4月18日(4)『魔闘決着』
「・・・終わったか」
何も無くなった地面に降り立ち、スクードは抱き寄せていたエリィをゆっくり地面に立たせてやった。しかし、まだ体調が悪いエリィはヨロリと体勢を崩す。
「え、あ、すまん。体調を崩していたのを忘れていた」
「ううん、大丈夫だよ・・・」
顔色は悪いが笑みを浮かべたエリィを見て、スクードの胸の中で渦巻いていた怒りが収まっていく。それと同時に固有スキルの発動が終了し、凄まじい魔力は再びスクードの体内へと戻った。
「・・・その、兄さん」
「なんだ?」
「どうして、来てくれたの・・・?」
俯き、エリィが躊躇いがちにそう言う。そんな彼女の頭をスクードは軽く撫でた。
「可愛い妹を助ける為だったら俺は何処にだって行くぞ」
「私のこと、嫌いになったんじゃ・・・」
「嫌い?何でだよ」
「だって、ギルドで怒鳴っちゃったから・・・」
それを聞き、スクードはその時の事を思い出した。
「い、いや、寧ろ俺が余計な事を言ってエリィに嫌われてしまったのかと思っていたんだが」
「え?」
「謝ってくれた時はほっとしたんだが、それからあまり口を聞いてくれなかったから気が気じゃなかったんだ」
「・・・」
「だ、だから大会が終わって時間ができたら謝ろうと思っていてだな。なのに魔王が現れて会場が大混乱に───」
慌てながらそう言うスクードを見てエリィは吹き出した。兄は自分の事を嫌いになっておらず、逆に嫌われたと思って焦っていたというのだ。
「え、エリィ・・・?」
「ふふ。ううん、何でもないよ・・・」
安堵した途端にエリィの目から涙が零れ落ちる。それを見たスクードはさらに慌てているのだが、溢れる涙は止まらない。
「ごめん・・・ごめんね兄さん」
「え、ああ」
何故エリィが泣いているのか分かっていないスクードは、彼女を安心させる為に頭を撫で続けた。
「あの時、ギルドで怒鳴っちゃった時ね、受付嬢の人と仲良さそうに話してた兄さんを見て、何だかモヤモヤってしちゃったの」
「モヤモヤ?」
「うん。兄さんとあの人は恋人同士なのかもって思って・・・。自分でもよく分からないんだけど、そうだったら嫌だなって・・・」
「・・・?別にリティアは俺の事を好きではないと思うが。俺も誰かと付き合おうなどと思っていないしな」
「え・・・」
「俺はエリィの方が心配だな。エリィは可愛いからいらん男が何人も寄ってくるだろう?そんな奴らを俺は絶対に認めるつもりはないがな」
当たり前のように『可愛い』などと言うスクード。当然それを聞いたエリィの顔は真っ赤に染まる。
「まあ、とにかくだ。俺がエリィを嫌いになる事なんて絶対に無いし、何かあったら必ず俺が守ってみせるよ」
「兄さん・・・」
いつもそんな事を思ってくれていた。そんな兄を見ると、顔が熱くなって胸がドキドキする。
「ああ、そっか。そうなんだね・・・」
「ん?」
リティアとスクードが話しているのを見た時に胸がモヤモヤしたのは、こうして兄を見ると胸がドキドキするのは。
「うおお、どんな戦闘だったんだよこりゃあ・・・」
「スクード、エリィちゃん!良かった、無事だったのね」
「む、ラグナとユーリか」
向こうからラグナとユーリが駆け寄ってくる。そんな彼らに向かって歩き出したスクードを見つめながら、エリィは胸に手を当てて微笑んだ。
ずっと、私は兄さんの事が好きだったんだね。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲
「はあ、はあ、化け物め・・・」
濃い瘴気が漂う森の中を傷だらけの男が歩いていく。時折不安げに後ろを振り返るその男は、スクードの魔法が自身の身体を消し飛ばす直前に事前に発動していた転移魔法で逃走していたロードである。
「まさか、あれだけ長い時間をかけて蘇生させた魔王を再び葬るとは・・・。聞いていた情報と、集めた情報とはまるで違う。戦闘能力が桁違いに上昇していたではないか!」
もたれ掛かっていた木を殴り、憎々しげに唇を噛む。
「ま、まあいい、俺は生き延びた。魔王ですら使い物にならなかったのだから、また新たな究極の生物を生み出さなければ。そして、今度こそ世界を我が物に────」
「なるほど、我を利用しようとしていたのか、ロードよ」
「ッ!?」
聞こえるはずのない声が聞こえた。
同時に背後から感じる圧倒的な強者のプレッシャー。死を覚悟しながら、ロードは恐る恐る振り返る。
「ま、魔王、様・・・」
「ククッ、残念だったな。我はまだ生きているぞ・・・」
そこに居たのは魔王ベルゼー。右腕が無くなり、全身から大量の血を流しているというのに、魔王は生きていた。
「ぐっ、がはっ!?」
「ううっ・・・!」
表情を歪めながら大量の血を吐き出す。しかし、それでも魔王は倒れない。
「恐ろしい男だ、魔人スクード・・・。あの時とは違い、我の力が全く通じないとは・・・」
ギロりとロードを睨みつけ、ベルゼーはなんとか声を出す。
「お前が我を利用していた事はこの際見逃してやる。だが、次は絶対に無いぞ。今すぐ魔王城に戻り、我の傷を癒すのだ」
「あ、あぁ・・・」
「聞いているのか、ロードよ・・・」
「お、仰せのままに・・・」
震えながら膝をつき、消え入りそうな声でそう言う。それを聞き、ベルゼーは晴れた空を恨めしそうに睨んだ。
「次こそは、次こそは必ずこの手で葬ってくれるぞ、スクード・・・!」
まだ、彼らの戦いは終わらない。