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5月12日『Assault Start』

「またね、エリィちゃん!」

「はい、また来てくださいね」


鍛冶屋から去っていった男性客にエリィが笑顔で手を振る。


「最近お客さんが増えてきたね」

「そうだな。まあ、大半はエリィ目的なんだろうが」

「え、なんで私?」

「エリィが可愛いからだろう」

「へっ!?」


可愛いと言われたエリィの顔が真っ赤に染まる。スクードはそういう事を躊躇うことなく言うので、嬉しいのと同時に恥ずかしい。


「か、可愛いだなんて、そんな・・・」

「妹だから贔屓している訳じゃなくて、本当にそう思うぞ」

「うぅ、駄目だよ兄さん」

「何が・・・あれ」


何かに気付いたスクードがエリィに顔を近付けた。兄の突然の行為にエリィは驚き、咄嗟に目を閉じる。


「髪の毛に埃が付いてた」

「え・・・あぅ」


少しだけ違う事を想像してしまった自分が恥ずかしくなり、エリィは真っ赤な顔を両手で隠しながら俯いた。


「にっひっひ、なーにラブコメってんだい」

「ひゃあっ!?」


そんなエリィの背後から突然顔を出したのはベル。彼女はニヤニヤしながらエリィに抱きつく。


「嬉しいよねぇ。他の誰かに言われるよりも嬉しいよねぇ」

「おい師匠、急に現れてエリィを驚かすな」

「結構前から居たんだけど」

「何の用だ?」


スクードにそう言われ、ベルが欠伸をしながらあの時のことを思い出す。


「二日前、あんたが言ってた仲間とやらと戦ったぞ」

「は?」

「強いねぇ、あの子。首とか肩とか怪我しちゃったよ」

「なんでその日に言わないんだ」

「にっひっひ、気にしない気にしない」


ケラケラ笑った後、ベルは紙をスクードに手渡した。


「灰の死神だっけか?あの子の居場所を突き止めてやったんだから感謝しな」

「居場所を?」

「戦った時に魔力を覚えたからね。去ってから二日間その場所から動いてないから、今のうちに会いに行ってやったほうがいいかもしれないよ」

「師匠・・・」

「ウチがここに居てやるから安心しな。誰か来てもエリィは守ってやるさ」


そう言いながらベルがエリィの胸を揉む。当然エリィの顔は真っ赤になり、それを目の前で見てしまったスクードの顔も若干赤くなる。


「べ、ベルさん!?」

「おい師匠、何をしてるんだ!」

「にっひっひ、ウチは小さいからねぇ」

「やめろ馬鹿!」

「なんだいスクード。俺の胸に手を出すなってか?」

「この変態老婆め・・・!」


スクードがベルの首元を掴んでエリィから引き離す。片手で軽々と持ち上げられるベルは子供のようで可愛らしい。


「ラグナとユーリを連れてさっさと行きな」

「へ、閉店にしておくね・・・」

「チッ、エリィに変なことしたり変なこと言ったりするなよ?」


なんだかんだ言ってベルになら安心してエリィを任せられるので、スクードは急いでラグナ達を呼びに行った。


そんな彼を見送った後、ベルがニヤニヤしながらエリィに顔を向ける。


「んじゃあエリィ、楽しくおしゃべりでもしようか」

「うぅ、嫌な予感が・・・」








▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼








「いやぁ、我ながら素晴らしい発明をしたものだ!」

「・・・」


とある巨大な建物の中でドクター・ロードが腕を広げて笑う。その様子を少し離れた場所からシルヴィは無機質な瞳で見つめていた。


「これを見たまえ、灰の死神」


ロードがシルヴィに腕輪を手渡す。


「スクード・スミス達は必ず君の洗脳を解く為に動き出すだろう。いくら魔王様・・・の洗脳魔法であろうと、魔人の魔法をぶつけられてはひとたまりもない。だからこの腕輪を装備するんだ」

「何故そのような事をしなければならないのですか?」

「それを今から説明するんだろうが。哀れな奴隷は黙って私の言う事を聞いていればいいんだよ!」


聞き返してきたシルヴィの頬をロードが叩く。しかし、シルヴィは顔色一つ変えることなく再びロードに顔を向けた。


「この腕輪は反解除魔法の効果があってね。それがあれば、スクード・スミスが何回高位解除魔法を使ってもそれを無効化出来るのさ!」

「解除魔法?何故そのような事を敵は・・・うぅ」

「ん?どうかしたのか」

「敵・・・?スクード・スミス・・・魔人・・・どうして彼等が私の敵に・・・?」

「チッ、洗脳魔法の効果が薄れてきているようだね。だが、これがあれば・・・」


苦しそうに胸を押さえ、うずくまったシルヴィの頭にロードがヘルメットのようなものを被せる。


「う、あ・・・!?」

「これを頭に被せるだけで強制的に脳を支配出来る。つまり、このヘルメットから出される電磁波には高位洗脳魔法と同じ効果があるってわけさ」

「い、たい・・・!」

「はははっ!自我が崩壊してしまう可能性もあるが、そんな事はどうでもいい。かつての仲間が敵になればあの魔人でも動揺し、普段通りの力を使うことなど不可能になる。よって、君一人で奴等を葬ることが可能になるのさ!」

「・・・・・・」


やがて、無表情になったシルヴィから装置を取り外し、ロードは楽しげに笑った。かつて魔王を打ち破った英雄の一人が自分の言いなりに。これ程心躍ることはないだろう。


「二日前はあの〝フレイアの魔導書〟に邪魔されたらしいが、今度はそうはいかないぞ。ククッ、必ず奴等を始末するんだ」

「・・・了解しました」


フラリと起き上がったシルヴィが王都に向かう為歩き出す。そんな彼女の背中を見つめながら、スクード達を葬った瞬間に洗脳を解いてやろうかとロードが最低なことを考えていた時である。


突然建物全体が激しく振動し、ロードは持っていた装置を床に落としてしまった。その衝撃で装置は砕け、ロードは頭を抱える。


「ああああ!?あれだけ長い時間をかけて開発した洗脳装置がァ!!」

「・・・何者かが建物に侵入したようです」

「何ぃ!?」

「恐らくスクード・スミスとその仲間達かと」

「馬鹿な、何故この場所を特定出来たんだ!?」


焦りながらロードが周囲を見渡す。そして壁に取り付けてあったボタンを押した。


「いいだろう。わざわざ自分達から死にに来るとは馬鹿な奴等だ!」


そう言ってロードが笑った瞬間、建物内に不気味な音が響き渡った。







▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲








「地図によると、この辺りにシルヴィが居る場所がある筈なんだが」

「え、それ地図だったのか!?」

「言うな。師匠は昔からこうなんだ」


少し時間は遡る。

ラグナとユーリを見つけたスクードは二人と共に王都を飛び出し、ベルに貰った地図に書いてある場所に向かって全力疾走していた。


ちなみにベルの地図を読み取ることが出来たのはスクードだけである。


「あ、見て!」

「でっかい建物があんなぁ。こんな森の奥にわざわざ研究所を建てたのかね」

「どうやら結界が張られているようだな。多分それなりに高い魔力を持つ者以外には見えないようになってる」

「じゃああそこにシルヴィちゃんがいるっぽいな」


ラグナが聖剣を鞘から抜き、魔力を刀身に宿す。ユーリも以前スクードに作ってもらったガントレットを腕に装備した。


「なぁスクード、挨拶がてら一発いいかな?」

「それがシルヴィに当たったらどうするつもりだよ」

「大丈夫、入口を吹っ飛ばすだけだって!!」


猛スピードでラグナが前に飛び出して研究所に急接近した。そして聖剣を振り下ろし、巨大で硬そうな入口目掛けて魔力を解き放つ。


「よっしゃあ、突撃だ!」

「こっそり侵入したほうが良かったと思うんだけど」

「昔から正面突破が大好きだからな、こいつは」


ラグナの斬撃で吹っ飛んだ入口から三人が研究所内に突入した。その直後、よく分からない音が鳴り響く。


「敵が来るぞ。手加減する必要は無いから思う存分暴れるといい」

「おうよ!」


音が鳴り止むと、様々な場所から続々と魔物が出現した。どれも魔界に生息している危険な魔物達である。


しかし、スクード達は魔物達を恐れることなく魔力を纏って群れに突貫した。

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