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6月2日(2)『危険人物』

やはりというべきか、帰宅したスクードにエリィが先程起こった出来事を伝えた瞬間スクードは激怒した。


「で、でもね。殺すなんて言わないで欲しいな・・・」


そしてアーサーを殺そうと家から出ようとしたスクードを、優しいエリィは急いで引き止めた。それに対してスクードは何故止めたんだとでも言いたげな表情を浮かべる。


「怖い思いはしたけど、私のせいで兄さんが誰かを殺すのなんてやだよ。それに、アーサーさんも話せば分かってくれるかもしれないし・・・」

「しかしだな、あいつを生かしておくと良くない気がするんだ」

「でも・・・」

「・・・」


じっと見つめられ、スクードはやれやれと頭を掻いた。


「次あいつがエリィに何かしたら、その時はあいつを地面に埋めるからな」

「う、埋めちゃだめだよ」

「とりあえずエリィを一人にすると危ないな。しばらく俺が一緒に居ることにしようか?嫌ならシルヴィ達に頼むが」


自分から頼もうとしていた事を先に兄に言われ、エリィは言いたかったことを口にする。


「に、兄さんに居てほしいな・・・」

「そうか。ならそうしよう」

(や、やった。言えた・・・!)


内心物凄く喜びながら、エリィはにやけている口元を手で隠した。それとほぼ同じタイミングで玄関の扉が開き、見知った人物達が中に入ってくる。


「おーっす、遊びに来たぜ」

「あれ、なんかエリィちゃんすごい嬉しそうね」

「あ、いや、これはその・・・」


ラグナとユーリが顔を隠しているエリィを弄り始めた。スクードはそれをやめさせようとしたが、ラグナ達と共に鍛冶屋を訪れたシルヴィに声をかけられて振り返る。


「どうした」

「先程気になる話を外で聞いたので、スクード様に報告しておこうかと」

「気になる話?」

「王都第六騎士団隊長が何者かに殺害されたという話です」

「何・・・?」


まず初めに思い浮かんだのは昨日ここを訪れたリオン。彼女は無事なのだろうか。


「王都内にある小屋の中で遺体が発見されたそうで、椅子に縛られた状態で身体を刃物で切り裂かれていたとの事です」

「・・・」

「スクード様?」


シルヴィは言っていた。


『魔王は生きている』・・・と。


騎士団隊長の実力は知らないが、隊長を任される程の実力者を誰かが殺害した。それは魔王の仕業なのではないだろうか。


「シルヴィ、これから新しく情報を仕入れたら俺に教えてくれないか?どうも嫌な予感がするもんでな」

「はい、私でよければ」

「無理はするなよ?もしこの件に魔王が関わっているとすれば、俺達もそれに巻き込まれる可能性が高い。危険だと思ったら情報収集を中断してもいいからな」

「大丈夫です。スクード様の為ならば如何なる場所にでも行きましょう」


そう言ったシルヴィの頭をスクードが軽く撫でる。そして赤くなっている彼女を顔を見てスクードはしまったと思い手を引いた。


エリィの頭を撫でるのが昔から癖になっているので、他の少女にもたまに同じことをしてしまうのだ。


「失礼します!!」


そんな時、突然玄関の扉が勢いよく開いて中に少女が駆け込んできた。そして彼女はいつもとは違い、真剣な表情でスクードに顔を向ける。


「なんだ、リオンか」

「どうしても言いたい事があって。あ、でも、今お取り込み中でしたか?」

「いや、大丈夫だ」


スクードがリオンの元に向かう。


「何かあったのか?」

「第六騎士団隊長殺害の話はもう聞きましたか?」

「ああ、ついさっき聞いたばかりだが」

「急にこんな事を言うのはどうかとは思うんですけど、私はアーサーさんを疑ってます」

「ふむ・・・」


突然の発言にスクードは少しだけ驚いた。


「なるほど、興味深い話だな。とりあえずあっちで話の続きを聞かせてもらおう」

「分かりました」


向こうにある椅子にリオンが腰掛ける。事情が気になったラグナ達も彼女の周囲に集まった。


「それで、あのゴミが犯人である可能性が高いと?」

「私がそう思ってるだけなんですけどね。まあ、他の騎士団員達はアーサーさんの事を凄く信頼してるから言っても批判されるだけだと思いますが・・・」

「奴が何かしたのか?エリィを怖がらせたりはしていたが、人を殺すような男なのかどうかは知らんからな」

「私もそう思います。でも、最近ちょっと様子がおかしいんですよ」


服の裾を握りながら、リオンが最近のアーサーについて語り出す。


「いつも笑ってますけど、本当は笑ってないような気がして・・・。なんというか、全て嘘で塗り固めているかのような存在に見えるんです」

「へえ、俺と同じことを思っていたのか」

「お兄さんも?」

「顔を合わせた時、俺はあいつが何を考えているのか全く分からなかった。エリィに近づいたのにも別に理由があるような気がしたんだ」

「そう、ですか。今日も仲間が殺されて、あの人が私達に招集をかけたのに当の本人はエリィに何かしようとしてたんですよ」


その時のことを思い出してエリィの身体がぶるりと震える。


「その後仲間の遺体を見て、皆と同じようにアーサーさんも悲しんでました。でも、私には彼が口元を押さえながら笑っているように見えたんです。もし違ったら最低なのは私なんですけどね・・・」

「ふむ、アーサー・ルークシードか。やはり消しておいた方がいい気がするんだが」


そんな会話を聞きながら、ユーリは隣で黙り込んでいるラグナに声をかける。


「どうしたの?」

「アーサー・ルークシードって確か、〝聖剣エクスカリバー〟の使い手だったよな?」

「はい・・・って、どうして知ってるんですか?」

「俺も聖剣使いだからな」

「聖剣使い?え、まさかあなたって」

「リオン、ここに居るのは俺の仲間達だぞ。聖天勇者に破壊王、そして灰の死神と言えば分かるだろう?」

「え、ええええ!?」


驚いたリオンが立ち上がり、そして勢いよく頭を下げた。


「は、はじめまして!リオン・サンドライトです!」

「いやぁ、はじめまして。すっげえ可愛いね、リオンちゃんって」

「またそういう事を言うのかこの馬鹿は」

「黙ってろラグナ。リオン、あまり深く探るのはやめておけよ?何かあればすぐに言いに来い」

「はい、分かりました!」


そう言うとリオンは急いで玄関へと向かい、そして改めてスクード達に頭を下げる。


「すみません、今から今後についての会議があるので失礼します!」

「ああ、気をつけてな」


外に飛び出していったリオンを見届け、スクードはラグナ達に顔を向ける。


「・・・という事だ。アーサー・ルークシードは要注意人物として認識しておいてくれ」


スクードの言葉を聞き、全員が頷いた。







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