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4月19日 『エリィの恋心』

「うーん、今日も良い天気・・・」


早朝、パジャマ姿で外に出たエリィは、雲一つ無い青空を見上げながら伸びをする。そんな彼女の足元に、いつの間にか一匹の黒猫が近寄ってきていた。


「どうしたの?」

「にゃーん」

「ふふ、可愛いね」


屈んで猫の頭を撫でるエリィ。そんな彼女を見た通りすがりの男達は物凄く満足そうな表情を浮かべて歩いていく。


「お腹空いてるの?」

「・・・」

「黙っちゃった・・・。何だか兄さんに似てるなぁ」


たまにスクードの腹が鳴る時がある。その時にエリィはお腹が空いているのかをスクードに聞くのだが、恥ずかしいのか彼は黙り込んでしまうのだ。


「あのね、私の兄さんはね、とっても強くてかっこいいんだよ」

「にゃーん」

「昨日も助けに来てくれたの。あれから兄さんを見る度に胸がドキドキしちゃうんだぁ」


猫に対して頬を赤らめながらエリィが話す。


「やっぱりこれって〝恋〟・・・なのかなぁ?誰かを好きになった事なんて一度もないから、何だか不思議な感じがするけど・・・」

「へぇ、恋しちゃったんだぁ」

「わひゃあっ!?」


そんな彼女の肩に誰かが手を置く。それに驚いたエリィは飛び跳ねるかの如く立ち上がった。


「ゆ、ユーリさん!?」

「おはよー」


エリィの後ろに居たのは満面の笑みを浮かべるユーリ。彼女を見た途端、エリィはやってしまったと項垂れた。


「どうしてこんな時間に・・・」

「目が覚めたから散歩してたんだけど、ちょっとお話しましょー」

「うぅ・・・」


ニヤニヤしているユーリに連れられ、近くのベンチに並んで座る。


「んで、恋してるって?」

「・・・まあ、その」

「あはは、あんなにヤバい状況で助けに来てくれたんだものね。そりゃあ惚れちゃってもおかしくないか。でもさ、一つ疑問に思う事があるんだけど」

「何でしょう」

「好きってのは、スクードを恋愛対象として見てるって事よね」


それを聞き、エリィの顔が真っ赤になった。


「はい・・・」

「前から思ってたんだけど、二人ってほんとの兄妹なの?」

「あ、やっぱり気づいてましたか。えーと、話せば長くなるんですけど、私が兄さんと血が繋がってないのは本当です」

「うーん、やっぱりか。だったら普通に結婚出来るのね」

「け、結婚っ・・・」


再び顔が赤くなるエリィ。そんな彼女をユーリが抱き寄せる。


「あーん、いちいち反応が可愛いわね!」

「あうっ・・・」


ちなみにユーリもかなりの美少女。道行く人々は美少女二人のじゃれあいを見て、今日も一日頑張ろうと気合いを入れた。


「確かに、スクードはぶっきらぼうだけど優しいしイケメンだしねぇ。ずっと傍に居て今まで惚れてなかったってのが不思議だわ」

「な、何度かドキドキひたりはしていたんでふけど、それが恋心らったのかはわかりまひぇん・・・な、なんで頬を引っ張るんれすかぁ」

「こんないい子と一緒に暮らしてて、変な事を考えないスクードもスクードなんだけどね」

「あの、それなら聞きたいことがあるんですけど・・・」

「うん?」

「ユーリさんは、兄さんの事が好きだったりは・・・」


一瞬何を聞かれたのか分からなかったユーリが目を丸くする。だが、すぐに質問内容を理解して笑った。


「ま、かっこいいけど惚れてはないよ。どっちかというと親友みたいな感じかしら」

「親友ですか」

「ふふ、安心した?でも敵は多いよぉ」

「お、多いんですか」

「まずギルドの受付嬢がスクードに惚れてるんでしょ?それに、もっと強力なのが一人居るわね」

「それって・・・」

「何話してるんだ?」

「ッ!?」


突然隣から聞こえた声。恐る恐るエリィが隣を見れば、眠そうに目を擦っているスクードが立っていた。


「な、ななな何でもないよ!?」

「おいユーリ、エリィに変な事を言ったんじゃないだろうな」

「んふふ、言ってないわよ」

「・・・なんだその笑顔は」


二人を見比べたスクードが呆れたようにそう言う。そして、真っ赤な顔で慌てているエリィに顔を近付ける。


「顔が赤いが、まだ体調が悪いのか?」

「っ、ちが・・・!」

「あまり無理はするなよ?しんどいならまだ寝ていてもいいからな」

「スクード、あんたねぇ・・・」


好きな人に突然顔を近付けられれば誰だって顔が赤くなるだろう。しかし、スクードは顔を近付けただけではなく、自分のおでこをエリィのおでこに当てた。


「ふむ、熱はないようだな」

「っ〜〜〜〜〜〜!」


耳まで真っ赤になっているエリィは、何の躊躇いもなくそういう行為を行うスクードから咄嗟に離れた。前までなら、顔を近付けるだけでここまで恥ずかしくなる事はなかった。それどころか、無意識にスクードに胸を押し当てたりもしていたというのに。


これが恋というものなのだ。


「お、恐ろしい男ね、スクード」

「は?何がだよ」

「何でもないから気にしないで!ねっ!?」

「お、おう」


状況が理解出来ずに頭を掻いているスクードを見て、ユーリは呆れ顔になった。


「ほんと、モテモテねぇ」

「え、俺のこと?」

「・・・いつから居たのよ」

「今!」


そんな彼女の隣にいつの間にか立っていたラグナ。


「珍しいわね、こんな時間に起きてくるなんて」

「はは、そーだな。そういやスクード、さっきあいつと会ったぞ」

「あいつ?」


ラグナが親指で自分の背後を指さす。そんな彼の後ろからは、一本の刀を担いだアイゼンが歩いてきていた。


「よう、スクード」

「アイゼンか。ダメージは残っていないのか?」

「ああ、妙に頭が痛いけどそれ以外は大丈夫だぜ」


頭を摩っているアイゼンからユーリは目を逸らす。昨日思いっきり拳骨したところが痛いのだろう。


「まさか世界大会の記念すべき一回目が中止になるとはなぁ」

「そうだな」


魔王乱入による大会中止。

観客や職人達はあれが魔王だとは知らないのだろうが、謎の魔族がアイゼンを操ったという事で会場は滅茶苦茶になり、置かれていた五本の刀のうち四本が砕けてしまった。それによって大会は中止になってしまったのだ。


「でもよ、優勝は間違いなくお前だったと思うぜ、スクード」

「ん?」

「これ、お前の刀だ」


アイゼンが担いでいた刀をスクードに渡す。それは、エリィに嫌われたと勘違いしながらもスクードが打ち上げた刀だった。


「お前の刀だけ折れてなかった」

「ふむ、そうか。しかしお前の刀はラグナに折られたんだろう?流石にこいつの一撃を受けたら俺の刀も折れると思うが」

「いや、折れないね。その刀を実際に持ってみた俺には分かる」


そう言うと、アイゼンはスクードに背を向ける。


「やっぱ大会に参加して正解だった。こんな凄い男に出会えたんだからな、魔人スクード」

「なんだ、知ってたのか」

「お前があの魔人だと知ったのは昨日だがな。まさか魔王を単独で撃破するとは。今頃アレス大陸は大荒れだろうよ」

「アレス大陸・・・魔界か」

「また会える日を楽しみにしとくぜ。俺は必ずお前を超えてみせる」


そして、軽く手を振りながらアイゼンは何処かへと歩いていった。


「・・・去っていくアイゼンを見ながら思ったんだが、お前達はいつまで王都に居るつもりなんだ?」

「しらねー」

「宿屋のおばさんが部屋を一室だけ貸してくれてるのよ。あたし達が何者なのかを知ってたみたいでね」

「なら同じ部屋の中、二人で寝てるのか。ラグナに変な事されてるんじゃないのか?」

「相手が巨乳で可愛げのある女の子だったら躊躇いなく何かするけど、ユーリだしなぁ・・・」

「んだとこのクズゴミがッ!!」

「ちょ、まだ早朝なんですけどおおおおお!?」


地面が揺れる程の威力でユーリがラグナを殴り始める。お約束とも言える光景を見ながらスクードは眠そうに欠伸し、エリィは苦笑した。


「よし、とりあえず朝飯でも食うか」

「あ、すぐ作るね」

「そんな急がなくてもいい。今日は一緒に作ろう」


一緒に。そう言われただけでこれ程嬉しい気持ちになれるのは、やはり恋心を自覚したからなのだろう。


(やっぱり、私は兄さんの事が大好き)


兄の横顔を見つめながらそう思う。だからギルドの受付嬢であるリティアにも、ユーリが言っていた強力な人にも負けたくない。


(誰よりも長く兄さんと一緒に居るのは私なんだから)


今までも、そしてこれからも。

兄を側で支えるのは他の誰でもなく私。


そう決意しながら、エリィは自宅に向けて歩き出したスクードの背中を追った。

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