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4月18日(3)『魔人降臨』

「なんで、ここに・・・」


エリィがやっと絞り出した声を聞き、現れた黒髪の青年が振り返る。そして、ゆっくりと彼女に近付き、そして震える身体を抱きしめた。


「待たせてごめんな、エリィ」

「に、兄さん・・・」


そう、現れたのはスクードだ。彼はエリィを椅子に縛り付けていた拘束具を全て外し、そのまま彼女を立たせてやった。


「うぅ、兄さぁん・・・!」


そんな彼にエリィが抱きつき、そして胸に顔を埋めて嗚咽を漏らす。きっと怖かったのだろう。そう思いながら、スクードはエリィの頭を撫でる。


「もう大丈夫だ。何があっても、エリィは俺が守るから」

「ぐすっ、うん・・・」


エリィが落ち着くまで胸を貸した後、スクードは彼女の瞳を見つめて笑った。


「少しだけ待っていてくれ。すぐ終わらせるからな」


そして、吹っ飛んでいったベルゼーに顔を向ける。


「・・・お前は三つ罪を犯した」

「あ?」

「一つ目、エリィを連れ去ったこと」


スクードの身体から魔力が溢れ出る。その魔力に気付いたロードは目を見開いた。


「二つ目、エリィに触れた。口元から血が出ていたが、まさか殴ったんじゃないだろうな・・・?」


エリィから離れ、スクードがゆっくりとベルゼーに近付いていく。


「そして三つ目・・・よくもエリィを泣かせたな」


凄まじい魔力が解き放たれた。それは、ベルゼーがその身から放っている魔力を圧倒的に上回っている。


「こ、この魔力は・・・!?」

「エリィの顔に傷をつけ、さらに泣かせただと?絶対に許さんからな、ゴミ魔王が」

「ぐっ、黙れぇ!!」


魔力を雷に変換し、本気で怒っているスクードに向かってベルゼーが放つ。しかし、それはスクードが展開した障壁に弾き返された。


「あ、有り得ない・・・こんな魔力、あああ・・・」

「化け物め・・・!」


暴れ狂うスクードの魔力が大地を揺らす。ここで初めてベルゼーの余裕が崩れ、彼の額から汗が流れ落ちた。


「覚悟するがいい。お前達に《魔人まじん》の魔法を見せてやろう」

「魔人如きが魔王に勝てるものか!!」


ベルゼーの周囲に三つの火球が出現した。そして、近くに居るだけで身が焼ける程の熱量を誇るその火球をベルゼーが一斉に放つ。


「タイダルウェイブ」

「っ、ぐお!?」


しかし、スクードが放った水属性魔法に火球ごとベルゼーは呑み込まれ、後方の壁に叩きつけられた。


「ここは何処かの古城だったな。それを壊すのは申し訳ないが、そうさせたのはお前だぞ、魔王」

「図に乗るなァ!!」


目にも止まらぬ速度で地を蹴り、ベルゼーがスクードの目の前に移動する。そして、スクードが自分の動きについてこれていないと確信したベルゼーは、顔面目掛けて全力で拳を突き出す。


しかし、スクードの前に展開された障壁を破ることは出来ない。


「か、硬い・・・!」

「こちらの番だ。タイタンクエイク」


地面が跳ねた。その衝撃で城は崩壊し始めるが、ベルゼーとロードは咄嗟に城から脱出する。スクードもエリィを抱えて城から飛び出した。


氷山落とし(アイスバーグフォール)

「ぐうっ・・・!?」


着地と同時にスクードが魔法を発動した。

膨大な魔力は空へと集まり、崩れた城よりも巨大な氷の固まりがベルゼー達の頭上に出現する。


「なんだこの魔法は!?」

「オリジナルの魔法だ」


氷の固まりが地面に衝突し、周囲が激しく振動する。しかし、それだけでは魔王を殺すことは出来ない。


「ぬああああッ!!!」


怒号と共に氷が粉々に砕け散り、下からベルゼーが飛び出した。ロードも無事なようで、ベルゼーを援護する為に魔法を発動する体勢に入っている。


「やってくれたなスクードォ!この胸の中に渦巻く感情、それは貴様に対する怒りだ!!」


ベルゼーが上位闇属性魔法ヘルウイングを放つ。あらゆるものを吹き飛ばす漆黒の風が猛スピードで迫るが、スクードはその場から動かない。


「怒り・・・だと?」


そして、スクードが全身から放った魔力と激突した瞬間、ベルゼーの魔法は消し飛んだ。


「な、あ・・・!?」

「お前、エリィの顔に傷をつけておいて何怒ってるんだ?ボコられて当然だろうが」

「その女は魔族の王たる我に腰抜けなどと口をきいたのだ。顔を吹き飛ばさなかっただけマシだと────」


スクードと目が合ったベルゼーの背筋が凍る。


「お前は俺が大切にしているものを奪うと言ったな。確かに、俺エリィを絶対に失いたくない」


ロードは最早戦うという事を忘れ、どうやってこの場から離脱するかを考え始めた。


「お前達は俺の(・・)エリィに手を出したんだ。当然死ぬ覚悟はできているよな?」


『俺の』


俺の妹という意味で言ったのだろうが、兄の背中を見つめながらそれを聞いたエリィの顔が真っ赤に染まる。


「クッ、ククククク、ハーーーッハッハッハッハ!!!」

「・・・」

「覚悟、か。確かに我は何の覚悟も決めていなかった」


そう言うと、ベルゼーは勝利を確信したかのような笑みを浮かべた。


「まだ蘇ったばかりで新たな力のコントロールが上手くいっておらず、肉体が崩壊する恐れもあるが・・・お前にはその力を見せてやろう」

「魔王様、あれを使うのですか・・・!?」

「ああ、巻き込まれないように離れておくがいい」


ベルゼーが腕を交差させ、空気中に漂う魔力を体内に取り込み始める。そして、一気に全ての力を解き放った。


「取り込んだ魔力を体内で膨張させ、全てのステータスを肉体の限界まで引き上げる。それが我の切り札だ!!」


殆ど瞬間移動と変わらない速度であった。まず、腕に魔力を集中させて障壁を粉砕し、スクードとの距離を一気に詰める。そして、超高速で蹴りを放った。ここまで一秒も経過していない。エリィとロードはまだ先程までベルゼーが立っていた場所に目を向けている。


「くだらない切り札だな」

「ッ──────」


しかし、スクード相手にその程度の速度では通用しない。本気の蹴りがスクードに届く前に、吹き荒れる風を浴びてベルゼーは後方に吹っ飛んだ。


「な、何故だ・・・!」

「前に戦ってから何年経ったと思っているんだ?あれから強くなったのはお前だけだと思うな」


そう、まだだったのだ。

まだスクードは本気を出していない。


「お前が言う新たな力、それは〝固有スキル〟だろう?その人物しか使えない強大な力・・・」


エリィの目には、兄の背中はとても大きく、そしてカッコ良く見えているのだろう。しかし、ベルゼーとロードの目に映っている青年は、あらゆるものを破壊する悪魔に見えた。


「俺も見せてやるよ、固有スキル」

「ぐっ・・・!」

「出でよ、憤怒の魔杖」


スクードの手元に紅色の杖が出現する。それを手に取り、スクードは杖の下部を地面に当てた。


「多重封印解除、固有スキルを発動する」


彼の声と共に巨大な魔法陣が幾つも足元に出現し、光を放ちながら消えていく。それを見たベルゼーは後ずさった。高度な封印を何重にも施してまで使用を制限していた固有スキル。


それを、妹を傷つけられたスクードはなんの躊躇いもなく解き放つ。


「天穿て、〝魔人降臨〟」


スクードの瞳が深い紅色に染まり、抑えきれない魔力が爆発的に上昇する。普通ならば、あまりにも巨大な魔力故にスキルの制御など不可能だろう。しかし、それを完全にコントロールしながらスクードはベルゼーを睨みつけた。


「有り得ん・・・。何故、何故人間如きの魔力が我の魔力を上回って・・・」

「〝怒り〟だ」

「ぐがっ!?」


突然大地が裂け、噴き出したマグマがベルゼーを呑み込む。


「俺の固有スキルは、俺が本気で相手に殺意を抱いた時に発動する。もし封印魔法でスキルを抑え込んでいなければ、相手に殺意を抱く度に勝手にスキルが発動するんだ」


さらに、白い雲は黒雲へと変わり、まるで雨の如く雷がベルゼーが居る場所のみに降り注ぐ。


「一度使えば相手を殺すまでありとあらゆる魔法の使用が可能になり、威力も通常時の数倍に跳ね上がる」


地面の形が変化し、巨大な岩の拳となって雷を防いでいたベルゼーを真下から上に殴り飛ばす。


「そして、このスキルの厄介なところは、魔法を好きなだけ使える代わりに10秒以上魔法を使わなかったら、逆に自分が憤怒の魔力に呑まれて死んでしまうところだ」


黒く巨大な竜巻が突然発生し、吹っ飛んだベルゼーを巻き込んで身体を切り刻む。


「怒りがある程度収まるまでこのスキルは発動し続ける。ここが人の住んでいない場所で良かったよ。どれだけ暴れても人を殺してしまうことはないからな・・・!」


太陽が落ちてきたのかと思ってしまう程巨大な火球が大地を破壊する。ちなみに、エリィはスクードが展開した障壁に守られているのでダメージを受けることは無い。


「ふっざけるなァァァァッ!!!」


ベルゼーが火球を消し飛ばし、猛スピードでスクードに接近する。全身に火傷を負い、普通ならば動けない筈だというのに。


「我は魔王なのだぞ!?さらに新たな固有スキルを発動して攻撃力、防御力、魔力といった力が全て限界まで引き上げられているのだぞ!?なのに何故、お前に傷一つ付けることが出来んのだ!!」

「お前が俺よりも弱いからだろう」

「ならばこれを防げるか!!」


突然スクードの背後から巨大な氷の刃が襲い掛かった。特に焦ることも無くスクードはそちらに顔を向けて氷の刃を粉砕したのだが。


「終わりだスクードォッ!!!」

「─────」


その隙にベルゼーが魔力を固めて腕を硬化させ、スクードの首目掛けて手刀を放つ。


「何ぃ・・・!?」


しかし、それは空を切った。手刀が首に届く直前に、一瞬でスクードの姿が目の前から消えたのだ。


「何処へ─────」


咄嗟に周囲を見渡すと、スクードはすぐに見つかった。


「これで終わりだ」

「な、あ・・・!?」


上空にエリィを左腕で抱き寄せ浮かんでいる。そして、右腕の手の平は地上に居るベルゼー達に向いていて、凄まじい魔力が手の先に集まっていた。


「人間如きに、我は─────」

魔人煉獄咆(まじんれんごくほう)


放たれたのは漆黒の光線。膨大な魔力を圧縮し、一気に放ったその魔法はベルゼー達がその場から動こうとする前に地上に到達し、スクード達の眼下に広がっていた森を跡形も無く消し飛ばした。

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