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三年前『灰色の少女 前編』

「はあ〜、食った食ったぁ」

「幸せすぎて泣きそう・・・」

「お前ら、そんなんでこの先どうするつもりだったんだよ」


スイセンという町に立ち寄ったラグナ達は、何よりも先に料理店に駆け込んだ。そして途中で出会ったスクードに感謝しながら大量の料理を注文し、それを短時間で平らげる。


「そんなに食って、金は持っているのか?」

「ええ、持ってるわよ」

「こんだけあれば足りるだろ」


スクードの前にラグナが袋を置く。その中身を机の上に出してみると、何枚かの硬貨が出てきた。


「・・・5千ゴルド」

「村を出る時に村長がくれたの。結構お金持ちでしょ、あたし達」

「・・・」


スクードが額を押さえて黙り込む。それが何故なのか分からずにユーリは首を傾げた。


「お会計3万8千ゴルドです」

「万!?」


その後、店員にそう言われたユーリは目を見開いた。村から殆ど出たことがない彼女にとって5千ゴルドは大金だ。だからそれだけあればお釣りがでると思い込んでいたというのに。


「ど、どうしようスクード」

「はあ、仕方ないな」


スクードが財布の中から紙幣と硬貨を何枚か取り出し、それを店員に渡す。


ちなみにゴルド硬貨にも種類がある。1ゴルド硬貨、10ゴルド硬貨、100ゴルド硬貨、500ゴルド硬貨だ。


紙幣は千ゴルド紙幣、5千ゴルド紙幣、1万ゴルド紙幣がある。


「はい、丁度ですね」

「なんで殆ど食べていない俺がこんな額を払わなきゃいけないんだよ・・・」

「ごめんなさい!」


やれやれと項垂れながらスクードが店から出ていく。そんな彼を二人は急いで追った。


「ありがとね、スクード」

「お前達と居ても俺が損するだけというのがさっきのでよく分かった。だからここからは別行動だ」

「ちょっと待てよ!じゃあ俺達何処で寝ればいいってんだ!」

「知らん」

「ええー、もう野宿は嫌だよぉ・・・」

「その目で俺を見るのはやめろ、ユーリ。そんな事を言われても俺は知らんぞ」

「スクードぉ・・・」

「あーもう、分かったよ。今日だけだからな、宿代を出してやるのは」

「やーん、スクード大好き!」


その大好きにラグナが反応した。


「おいユーリ、お前まさかスクードの事が好きなのか!?」

「は?いきなり何言ってんのよ」

「だって今大好きって・・・」

「そ、そういう意味と違うでしょうが!ていうか、別にあたしが誰を好きになってもあんたには関係ないじゃん」

「い、いや、それは・・・」

「スタイル抜群の美少女と旅したいって言ってたし」

「ぐっ・・・」

「先行ってるぞ」

「待ってくれスクード!今この状況で俺を一人にしないで!」


歩き出そうとしたスクードの肩をラグナが掴む。それに対してスクードは心底面倒くさそうな表情を浮かべた。








▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼








「はあ、なんで俺があいつらの面倒を見なきゃならないんだ」


先に宿屋に向かった二人と一旦別れ、現在スクードは町の中を歩いていた。あの二人と居ると頭が痛くなるのでしばらく別に行動する事にしたのだ。






────そして、それはまるでスクードが一人になるのを狙っていたかのような襲撃であった。


「・・・ん?」


突然背後から感じた殺気。何事かと思いスクードが振り返った瞬間、猛スピードで刃物が彼の喉元に迫っていた。


「おい、危ないだろう」


しかし、それはスクードが展開した障壁に弾かれる。


「女・・・のようだな」

「っ・・・」


スクードの背後に立っていたのは、灰色の髪を伸ばしっぱなしにした少女。手にはナイフを握りしめており、それでスクードを殺すつもりだったのだろう。


そんな少女は急いでこの場から離脱しようとしたが、その前にスクードが腕を掴んだので尻餅をついた。


「何か用か?」

「・・・」


立たせてやり、身体の正面を自分の方に向けるが、少女は俯いたまま何も喋ろうとはしない。


「おーい」

「・・・」


頬を引っ張ってみても喋らない。肩を揺らしてみても喋らない。ちなみに念のためナイフは魔法で粉砕したので刺される心配は無い。


そんな時だった。

グウゥ〜という可愛らしい音が少女の腹付近から聞こえたのは。


「・・・ふむ」

「っ・・・」

「とりあえず何でもいいから喋ってほしいんだが。まあいい、腹が減っているのならこれを食べるといい」


腹を押さえながら俯く少女にスクードが手渡したのは、先程町を見て回っている時に購入していたハンバーガーという食べ物。腹が減った時用に買ったものだが、スクードは気にせず少女にそれを無理やり持たせる。


「・・・なんで」

「ん?」

「私、貴方のこと殺そうとしたのに・・・」

「おいおい、普通に喋れるんじゃないか。その事は別に気にしていない。何か理由があってしたんだろう?まあ、後で話は聞かせてもらうから、まずはそれを食べてみろ」


そう言われ、少女は恐る恐るハンバーガーを食べた。前髪で目は見えないが、ポタポタと地面に落ちるものはきっと少女が流した涙だろう。


「美味しい・・・」

「別に全部食べていいからな。あ、急いで食べて喉詰まらせるなよ?」


妹の面倒を見てきたスクードが、まるで妹を相手にしているかのように少女に言う。それに対して少女は頷きながら、ゆっくりゆっくりとハンバーガーを食べていった。








▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲








「ちょ、スクード。誰よその女の子は」

「シルヴィ・ベアトリクス・・・だそうだ。さっき殺されそうになったからハンバーガーをあげて、今まで話を聞いていた」

「殺されそうになった!?」


宿屋の一室でスクードの隣に座る少女を見たユーリが拳を構える。しかし、別に悪い子ではないとスクードに言われて彼女は構えを解いた。


「へえ。髪の毛ボサボサで顔が見えないけど、切ったら意外と美少女かもな!」

「何言ってんのよこの女たらし」

「ひでーなぁ」


そんな二人のやり取りをぽかーんと見つめているシルヴィに、スクードは別に悪い奴らじゃないと伝える。


「ラグナ、ユーリ。シルヴィが俺を狙った理由・・・それは魔王軍四天王の一人に命令されたからだそうだ」

「えっ!?」

「そいつの名は〝クレイグ〟。俺も一度訪れたことがあるチリープという町に居座っているクレイグは、シルヴィ曰く巨大な人型の豚のような姿をしているらしい。どうやら俺達の動きは相手にバレているようだな」

「まじで?」

「お前は四天王の一人に勝った聖剣使いだろう?そんなお前は当然魔王軍に監視されているし、お前と共に行動し始めた俺も魔王軍の監視対象に加えられたというわけだ」


そう言ってスクードがシルヴィに顔を向ける。


「俺が気に食わないのは、クレイグって野郎がこんな少女を奴隷のように扱っているところだ。幼い頃からシルヴィはクレイグに殺人を教養されていたようでな。独学で暗殺術を身に付けたらしい」

「なんだ、その豚野郎は魔王が現れる前から地上に居たのか?」

「そうだろうな。恐らくだが、独自に人間界侵略でも行おうとしたいた時に魔王が現れ、そして部下にされたんだろう」

「ははっ、だっせー」


笑いながらラグナがベッドの上に寝転がる。


「そいつをぶっ倒すのがとりあえずの目標だな。その前に今日はもう寝ます」

「あたしも疲れちゃった。また明日話の続きをしましょ」


ユーリも自分が選んだベッドにダイブし、布団の中に潜り込んだ。ちなみに二人共、川で身体は洗っているので別に汚くはない。


「・・・」

「・・・」


暫くして、ラグナとユーリの寝息が聞こえ始めた。よっぽど疲れていたのだろう。それが分かり、スクードは苦笑する。


「シルヴィも寝るか?」

「い、いえ、私は・・・」


シルヴィが着ている服はボロボロでかなり汚れている。それによって綺麗なベッドを汚すのは駄目だと思い、彼女は遠慮しますと呟いた。


「ならこれがある」


どんな返事が返ってくるか分かっていたスクードは、いつも持ち歩いている大きなリュックの中から彼が寝る時に使っていた布団一式を取り出し、それを床に敷く。


「あ、あの・・・」

「遠慮するな。寝心地は悪いかもしれないが、直接床に寝転ぶよりはマシだと思うぞ」

「でも、汚してしまいます・・・」

「俺は気にしない。ぐっすり寝て身体を休めろ」


そう言われ、シルヴィは自分の前に座っているスクードをじっと見つめた。


「どうして貴方は私なんかに優しくしてくれるんですか・・・?」

「妹を見てるみたいで、どこかほっとけないんだよ」

「妹・・・」

「とりあえず寝ろ。また明日そこで寝ている馬鹿達の事も紹介する」


軽くシルヴィの頭を撫で、スクードもベッドの上に寝転んだ。


「・・・」


最初はどうしようかかなり悩んだシルヴィだったが、スクードが敷いた布団の上に寝転がる。そして温い掛け布団を身体の上に掛けた。


「・・・何してるんだろ、私」


天井を見つめながらそう呟く。殺そうとした相手に優しくされ、そして同じ部屋で寝ている。今別の凶器で殺そうと思えば殺すことは恐らく可能だが、何故かそのような気にはなれなかった。


こんなにも誰かに優しくされたのはこれが初めてである。ずっと人を殺すためだけに育てられてきたシルヴィにとって、これ程嬉しいことはこれまで一度も無かった。


もしも、これからもこの人と一緒に居ることが出来たら。ぼんやりとそう思った瞬間、突然彼女の頭の中に聞き覚えのある声が響いた。


『シルヴィ、どうやらターゲット殺害に失敗したようだな。一度帰ってこい』

「っ・・・」


彼女が持ち歩いている念話石。そこから直接脳にクレイグの声が届いているのだ。


『そのままそこにいても、お前はそいつらを殺そうとしないだろ?今すぐ戻れ。帰ったらまた〝調教〟しなきゃなぁ』

「・・・」


身体が震える。帰りたくない。

それでも、彼女は思いに反して立ち上がった。


何年も叩き込まれてきた『主に逆らってはいけない』という決まりが、自由を知りかけていた彼女の心を再び縛り付ける。


「わかり、ました・・・」


そして、シルヴィはスクード達の前から姿を消した。






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