使えるに決まってるだろうが!!」

「チッ、転移魔法で場所を変えてもすぐに戻って来れるのか。リオンが居るから固有スキルを使えないんだよ」

「固有スキルだとぉ?」

「エリィを泣かせ、そしてリオンも泣かせた。俺は今お前を殺したくて仕方が無い程イライラしているんだがな・・・!」


砕けた床が集まって剣となり、背後からアーサーを斬る。それによって一瞬だけ怯んでしまったアーサーを中心に竜巻が発生し、スクードが魔法を唱えてそれを燃え盛る炎の渦へと変化させる。


「ぐあああっ!?」

「どうした、その程度なのか?」

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れえええッ!!!」


炎の渦が消し飛び、中から飛び出したアーサーがスクードに斬りかかった。しかし、彼が聖剣を振り上げた瞬間にはスクードは転移魔法で別の場所に移動し、そこから目にも止まらぬ速さで魔法を放っている。


それの繰り返しであった。何度も何度も魔法を食らい、徐々にアーサーは追い詰められていく。


「僕だってまだ本気を出してないんだよ!!」


そんなアーサーが膨大な魔力を聖剣に纏わせ、別の場所に転移したスクードに向かって駆け出す。


「受けてみろ、最速の斬撃を・・・!!」

「ん?」

滅刃瞬殺閃めつじんしゅんさつせんッ!!!」


放たれたのはリオンが見せた高速の突きよりも遥かに速い斬撃の嵐。だがそれも、魔人相手には遅すぎた。


「シルヴィの方が速い」


その声が聞こえたのはアーサーの背後から。斬撃が届く前にスクードは転移魔法を発動していたのだ。


「馬鹿な!?いくら何でも速すぎる!!転移魔法発動には最低でも五秒はかかるはずだ!!」

「そうなのか?」


スクードクラスになると、他よりも魔法発動までの時間が短くなるようだ。それは、魔導を極めた者のみがたどり着ける領域である。


「そうだとしても、シルヴィは俺が転移魔法を発動して別の場所に移動するよりも速く攻撃してくるぞ」

「化け物共めが!!」

「遅い」


振り向きざまに聖剣を振るうが、既にスクードは別の場所に転移している。


「さて、そろそろ終わらせるか」

「っ・・・!」

「エリィ達に手を出したこと、死んで詫びるがいい」


アーサーの身体がふわりと浮き上がる。その瞬間、膨大な魔力がアーサーを包み込んだ。


「爆ぜろ、〝ダークインフェルノ〟」


魔力は漆黒の炎となって爆発し、スクードの前方を吹き飛ばす。そんな光景を見ながらリオンは震えた。


魔人の力はこれ程のものだったのかと。


「が、ぐぁ・・・」

「なんだ、まだ生きていたのか。まあいい、少し気になったことを一つ教えてもらおう。第一騎士団の連中はここに居ないのか?」

「ぐ、クク、別の街に居るさ・・・。だから誰も居なくなったここにリオンを呼び出したというのに・・・!」


倒れながら砕け散った聖剣の柄を握り、憎悪に満ちた瞳でアーサーがスクードを睨みつける。それでもスクードは全く怯まない。


「それは残念だったな。あ、質問はまだあった。お前がエリィを狙った理由は他にもあるんだろう?」

「ああ、あるさ・・・。お前を殺すためだ、スクード・スミス!!」

「俺を殺したいのなら堂々と来いよ。いちいちエリィを巻き込むなゴミ野郎が」


スクードの魔力がバチバチと音を立てる。それを聞いたアーサーは、スクードが雷魔法でとどめを刺そうとしている事を悟った。


「悔しいなぁ。この僕が負けるなんて・・・」


そんなアーサーが魔法を発動する。その直後、巨大な魔法陣が彼の真下に出現し、彼の身体が鈍く発光した。


「・・・何をするつもりだ?」

「僕はね、この世界を支配するのが夢だったんだ」

「は?」

「シンプル且つ壮大な夢だろう?まずは人間界を支配し、そして魔王軍を叩き潰す。それによって僕は全世界の支配者となるんだ」

「無理だな。まずお前は俺に勝てないし、あの魔王にすら勝つ事は出来ないだろう」

「そうだろうね。どうやら()()()()()()君にも魔王にも勝てないらしい」


ゆらりとアーサーが立ち上がる。


「だけど、僕は最強に至る為の力を手に入れたんだッ!!」


閃光が迸り、アーサーを中心に凄まじい魔力が渦巻いた。何も見えない状況の中、スクードはリオンの魔力を探って彼女の前に転移し、そして障壁を展開する。


その行為は正解であった。展開と同時に猛スピードで何かが障壁に衝突したのだ。溶けかけの腕のような巨大なソレは、障壁を破壊する為に何度も衝突を繰り返す。


「アーサーさん・・・」

「あいつ、人の身体を捨てやがった」


やがて光が収まり姿を現したのは異形の存在。全身がドロドロに溶けた巨大な怪物。まるで溶けたゴーレムのようなその怪物は、スクード達を視界に捉えて高らかに笑う。


『アッハッハッハッハ!!ツイニ、ツイニぼくハ究キョクの肉体ヲ手二イレタ!!ちからガ溢レル・・・今ノ僕八オマエヨりモツヨイぞ、スくード・すミスッ!!!』

「チッ、面倒なことを」


スクードが放った雷魔法が異形の存在と化したアーサーの身を焼く。しかし彼の身体は溶けてはいるが、すぐに再生した。


『シィィネェェェ!!!!』


そんなアーサーが暴れ狂う。全身から何十本もの腕が生え、それを振り回して砦中を破壊し始めたのだ。


「〝ダークインフェルノ〟」


障壁を展開しながらスクードが漆黒の炎を放った。それが暴れるアーサーの腕に触れた直後、彼の身体全体が一気に炎上する。


『ギィヤアアアアアッハッハッハッハァァッ!!!』

「再生能力が高い・・・。奴にとっての心臓は何処にある?」


次に氷の槍を何十本も造り出し、炎を消したアーサーの身体に弾丸の如く撃ち込む。しかしそれでもアーサーの暴走は止まらない。


『ソンナもノぉキカナインだヨオオオオオオ!!!』

「・・・多重障壁展開」


遂にスクードの障壁が砕け散るが、更に何十もの障壁が展開されてアーサーの攻撃を防ぐ。しかし、このままでは埒が明かない。


(今のこいつは転移魔法を使えるのか?いや、俺がリオンを別の場所に移動させて固有スキルを発動すればいいのか。チッ、その考えが頭から抜け落ちていたな・・・)


そう思い、スクードが後ろを振り返る。


「おい、何をしてる」


驚いてスクードが目を見開く。彼の背後では全身傷だらけのリオンが槍を構えて立っていたのだ。


「私、きっと分かります・・・」

「ん?」

「一撃で〝コア〟となる部分を破壊すればいいんですよね?私、それが出来る気がするんです・・・」


それは確かにスクードがしようとしていた事だ。だが、それを重症の少女にさせるわけにはいかなかった。


「駄目だ。怪我が悪化するかもしれないぞ」

「これは、私がやらなきゃならないんです・・・!」


強い意志を宿した瞳で見つめられ、スクードは少しだけ考え込んだ。そして、やれやれと溜息を吐く。


「一発勝負だからな」

「任せてください」


リオンが残りの魔力全てを槍に集め、そして技を放つ体勢をとる。何処で彼は道を踏み外してしまったのだろう・・・ぼんやりとそう思いながら。


『リイィイオオオンンンンンンッッ!!!!』


アーサーの声が響き渡る。そんな中、リオンは異形と化したアーサーの〝核〟がある場所を突き止めた。


何故其処にあると分かったのか。それはリオンにも分からない。しかし、その瞬間に彼女は全力の一撃を放った。


「そこだァァッ!!!」


閃光がアーサーを貫く。その一撃は、体内を移動し続けていたアーサーの核を破壊することに成功する。


『アァ!?アアァアアアァァァアアッ!!?』


異形の身体が形を保てなくなり、ベチャベチャと崩れ落ちていく。地面に落ちた箇所は煙を上げながら消滅し始めた。


「・・・さよなら、アーサーさん」

『イヤダァァ!!しニタクナイヨオオオオッ!!!』


それが、第一騎士団隊長アーサー・ルークシードの最期の言葉であった。










▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼










「はぁ、はぁ・・・」

「驚いたな。まさか本当に核を破壊するとは」


倒れそうになったリオンを支えてやり、消滅していくアーサーだったものを見つめながらスクードがそう言う。


スクードですら簡単には行えなかった芸当を、リオンは一度の攻撃でやってみせたのだ。


「う、うぅ・・・」


そんな彼に支えられながらリオンが涙を流す。


「もしかしたらって思ってたけど、最後まで信じてたかったのに・・・」

「リオン・・・」

「あ、あはは。ごめんなさい、泣いちゃって・・・」

「気にすることは無い」


リオンの頭を軽く撫で、スクードは言う。


「我慢する必要なんてない。泣きたい時は遠慮せずに泣けばいいんだ」

「っ・・・うっ、うわあああああん!!!」


スクードの胸に顔を埋めながら、リオンは溜め込んでいたものを吐き出すかのように号泣した。






後日、アーサーに関する調査が行われ、魔王軍との繋がりを決定づける資料や例の魔法陣が描かれた紙などが彼の部屋などから発見された。


それによって再びこの世界に魔王が蘇った事を王国に住む人々は知り、誰もが英雄の復活を待ち望むこととなる。


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