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4月18日(2)『双剣激突』

「がああああッ!!!」

「よっと。へへっ、なかなか強いな」


とてつもない速度で放たれる斬撃全てを受け止めながらラグナが笑う。それを見ながらユーリ呆れた表情を浮かべた。


「まあまあ相手も強いってのに・・・」

「はっはァ!その程度で俺を押し切れると思うなよ!!」


魔剣と聖剣がぶつかり合い、闘技場が激しく揺れる。既に全ての観客や鍛治職人達が避難し終えた今、二人が手加減する必要など微塵もない。


「さーて、そろそろあたしも出ようかしら」

「殴り殺すなよー?」

「あんたねぇ、女の子になんてこと言ってんのよ」


ブンブン腕を回しながら、ユーリがアイゼンに向かって歩いていく。そして、握り締めた拳を振り上げた。


「一回落ち着きなさいよ」

「が─────」


凄まじい速度で放たれた拳骨がアイゼンの脳を揺らした。魔剣から流れ出る魔力が彼の身体を覆っているのでダメージはかなり半減されたようだが、それでもアイゼンはぐらりと体勢を崩す。


「ねえラグナ、魔剣契約って魔剣を折れば解除出来るんだっけ?」

「普通は契約者の魔力があれば何度でも刀身を再生させられる。けど、こいつの場合は魔剣側から強制的に精神を乗っ取られてるから、魔剣を砕けば契約は解除出来るだろうな」

「ふーん。じゃあ、折っちゃいますか」


そう言ってユーリが魔剣に手を伸ばした瞬間、アイゼンが強烈な突きを放った。しかし、ユーリは手の甲でそれを弾く。


「なんで手から血が出ないのか・・・それは昔からよく言われるけど、なんでだと思う?」

「魔力で全身を覆ってるから!」

「勝手に答えを言うな!」


魔力を身体に纏わせる。それは、誰もが簡単に出来る事だ。しかし、ユーリは魔力の質を自在に変化させる事が出来る。


「今のあたしは全身が鉄で覆われてるのと同じ。いや、鉄よりも硬いか」

「ぐっ・・・!」

「殺すとか言ってたけど、殺せるもんなら殺してみなよ」


鈍い音が響く。

首を跳ねるつもりでアイゼンが振るった魔剣は、首に届く前にユーリが鷲掴みにしていた。


「・・・チッ、硬いわね」


そのまま魔剣をへし折ろうとしたユーリだが、魔王の魔力が込められて魔剣と化した刀は簡単には折れない。


「ううう・・・」

「ん?」

「うおおおおおお!!!」


黒い雷が魔剣から放たれ、直接握っていたユーリの全身を焼いた。しかし、彼女は特に痛そうな素振りも見せない。


「がああッ!!」

「おっと」


さらにアイゼンの蹴りがユーリの腹部にめり込む。流石にこのまま一方的にダメージを受ける訳にはいかないと判断したユーリは、一旦アイゼンから距離をとってラグナの隣に立った。


「あの男の人を殴れないっていうのが面倒よね」

「え、一発殴ってましたやん」

「うるさいわね、手加減したに決まってるでしょ」

「てかよ、俺が戦った方がいいんじゃねーか?」

「だったら任せるわ」

「ふふふ、任せとけ」


ゴキゴキと首を鳴らしながら、ラグナがアイゼンの正面に立った。言うつもりはないが、これ以上ユーリに怪我して欲しくないから彼は交代したのだ。


「よう、魔剣使い。そろそろ正気に戻りたいだろ?」

「ぐ、ググググ・・・」

「そういやあんた、スクードと喋ってたヤツだな。あいつと普通に話せるってことは、別に悪いヤツじゃないってことだ」


ラグナの聖剣が光を放ち始める。


「俺は勇者だからな。あんたが困ってんのなら、この俺が助けてやるよ!」

「死ぃねぇぇぇぇッ!!!」


一瞬の出来事であった。

アイゼンが膨大な魔力を一気に解き放とうとした直後、勢いよく地を蹴ったラグナが目にも止まらぬ一撃を繰り出した。


「あー、わりいな。魂込めた刀を折っちまってよ」

「ッ─────」


黒い欠片が飛び散る。

ラグナの放った一撃がアイゼンの魔剣を破壊したのだ。それと同時に場を満たしていた魔力が消滅し、アイゼンがその場に崩れ落ちる。刀が砕けたことで魔剣契約が解除され、彼の精神は解放されたのである。


「終わったみたいね」

「おうよ。後はスクードが間に合うかどうかだな」

「あたし達もあとを追いたいけど、どこに行ったのか───」


ラグナの隣にユーリが駆け寄った瞬間、遥か遠くから凄まじい魔力が地上を駆け巡った。それを感じた二人は瞬時に理解する。


「これはやばいかもなぁ」

「今ので方角は分かったわ。あたし達も行ってみましょう」

「えー、休憩していこうぜぇ」

「うっさい、行くわよ!」

「いだだ!髪の毛を引っ張るなって!」


そして、二人は急いでその場から駆け出した。









▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲









「ぅ・・・」


頭が痛い、吐き気がする。そんな状況でエリィは目を覚ました。


「え、なにこれ・・・」


そして、自分が椅子に縛り付けられているという事を知る。


「やあやあ、お目覚めかな?」

「っ!?」


彼女の背後から笑みを浮かべる男が顔を出した。そして、エリィに対してぺこりと頭を下げる。


「私はドクター・ロード。魔王軍に所属する研究者さ」

「ま、魔王軍・・・?」

「そう怯えないでくれたまえ。私が君に何かをする事はないからね」


ロードがそう言った直後、彼の背後に漆黒の角を生やした男が別の場所から転移してきた。その男から放たれる魔力を身に受け、エリィの身体がガクガクと震える。


「どうやら体調を崩しているようだが、少し我々に付き合ってもらおうか」

「だ、誰ですか・・・?」

「我はベルゼー。かつて敗れた人間共に復讐する為蘇った、魔族の頂点に君臨する魔王である」

「え・・・」

「ククッ、お前はスクード・スミスの妹だろう?」

「ど、どうしてそれを・・・」

「私が調べ上げたのだよ!」


ロードが両腕を広げて楽しげにそう言う。


「君を見つけて魔法で眠らせ、わざわざここに運んできたのもこの私さ」

「何でそんなこと・・・」

「決まっているだろう?スクードに復讐する為だ」


それを聞き、エリィは息を呑んだ。


「兄さんに何をするつもりですか!!」

「ほう、体調不良の割には元気が良いな。ククッ、お前の兄には少々地獄を見てもらうだけさ」

「はははっ!その前に色々と調べさせてもらうがね。君の兄の話はよく聞くが、あれ程の魔力の持ち主はそう見つかるものじゃない。彼が我々の驚異になるのは目に見えているし、妹である君が持つ力を研究すれば、今のうちに多くの対策が練れるのだよ」

「・・・」

「ん、あれ?もっと何か言い返してこないのかな?」


人の心を弄ぶのが好きなロードがエリィに顔を近付ける。しかし、体調不良と不快感からこみ上げる吐き気に耐えながら、ロードの目を真っ直ぐ見つめてエリィは軽く笑った。


「私を調べたいのなら調べればいい。でも、そんな事をしても無駄ですよ」

「んん?君は助かりたいからそう言っているのかな?」

「いいえ、本当に意味が無いからそう言ったんです。だって・・・だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「・・・は?」


ロードが目を見開く。


「幼い頃に拾われたんです。だから、私と兄さんは血が繋がってないし、流れる魔力も似たものなんかじゃない・・・」

「ちょ、待て待て。はあ!?」


それが嘘の可能性もあった。しかし、慌てるロードと違ってベルゼーは冷静にエリィを見つめた。


「ならばここでお前を殺すとしよう。スクードが助けに来る可能性もあるが、どちらにしろお前は殺す」

「・・・来ませんよ」

「あ?」

「だって、嫌われちゃったから・・・」


俯きながらエリィがそう言う。


「今は鍛冶屋の世界大会に行っていますし・・・」

「残念だが、我が大会を滅茶苦茶にしてきたがな」

「っ・・・!」

「お前の兄も居たが、我が暴走させた魔剣によって殺されている頃だろう」

「そんな・・・」

「お前もすぐに兄に会わせてやろう」

「ま、魔王様、本当に殺すのですか?」


魔力を腕に纏わせたベルゼーにロードが声を掛ける。しかし、ベルゼーに睨まれて後ずさった。


「なんで、なんで兄さんに酷い事するんですか・・・?」

「なんで?我はかつてお前の兄に命を奪われたのだぞ?我と同じ苦しみを奴に与える事の何がいけないというのだ?」

「っ、ふざけないでください!!」


エリィが怒鳴る。


「兄さんに何かしようとしているのなら、私は貴方を絶対に許しません!苦しみを与えると言いながら他のものを利用して。正々堂々兄さんと戦えない貴方は腰抜けです・・・!」

「ほう、言ってくれるじゃないか、小娘」


ベルゼーが冷めた瞳でエリィを見下ろす。そして、勢いよく彼女を顔を殴った。


「良いことを思いついた。お前は殺さない。死ぬ直前まで痛ぶって、その状態でスクードに返却してやる」

「ひっ・・・」


おぞましい魔力がベルゼーの身体から放たれる。身動きがとれないエリィは、その魔力を至近距離で浴びて震えることしか出来ない。


「に、兄さん・・・」


また迷惑をかけてしまう。

大会が終わったらもう一度謝ろうと思っていたのに。


しかし、もうどうする事も出来なかった。


「ごめんなさいっ・・・」


涙が零れ落ちる。


「ごめんなさい、兄さん・・・!」


ベルゼーが拳を振り上げた。それを見たエリィは兄の姿を思い浮かべながらきつく目を閉じる。


「呼んだか?」


それは幻聴なのだろうか。

いつも聞いていた、一番聞きたかった声がエリィの耳に届いた。


「ぐっ・・・!?」


その直後にベルゼーの声が聞こえ、エリィは目を開ける。そして、彼女の目に映ったのは何度も目にしてきた大きな背中。


「あ・・・」


エリィの目からさらに涙が溢れ出る。

きっとこれは夢じゃない。彼女が誰よりも尊敬し、誰よりも会いたいと願っていた男がそこには居た。


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