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三年前『勇者の旅立ち』

「はーーっはっはっはァ!!長きに渡るキラービー軍団との戦い、ここに終結!!」


心地よい風が吹く森の中、金髪の少年が剣を掲げながらそう言って笑った。そんな彼の足元には、蜂型の魔物であるキラービーが大量に転がっている。


「あ、こんな所に居た。村の人達が心配してたけど、キラービーはちゃんと倒せたのね」


そんな彼の背後から一人の少女が歩いてきた。橙色の髪をポニーテールにした、非常に可愛らしい少女である。


「当たり前だろ。俺は勇者になる男だからな」


しばらくして剣を鞘に収めた少年は、地面でピクピクと痙攣しているキラービー達を指でつついている少女の服を軽く引っ張った。


「馬鹿、刺されたらどうすんだ」

「大丈夫でしょ。だってラグナが倒したんだもの」

「それでも急に動き出したりしたら危ないだろ」

「あら、何?心配してくれてるの?」

「ええそうですよ、そうですとも」

「意外と優しいとこもあるのね」


立ち上がった少女がそう言って少年ラグナの顔を見る。そこで彼女はある事に気付いた。


「・・・ラグナ、怪我してる」

「こんなもんほっときゃ治るって」

「駄目よ。傷口から菌が入ったらどうするのよ」


小柄な少女が背伸びしてラグナの顔に自分の顔を近付ける。


「っ!?」

「最近ちょっと目が悪くなってきたのよねー。あ、ここも切れてるし」

「ばっ、お前、何してんだ!」

「何って・・・傷口探し?」

「普通に顔近付けてくんなって!」


少女からラグナが顔を逸らす。それに対して少女は『なんで?』と首を傾げた。


「別に恥ずかしい事なんてしてないじゃない。あたし達、幼馴染みなんだしさ」

「はあ、ほんとお前って・・・」

「何よ」

「なんでもねーよバーカ」


顔を見られないようにしながらラグナが歩き出す。そんな彼の服を少女がぐいっと引っ張る。


「馬鹿って何よ。あたしはあんたの事心配してるんだからね」

「あーもう、分かってるって。ありがとよユーリ」

「よろしい」


礼を言われた少女ユーリは、満足げに微笑んで服を掴んでいた手を離した。








▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼







ラグナとユーリ。

街から離れた場所にある小さな村に住んでいて、二人は幼馴染みだ。ラグナは勇者になる為日々切磋琢磨しており、村人達からはかなり頼りにされている。その為、今回森で大発生していたキラービー討伐を村人達に依頼され、見事単独でそれを成し遂げた。


「おお、戻ったかラグナよ」

「おっす村長。この近辺で大量発生してたキラービーは粗方討伐した。もう前みたいに大群で村に出現する事はないと思うぜ」

「流石じゃのぉ。今日は村の英雄に感謝し、派手に宴といくか」

「よっしゃあ、村長分かってるぅ!」

「うぇーい!」


はしゃぎ始めたラグナと村長を見てユーリが呆れたような表情を浮かべる。もう見慣れた光景であった。ラグナが村を救う度に村全体でそれを祝い、朝までお祭り騒ぎ状態になるのだ。


「もう、村長ったら。ラグナは怪我してるのに」

「ははは、明日には治ってるって。なあ、村長!」

「そうじゃのお!わはははは!」

「まったく・・・」









その後、なんだかんだでユーリも宴の準備を手伝い、日が暮れた頃に村人達が全員集合して村長宅で宴が始まった。村人全員と言っても20人程しか居ないので、村で一番大きい村長宅なら全員入る事が出来る。


しかし、ラグナとユーリは外に座り、共に夜空を眺めていた。


「ねえ、ラグナ」

「なんだー?」

「最近魔物の発生率が異常だと思わない?この前ポイズンフロッグが大発生したばかりなのに」

「そうか?まあ、そんなもん俺が何とかするから大丈夫だって」

「はあ、またそういう事言う・・・」


ユーリが夜空から視線をラグナに向ける。


「いつも心配なのよ。魔物が大発生してラグナが討伐に向かう度に、ラグナが帰ってこなかったらどうしようって・・・」

「大丈夫だって。剣の腕には自信あるし」

「それでも心配なの。あたしにも戦える力があればなぁ」

「俺だってもっと強くなりたい。その為にはあの剣を抜ける資格を手にしなきゃならねーんだよな」


そう言ってラグナが村長宅脇の地面に突き刺さっている一本の剣をじっと見つめた。


『聖剣スレイヴ』


昔からこの村に伝わる伝説の聖剣である。あの剣を抜く事が出来たものは勇者の称号を習得、そして凄まじい力を手に入れられるというのだ。


昔から何人もの冒険者達が村に訪れ、聖剣を抜こうと試みてきた。しかし、未だ誰一人として抜いた者は居らず。


地面を掘ろうとしても魔法を放ってもその瞬間に特殊な障壁が展開され、直接引き抜く以外の方法では聖剣を手に入れる事は出来ない。その剣を抜き、勇者となる事がラグナの目標であった。


「ラグナって何でそんなに勇者になりたいの?」

「ん?そりゃあ決まってんだろ。困ってる人達を助けたいからだ」

「ふーん、意外とそんな事かんがえてるのね」

「・・・それと、一番大切なものを守りたいから」

「大切なもの?」

「教えないけどな!」

「えー、何でよ」

「いつか教えてやるよ。ま、とりあえずみんなのとこに行って今日は楽しもうぜ!」


立ち上がり、ラグナがユーリに手を差し出す。そんな彼を見つめながらユーリが微笑み、その手を掴もうとした時だった。


「なっ!?」

「きゃあっ!?」


突然地面が激しく揺れ、向こうに見える家が爆発した。


「何事じゃ!?」

「そ、村長。急に家が爆発して・・・」


幸い、村人全員が村長宅に集まっているので今の爆発で怪我をした人は居ない。しかし、突然の出来事に家の中から出てきた人々は恐怖を隠しきれないでいた。


「まさか、また魔物が出現したってのか?」

「ふん、この私をただの低級モンスター共と同じに捉えるとは・・・随分舐められたものだ」

「ッ!!」


声が聞こえたのと同時に直感的に感じた命の危機。

咄嗟にユーリの前に立ち、ラグナが剣を抜く。


「何者だ・・・!」

「それをお前達が知る事は永遠に無い。何故なら────」

「がっ!?」


鈍い音が響く。

その場に居た全員が息を呑んだ。突然至近距離から声が聞こえたかと思った次の瞬間、ラグナが爆発した家の方向に吹っ飛んでいったのだ。


「ら、ラグナ!?」

「おっと、動かない方がいい。楽に死にたければ・・・な」

「っ・・・」


禍々しい気を放つ剣がユーリの首筋に当てられた。そして、ここで初めて村人達はラグナを吹っ飛ばした存在の姿を目にする。


姿は人間にそっくりだ。しかし肌は青く、二つの眼に加えてもう一つ額に大きな目がある不気味な男。それを見た村長は、すぐに男が魔族である事に気付いて叫ぶ。


「皆の者、今すぐに逃げるんじゃあ!!」

「無駄だ」


男がユーリを退かし、逃げようと動き出した一人の村人を剣で斬り裂いた。


「ぎゃあああっ!!」

「ははは!さあ、もっと泣き叫ぶ姿を私に見せてくれ!」


血を撒き散らしながら斬られた村人が転倒する。そんな村人は既に眼中に無く、現れた魔族の男は次のターゲットの腹部を剣で斬りつけた。


「どうしたァ!人間という生き物は抵抗する事を知らないのか!?」


そう言った男の周囲に数個の火球が出現する。


「フレアゲイザー!!」


そして男は火球を様々な場所に向けて放った。村が燃え上がる。四方八方を炎で塞がれた村人達は、どうする事も出来ずにその場に立ち尽くした。


「や、やめて!」


そんな男の前にユーリが立ち、落ちていた剣を構えた。それは、先程吹っ飛ばされたラグナがいつも使っていた剣だ。


「ほう、お前はなかなか勇気があるようだ」

「何でこんな酷い事を・・・」

「・・・どうせお前達は死ぬ。ククッ、その前に教えておいてやろうか」


男が腕を広げ、楽しげに笑う。


「私はゲイル。魔族の支配者である魔王様の部下であり、魔王軍四天王の一人である」

「ま、魔王・・・!?」

「此処に聖剣が存在すると聞き、私はそれを破壊しに来たのだ」


魔王。

そんな存在が居ることをユーリは初めて知ったが、それでも魔王がどれ程危険な存在なのかは嫌でも理解出来た。何故なら、これ程の力を持った化け物が様付けで呼ぶ『魔族の支配者』だというのだから。


「それを知って尚、お前は私に立ち向かおうというのか?」

「うぅ・・・」

「まあいい、一瞬で楽にしてやろう」


そう言って四天王ゲイルが剣を振り上げる。だが、それを振り下ろす直前に何かがゲイルを吹っ飛ばした。


「ら、ラグナ・・・」

「ユーリ、早く逃げろ!ここは俺に任せ────」

「やってくれたな、小僧」


赤い液体が大量に飛び散り、そしてユーリの顔に付着した。ゲイルが剣でラグナの胸部を深々と斬り裂いたのだ。


「がっ・・・!?」


さらにゲイルはラグナの顔面を殴って吹っ飛ばす。勢いよく地面に叩きつけられたラグナは、血を吐きながら聖剣の目の前に転がった。


「ラグナっ!」

「クク、あと数分もすれば死に絶えるだろう」

「この・・・!!」


怖くて頭がどうかしてしまいそうだった。しかし、恐怖を押し殺してユーリはゲイルの横っ面を叩く。


「ラグナを傷つける奴は、あたしが許さないんだから!!」

「・・・ほう」


笑ってはいるが、怒りを隠しきれていない。

そんなゲイルが震えるユーリの首を掴み、持ち上げる。


「うぁ・・・!?」

「お前は簡単には殺さない。首の骨を砕いた後は、死なない程度に痛ぶってくれる」


その光景を見たラグナの顔から血の気が引く。


「や、やめろ・・・」


なんとか立ち上がるも、その場から動く事が出来ない。


「何を、やってんだよ俺はァ・・・!」


バランスを崩して聖剣にもたれ掛かる。


「聖剣・・・」


もう時間が無い。最後の望みに賭けてラグナは聖剣の柄を掴んだ。


「抜けろよ・・・」


それを全力で引き抜こうとするが、聖剣は全く動かない。


「何の為に勇者目指してんだよ・・・!」

「う、ぐぅ・・・!」

「一番守りたい存在すら守れないのか!!」


聖剣が微かに光る。


「抜けろ、聖剣」

「ラグナぁ・・・」


ユーリの声が聞こえた。その瞬間、ラグナの中で何かが爆発する。


「黙って俺に力を貸しやがれ、聖剣スレイヴッ!!!」


一瞬、ラグナ自身にも何が起こったのか理解出来なかった。しかし、自分が手に持っているものを見て全てを知る。


「ま、まさか・・・!」


凄まじい光が村全体を包み込む。その直後、ゲイルはユーリから手を離してラグナに向かって魔法を放った。


「・・・はは、こりゃすげえや」

「っ!?」


放たれた火球が突如消滅した。それと同時に光が収束し、輝きを放つ剣を手に持った無傷・・のラグナが姿を現す。


「馬鹿な、傷が癒えて・・・」

「昔からずっと使ってきたみたいに手に馴染む。これなら、ユーリを守れる・・・」

「このガキ、聖剣の使い手に選ばれたというのか!?」

「ああ、そうらしいぜ」

「ぐ──────」


地を蹴り、全力で駆け出したラグナが聖剣に集まったエネルギーを一気に解き放つ。それは建物を破壊することはなく、ゲイルだけにダメージを与えて吹っ飛ばした。


「ラグナ・・・」

「ごめんなユーリ。でも、もう大丈夫だから」

「ぬあああ!!人間んんんんんッ!!!」

「俺がユーリを守る」


遠くで家が爆ぜた。吹っ飛んで突っ込んだ家をゲイルが破壊したのだ。


「おらァ!!」

「ぐぬぅっ!?」


一気にゲイルとの距離を詰め、ラグナが聖剣を振るう。凄まじい光の魔力が込められた聖剣は、ゲイルの身体をいとも簡単に切り裂く。


「せ、聖剣の使い手に選ばれる程の男だったとは!!お前、一体何者だ・・・!?」

「決まってんだろうが!勇者ラグナだァァッ!!」


そう言ってラグナは全力で聖剣を振り下ろした。








▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼







「ラグナが聖剣の使い手に選ばれた事を祝し、宴じゃあああ!!」

「「「おおおおっ!!」」」


楽しげな声が村中に響く。

あれから全員で協力し、なんとか火は消す事が出来た。そして再び村長宅に村人達が集まり、宴を続行したのだ。


ゲイルに斬られた人達もそれ程重症ではなかったらしく、応急処置を施して普通に宴に参加していた。


「・・・主役が何してるの?」

「星の数を数えてんだ」

「はあ、聖剣の使い手になってもそんな事を」

「別に偉くなったわけじゃないしなぁ」


村長宅の前に寝転がり、ラグナが笑う。そんな彼を見たユーリも同じように寝転んだ。


「ねえ、ラグナ」

「なんだー?」

「・・・行くんだね」


それを聞き、ラグナの頬がピクリと動く。


「あー、何で知ってるんだ?」

「顔を見れば分かるわよ」

「そっか。まあ、別に一生会えなくなるわけじゃないって」


ラグナが隣に置いてあった聖剣の切っ先を夜空に向ける。


「魔王軍・・・。そんなやばい奴らが動き出したってんだ。他の人達がこの村みたいな目に遭って欲しくないしな。折角聖剣に選ばれたんだし、とりあえず戦ってみるさ」

「で、でも、他の人達に任せれば・・・」

「聖剣が俺に戦えって言うんだ」

「え・・・?」

「コイツは俺の〝誰かを守りたい〟って思いに応えてくれたからな。なのに俺がこのまま魔王軍の連中をほったらかしにしてたら、それはやっぱ駄目なんだと思う」


そう言ってラグナが上体を起こし、ユーリの頭を撫でる。


「ま、のんびり待っててくれ。この勇者ラグナがババーンと世界を救ってみせるからよ」

「・・・馬鹿」

「うん?」

「馬鹿!馬鹿馬鹿馬鹿っ!!」

「ええっ!?」


突然ユーリが起き上がり、ラグナの手を握った。そして困惑するラグナの目を真っ直ぐ見つめる。


「あたしも行く!」

「はあ!?」

「ラグナ一人に任せてられない!だって心配だもん!」

「おいこらおバカ。急に何を言ってんだ」

「バカって言うな!」

「お前5回も言ったよね!?」

「そんなの知るか!ついて行くのを認めてくれるまで絶対離さないんだから!」

「無茶言うなよ・・・」


無理やりユーリの手を振りほどき、ラグナが困ったように頭を掻く。


「そんな危ないことに巻き込みたくない」

「あ、あたしだって戦える・・・!」

「駄目だ!」

「う、うぅ・・・」

「ぐぬぬ・・・」


お互い全く引き下がらない。そこでラグナは絶対に言いたくなかった事を口にした。


「どうせ旅するのなら、俺はもっとナイスバディな美少女と旅したいね・・・!」

「っ・・・」


嫌われてもいい。

それでもユーリだけは絶対に巻き込みたくなかった。


「最低・・・!」

「ああ、俺は最低人間さ。だからお子様は大人しく村に残って・・・」

「絶対ついて行くんだから!」

「うん、そうしろ・・・ってはあっ!?」


予想外の返答であった。驚いたラグナは手に持っていた聖剣を思わず地面に落としてしまう。


「あんたが他の女の人に変な事しないように監視しなきゃいけないもの!」

「待て待て、何でだよ!」

「もう許さないんだから!この馬鹿、アホ、ド変態!!死ぬまでお子様のあたしが連れ添ってあんた好みの女の子が寄りつけないようにしてやる!」

「はあ、もう無理だ・・・」


もう何を言っても無駄だと悟ったラグナはがっくりと項垂れる。嫌われた挙句ついてくる事になってしまった。それはラグナにとって一番最悪な事である。


「とりあえず村長達にこの事を話さないとな・・・」

「ふんっ!」


プイっと顔を逸らされてラグナはかなりのショックを受けたが、同時にとても嬉しい気持ちになった。


巻き込みたくなかった。でも、これからも一緒に居られるという事が何よりも嬉しい。それを顔に出さないように、ラグナは聖剣を持って村長宅の中へと足を踏み入れる。


そして三日後、彼らは打倒魔王の為に村を出た。ここから英雄達の物語が始まる。

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