三年前『出会い』
村を出発してから一週間。ひたすら森の中を歩いているだけだが、そんな二人に早くも危機が訪れていた。
「やっべ、腹減った・・・」
「なんで何処にも川とかないんだろ・・・」
そう、食材と水が不足しているのである。道中で数種類の魔物を殺し、その肉などを食べてみたが恐ろしく不味かった。
勿論美味い魔物も居るのだが、残念ながら彼らの前に姿を現すことはない。
「帰りてぇ・・・」
「何言ってるのよ。まだ旅は始まったばかりなのに」
「そもそも俺達は何処を目指して歩いてんだ・・・」
「王都でしょ?」
「道が長すぎる気がするんだが」
どれだけ歩いても王都は見えない。次第に疲れが見え始めた二人は一旦休憩する事にした。
「くっそ、地図通りに進んでる筈なんだけどなぁ」
「王都方面に行く時はいつも馬車を使ってたからね。こうして歩いてみると迷子にもなるわよ」
「やっぱり迷子なんですね・・・」
このままでは王都に着くどころか、自分達が幼い頃から遊び場にしていた森の中で餓死してしまう。だからといって、どうしたものかと頭を抱えても何か閃くわけでもない。
「まあ、取り敢えず水を確保しようぜ」
「そうね・・・ってあら?」
「どうした?」
「戦闘音が聞こえる・・・」
「え、まじで?」
「あっちの方からね。行ってみる?」
「行ってみましょう」
ラグナには何も聞こえないが、幼馴染みを信じて戦闘音が聞こえる方向へと進んでみることに。
「あ、ほんとだ」
暫くして、ようやくラグナにも音が聞こえた。しかし、それは金属音などではなく、何かが爆発したかのような音だ。
「居た・・・!」
やがて、二人は音の正体を突き止めた。衝撃的なまでの魔物の大群に一人の少年が取り囲まれている。しかし少年は特に焦ることもなく、飛び掛ってきた魔物を魔法で消し飛ばしていく。
「す、すご・・・」
「滅茶苦茶つえーなあいつ!」
「でも何か怖いね。どうしてあんな表情なんだろ」
全てを憎んでいるかのような、そんな表情で次々と魔物を殲滅していく少年。そのあまりにも圧倒的な光景を目にしたユーリは思わず後ずさるが、ラグナは目を輝かせながらユーリに顔を向けた。
「なあなあ、やっぱり魔王退治には仲間が必要だと思わないか?」
「え、まあ、そうかも・・・ってまさかあんた」
咄嗟にユーリがラグナの服を掴もうとしたが一歩遅かった。聖剣を鞘から抜き放ち、ラグナが少年のもとへと走っていく。
「おっす!俺はラグナってんだ。あんたは────」
「五月蝿い黙れ関わるな」
「いきなり辛辣ですな」
「あっちに行ってろ。邪魔だ」
凄まじい魔力が少年の身から放たれる。それと同時に魔物達は逃走を始めたが、ラグナは笑ったままその場から動かない。
「俺達魔王倒す為に旅してるんだけどさ、やっぱり仲間は多い方がいいじゃない?もしよかったらだけど」
「断る。あっちに居る女もそうだが、俺に関わろうとするな」
「へえ、ユーリにも気付いてたのか」
「もういいだろう、失せろ。お前のせいで魔物共がどっか行っただろうが」
「やーだね。せめて名前だけでも教えてくんない?」
二人の間で爆発が起こった。しかし少年は何事も無かったかのようにその場から動かず、目の前に立っていたラグナだけが吹っ飛んでいく。
「ラグナ!」
「ビックリしたぁ。はは、急に魔法は危ないだろ」
「だ、大丈夫?」
「おう、見ての通りノーダメージだ」
駆け寄ってきたユーリの頭を軽く撫で、ラグナが立ち上がる。
「・・・聖剣か」
「知ってんの?こいつはスレイヴっていってな、俺の相棒だぜ」
「興味無いな」
「うーん、それは残念だな!」
「ッ!!」
勢いよくラグナが聖剣を振り下ろした。そんな突然の攻撃を受けた少年は先程のラグナと同じように吹っ飛んだが、身体には傷一つ付いていない。
「ちょ、ラグナ!?」
「さっきのお返しだ」
聖剣を地面に突き刺してラグナが笑う。
「・・・なるほど、少しはやるようだ」
そんな彼を見てやる気が無くなったのか、少年は放ち続けていた魔力を体内に戻した。そして二人のもとに歩いていく。
「スクード」
「ん?」
「スクード・スミスだ。別にお前達の仲間になるつもりは無いが、名前は教えておこう」
「おおっ、スクードか。よろしくな!」
笑いながらラグナが無理矢理スクードの手を握る。そんな彼を見てユーリはやれやれと苦笑した。
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「それでだな、作ってくれる料理が料理人顔負けのうまさでな。褒めてやると心底嬉しそうに笑うんだ。それがまた癒されるものがあるというか・・・」
「だっはっはっは!あんなに失せろとか関わるなとか言ってたくせに、妹の話になると止まらないんだな!」
「あはは、ほんとにね!」
「ぐっ・・・」
そう言われてスクードが顔を逸らす。ラグナ達が聞いた話によると、彼には三つ年の離れた妹が居るらしく、そんな妹を溺愛しているという事が分かった。
あれだけ近寄り難い雰囲気を纏っていたスクードだが、話してみれば妹思いの良き兄である。
「まあ、お前が妹大好きってのは分かったけどよ。なんでこんな場所に居るんだ?」
「お前達と同じだが」
「え、てことは魔王を倒す為に旅してるってことか!?」
「動き出したのは昨日だがな」
「んじゃあ目的は同じじゃん。俺達と一緒に旅しようぜ!」
ラグナが笑顔で手を差し出す。
「俺は魔王軍を叩き潰して早く家に帰りたいんだ。知り合いに面倒を見てもらっているが、馬鹿な男が妹に手を出す可能性があるからな」
「なら尚更っしょ。俺達でサクッと魔王倒そうぜ」
「お前と共に行動していると全てが遅くなりそうだから嫌だ」
「確かに」
スクードの言葉にユーリが頷く。
「というか、お前達は二人きりで旅をした方がいいんじゃないのか?」
「え、何でだよ」
「何でだよって、なあユーリ」
「へっ、な、何?」
「俺は邪魔なんじゃないのか?」
少し意地悪な笑みを浮かべながらスクードがユーリにそう言う。それに対してユーリの顔は真っ赤になっているが、ラグナはそれが何故なのか分かっていない。
「じ、邪魔だなんて思わないわよ!?これはホントのことだからね!」
「ふむ、そうか」
「てことは一緒に来てくれるのか!?」
「声がでかい」
耳を塞ぎながらスクードが立ち上がる。
「このまま置いて行けば餓死しそうだしな。魔王が何処に居るのかは分かっているから、その道中にある町までは案内してやる」
「魔王の居場所分かってんの!?」
「逆に居場所を知らずに旅してたのか?」
「ははは、スクードが居れば迷子になることがなくなるな」
「うるさい、置いていくぞ」
歩き始めたスクードを、後ろからラグナ達が追う。
「良い奴だな、スクード」
「そうねぇ。でも、なんで魔物達と戦ってた時はあんな顔してたんだろ」
「まあ、それはまた今度聞かせてもらおうぜ。取り敢えず町に着いたら飯食おう!」
「あたしにはそんな風に騒ぐ元気も残ってないわ・・・」
こうして二人は後に『魔人』と呼ばれる少年と出会った。この出会いが無ければ、恐らく三年後の平和な世界は存在していなかっただろう。
これは、それ程までに重要な出会いだった。