5月13日『四人の英雄』
「えーと、要するに刀鍛冶世界大会の会場で戦ってたのがあたし達だって事を知って、こちらに向かおうとした時に魔王にやられちゃったってわけか」
「ええ、そうです。それにしても、まさかスクード様が鍛冶屋を営んでいらっしゃるとは思いませんでした。ですが、真剣に刀を打つスクード様も素敵です・・・」
「シルヴィちゃん!三年経って俺を見た感想は?」
「特に何も」
そんな会話が聞こえているのか聞こえていないのかは不明だが、彼等が居る部屋から離れた場所にある鍜治場でスクードは刀を打っていた。いつものように素材同士を融合させ、熱されたそれを槌で叩く。
「にしても、毎日あんなことをよく続けられるよなぁスクードも。俺なら一日で飽きちまうと思う」
「それは貴方だからでしょう?そこがスクード様と貴方の違いなのです」
「ぐっ、シルヴィちゃんはスクードの味方だもんなぁ」
「あたしもスクードの味方だけどね〜」
「おいこら裏切り者め!」
「あたしがあんたの何を裏切ったのよ」
「別にいいもんね。俺にはエリィちゃんが居るからな!」
「エリィに何かしたら埋めるぞ」
作業中のスクードの声を聞いたラグナの肩が跳ねる。
「あいつ、話聞いてやがったのかよ・・・」
「スクード様はエリィ様を大切に思っていらっしゃるのですね」
「俺のことも大切に思って欲しいもんだ」
ラグナが机に突っ伏す。そんな彼の頭をユーリが軽く小突いた。
「あんたは女ったらし過ぎるのよ」
「えー、そうかぁ?」
「心の底から誰かを好きになった事はあるの?」
そう言われてラグナの表情が僅かに変化する。しかし、それにユーリもシルヴィも気付かない。
「・・・はは、どうだろうな」
「だから貴方はダメなんですよ。まったく、スクード様を見習ってください」
「あいつのどこが良いんだよぉ」
「スクード様ほど素晴らしいお方は何処を捜しても見つかることは無いでしょう。私のような女にでも手を差し伸べてくださる優しい心を持っていて────」
「シルヴィ、ちょっと来てくれないか?」
「少々お待ちください」
スクードに呼ばれた瞬間、先程までの無表情とは違ってとても嬉しそうな表情を浮かべ、シルヴィが向こうの部屋へと歩いていく。それを見ながらラグナはため息を吐いた。
「くっそー、やっぱ俺って何をしてもスクードに劣るんだよなぁ」
「・・・そんな事はないんじゃない?」
「お?」
「あんたにはあんたの良さがあるんだからさ」
目線を合わさずにユーリがそう言う。そんな彼女の手をラグナは満面の笑みを浮かべながら握ってブンブン振った。
「ちょ、何よ・・・」
「やっぱユーリはいい女だな!」
「な、何言ってんのよ馬鹿!」
照れたユーリが軽くラグナを叩く。それだけでラグナは吹っ飛んで壁に激突した。最早お約束とも言える光景なので、派手な音が聞こえても向こうに居るスクードは何も言わない。
「ん、これ。元のダガーにマグナ鉱石と海竜石を合わせて強化してみた」
そんなスクードは、さっきから打っていた武器を完成させてシルヴィに手渡した。それはシルヴィがずっと愛用してしたダガーである。
「す、スクード様が私に武器を・・・?」
「新しく作ったんじゃなくて強化しただけだがな。それでも前より切れ味は増してる筈だ」
「あ、ありがとうございます!」
あまりの嬉しさに普段笑わないシルヴィが笑った。それを遠くから見たラグナとユーリは物凄く驚いているが、目の前にいるスクードの表情は変わらない。
「一生大切にします・・・!」
「そう言ってもらえると嬉しいな」
しかし、喜んではいるようだ。
「さて、少し話したいことがあるから一度集まるとするか」
「了解です」
そんなスクードが立ち上がり、シルヴィと共にラグナとユーリがいる場所に向かう。そして真剣な表情で彼等に目を向けた。
「作業が終わったから話をしよう。そのために今日は集まってもらったからな」
「魔王関連か?」
「ああ、そうだ。昨日言ったとおり、魔王はまだ生きている」
それを聞き、ラグナとユーリも表情を切り替える。
「こうしてシルヴィに洗脳魔法をかけ、そして俺達の元に送り込んできたということは、あいつはまだ俺達とやり合うつもりらしい」
「チッ、めんどくせえ野郎だなー」
「だが、まだ俺は魔王の居場所を特定出来ていない。だからしばらくの間はこのまま鍛冶屋を続けさせてもらう」
「うんうん、エリィちゃんもいるからね」
「お前らは今後どうするつもりだ?」
その問いにラグナとユーリは顔を見合わせ、そして当たり前だと言わんばかりの笑みを浮かべた。
「当然王都に留まらせてもらうわ」
「俺達四人が居れば魔王なんて敵じゃねーよな!」
「ふむ、そうか」
どうせそういう返事が返ってくるのだろうと思っていたスクードは、次に隣に立つシルヴィに顔を向ける。
「シルヴィはどうする?」
「私は・・・」
少しだけシルヴィが言葉に詰まる。しかし、覚悟を決めたような表情で彼女はスクードの目を真っ直ぐ見つめた。
「スクード様と共に戦います。貴方の為ならば、この命が果てようとも戦い続けると誓いましょう」
「何を言ってるんだ。俺は誰も死なせるつもりは無いよ」
「にっひっひ、なかなかカッコいいことを言うじゃないかスクード」
「・・・いつから居たんだ」
「ついさっきだよ」
そんな彼らの前に突然ベルが姿を見せた。見た目は完全に幼い子供だが、彼女はスクードが師匠と呼ぶ程の実力を誇る大魔導士である。
「これならもう心配しなくても良さそうだ」
「何をだ?」
「ウチはそろそろ帰るとするよ。老人は家が恋しくてね」
「そうか、ならこれならも気をつけろよ」
「にっひっひ、あんたに心配される程なまっちゃいないよ馬鹿タレ」
ベルが転移魔法を発動する。そんな彼女を見送るため、座っていたラグナとユーリも立ち上がった。
「ベルさん、短い間でしたがお世話になりました」
「荷物運び役が必要な時はまた呼んでくれるといつでも駆けつけるっすよ!」
「それはいいね。是非頼むよ」
魔法陣の光が増す。その時、ようやくシルヴィがベルに声を掛けた。
「あ、あの、私・・・」
「別に気にしちゃいないさ。ま、これからもスクード達をよろしく頼む」
「っ、はい」
「にっひっひ、それじゃあね〜」
そう言ってベルが軽く手を振った直後、彼女はスクード達の前から姿を消した。
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「いいじゃんいいじゃん。ちょっと向こうで喋ろうよ」
「い、いえ、結構です・・・」
二人の男に絡まれ、エリィは若干怯えながら後ずさる。力が全然無い彼女は、腕を引っ張られでもすれば抵抗する事も出来ないからだ。
「ほんと可愛いね、君」
「や、やめてください!」
男がエリィの腕を掴む。その瞬間、精一杯力を込めて男から離れようとするエリィだが、男達から逃れることが出来ない。
「ははは、それじゃあ行こうか」
「何をやってんだこの馬鹿共が」
「いてえっ!?」
思わずエリィが泣きそうになった時、突然男が尻付近を押さえながらうずくまった。そんな彼の背後には、鬱陶しそうな表情を浮かべながらベルが立っている。
「べ、ベルさん・・・」
「最近の若いのはすぐこういう事をするんだねぇ。少しはウチの馬鹿弟子を見習えってんだ」
「な、何カンチョーしてんだこの糞ガキ!!」
「やかましい」
男が二人同時に吹っ飛ぶ。ベルが魔力の弾丸を放ち、それを彼らにぶつけたのだ。
「あ、ありがとうございます」
「にっひっひ、可愛いってのも大変だねぇ」
「え、いや、可愛いなんて・・・」
「あんたは少し心配だね。今みたいにしょっちゅう絡まれてるんじゃないのかい?」
そう言われ、エリィが兄さんには言わないでくださいねとベルに伝える。
「ったく、何かあったらすぐスクードに言うんだよ?魔王に攫われたって話を聞いたけど、スクードだってあんたの事を心配してるんだからね」
「それは分かってます。でも、いつまでも兄さんに迷惑をかけちゃ駄目だから・・・」
「ばーか。妹は妹らしく兄貴に甘えときゃいいんだっつの」
ベルが先程と同じように転移魔法を発動した。
「どこかに行くんですか?」
「家に帰るのさ」
「そうですか・・・」
「他の女に取られる前に、頑張ってスクードのハートを鷲掴みにするんだよ?」
「そっ、それは・・・」
「にっひっひ、達者でなー」
手を伸ばしてエリィの肩を叩き、そしてベルが自分の家へと転移する。残されたエリィは男に絡まれた時に落としてしまった買い物袋を持ち直し、頑張らなきゃと気合いを入れて再び兄が待つ家へと歩いていった。




