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始めてはいつも苦い

この調子だと全然お話が進まない気がしてきた

オレは白い筒の中で眠りから覚める。4時間の間白い筒のなかで冷凍されてコールドスリープしてたのだ。たった4時間の睡眠だが、まるで8時間寝た時のように体の具合がよかった。


コールドスリープ装置自体は90年代に開発された。しかしそれは死体を冷凍しておく装置で、生きている人間には使えなかった。それが2020年完璧なものとして日本の企業によって開発されたと中学の理科で習った気がする。


コールドスリープは冷凍保存という目的で使われることが多いが、この筒では強制的に眠らせる装置だ。これから戦場に赴く戦士が100%で戦うための配慮だろうか。とにかく、筒の中は心地が良かった。


周りを見ると機械たちがチカチカと光っていた。オレが寝ていた間も機械はせわしなく働いていたようだ。ずっと休むことなく働くその姿はまさに社畜の鑑だ。そうなるとオレはこの機械の上司なのだろうか。自分はくつろいでいる中で働く様を見るのは見ていて面白いものがあった。まあ、上司なんてなったこともないし、なれないのだが。そもそも、そんなところでオレみたいなDクラスは働けないだろう。


目の前のモニターが赤く光った。「落下します、強い衝撃に注意して下さい」青い画面にそれが映し出される。それはまるで死の宣告のような言葉の重みがあった。その途端、白い筒は傾き砂漠のド真ん中めがけて落下していく。


オレは落下という一つの物理法則を手に入れた。摩擦に邪魔されることなくただ落ちていく。空気抵抗はあるがーー


そんな悠長なことは言っていられない。落下している間、白い筒の中は無重力状態だ。ベルトで体が固定されているとはいえ、絶叫マシンに乗っている感覚。さしずめ柱なしフリーフォールと言ったところか。


オレは遊園地という所に行ったことがなかった。あるのは公園ぐらいだ。だからジェットコースターのような絶叫マシンには乗ったのとがない。つまりこれが始めての絶叫マシン体験ーーー


初乗りの感覚は最悪だった。まあ、どんなものでも始めての体験は苦いというが……


「始めての絶叫マシンにしてはレベルが高すぎませんかねええええええええええ!!」


約30秒間、白い筒のなかで叫び声が響いた。


突然遠くで何かが開く音がした。それと同時に僕の無重力体験は終了した。元の1Gに戻り、ゆっくりと白い筒は落下していく。中では息が上がっているオレがいた。体中が汗まみれで服がびしょびしょだ。


ドッ


大きな音と同時に落下の感覚は止まった。たっている状態の体が倒れる。白い筒が倒れたのだろう。

まださっきの絶叫体験で頭がぼーっとしていた。その頭を起こすように白い筒のハッチが開いた。



パラシュートは真ん中が破れる仕組みになっていた。そのおかげで白い筒のハッチからスムーズに外に出ることが出来た。もしこうでなかったらパラシュートの中をモグラのように動かなければならなかった。


4時間ぶりの外の空気。大きく深呼吸した。それからあたりを見渡す。視界に入るのは砂、砂、砂それから砂ときどきサボテン。


「砂漠は初めてかい?」


後ろから声が聞こえた。振り向くとそこにはプロペラのついた鳥の人形がいた。鳥は翼で飛ぶがその鳥にはプロペラがついていてそれはせわしなく回転していた。声の主はどこかで聞いたことがある声だった。


「ハロルド?」

「ああ、右腕サイボーグ君僕らレジスタンスはあいにく人手不足だ。だからオペレーター兼エンジニア兼戦闘員をやってるよ。最も僕は戦場には行かないが」


ハロルドはただの作業員ではなかったのか。そういえば射出される時あの場にオレとハロルドしかいなかった気がする。しかしエンジニアの仕事もあるだろうにオペレーターもやるとはとても大変なんだろう。と他人事のように思った。戦場に行かない戦闘員、それは少し気になったがーーー


「右腕サイボーグ?」

「そのあだ名は不安かい?」

「いや、いやってわけじゃないんだけど…」

「ならいいじゃないかカッコイイと思うよ。…………あ、ターミネーターがいい?」

「いや、いいよ 」


シュワルツェネッガーの出演作が好きなオレにとって少し悪くないと思ったが、サイボーグの方がしっくり来た。


「早く自分の名前考えるよ」

「そうしてくれ、呼び名に困るからね」


プロペラのついた鳥と、右腕が真っ黒な男とのなんとも奇妙な会話だ。


「さて、まず話しながらで構わないんだけどポッドからシャベルを取り出してくれ」


この白い筒はポッドって名前なのか。はいはい、と答えてポッドからシャベルとは言い難い金属の塊を取り出す。それはシャベルの持ち手と救う部分しかなかった。一瞬使い方がわからなかったが、持ち手についていたボタンの存在に気づいた。押すとシャベルは伸びてオレの知っているシャベルの長さになった。学校で先生が使う指し棒のようなものだ。


「これで?」

「パラシュートごと砂で隠してくれ」

「パラシュートたためないの?」

「いや、パラシュートごと倒した方が自然だからね」


なるほど、と理解する。確かにポッドだけに砂をかけるのでは不自然に砂山ができるだけだ。全体的にばら撒いたほうが自然だろう。


「作業しながらで構わないが、その腕についての説明をするから聞いていてくれ」

「わかった」


オレはせっせとパラシュートに砂をかける作業をしながらそれを聞いた。


まず一つ目にオレの右腕は76.2×39mm弾を毎分600発撃てるらしい。弾薬は肩から装填できる。レザーやら小型レールガンやらの時代に鉛弾というのは古臭さを感じるが、オレの趣味には合っていた。


放電、と入っても手のひらから稲妻を放出するというものではなく、手の上でバチバチと放電できる程度だそうだ。せいぜい気絶させる程度らしい。しかし、使いようによってはかなり重宝するだろう。しかし、エネルギーの使いすぎには注意。


それから怪力、これでスーパーマンさながらのパンチができる。鉄筋コンクリートの壁でさえ破壊できる。


「試しに、その怪力で砂をかけてごらんよ」


そう言われてスコップを片手で持ち上げる。右手の感覚はないため、重さや感覚は分からなかった。しかしそれがこの腕の利点だ。軽く、砂を投げる気持ちで腕を振った。


砂はアーチを描いてパラシュートに被さった。少ない量だったが、右腕の力を知る分には充分だった。

しかし、現在3割が砂で覆えているがここまでで30分かかっている。ここまで両手で頑張った自分が馬鹿みたいに思える。ハロルドに対して先に言ってくれよと言いたくなったのはお察しだ。


「ハロルド、最大でどれくらいの力が出る?」

「さっきも言ったとおり鉄筋コンクリートを容易に破壊できるけど………ごめん僕もその腕に関してはよくわかってないんだ」

「え?」

「言葉の通りさ、僕が作ったわけじゃないからね。それはある日エルナがどこからか持ってきた物なんだ。」

「てっきりハロルドが作ったものかと思っていたよ」

「いや、僕だってそんなオーバーテクノロジーな物は作れないさ」


そっか、と言ってそのままシャベルを右腕で持ち、ゴルフの体制をとった。片腕なのでそれとは言い難いが。


「何をする気だい?」


ハロルドは焦っているようだった。


「実験」


そう言ってオレは力いっぱいパラシュートめがけてシャベルで砂を巻き上げたーー

ーー小さな砂嵐が出来る。


砂煙が晴れるとそこにはごく自然にカモフラージュされたパラシュートとポッドがあった。よし、と軽くガッツポーズをする。プロペラのついた鳥は今の小さな砂嵐で飛ばされたらしく、数秒後に戻ってきた。


「思い切ったことをするね、この威力には僕もびっくりだよ」

「俺もびっくりだよ」


ハロルドは続けて、しかし…、と口を開く。


「その代わりに穴ができちゃったみたいだね」


オレは後ろを振り向き、その状況を見る。見事なクレーターだった。


「あ」


その後、シャベルでこの穴を数時間かけて埋めたのは言うまでもないだろう。




「改めて私の名前はエルナ、よろしくね」


彼女は笑顔でそう言って手を差し出すーー

ーー僕はそれに答えて握手した。


「僕の名前は……」


口ごもる。蒔田信也はもう死んだ。新しい僕の名前はどうしようかと思った。


「決まってないならいいよ、今度改めて君を紹介してくれ」


少し考えて


「そうさせてもらうよ」



その後、エルナから作戦についての説明があった。


今回の目的は「hkm」を作った研究所を使用不可にする。その際に組織のリーダーを捕獲。

まず、僕が先に現地に到着。ヘリの降下位置にマーキングをする。それから警備の数を偵察、破壊できれば破壊する。

その火の夜、全員で突入。


これが一連の流れらしい、詳しくは資料に目を通して、と言われたがざっくりしすぎではないだろうか。


しかし、僕を殺そうとした「hkm」を作った研究所を拝めることが出来てしかもこの手で破壊できるなんて、内心とても気分が高揚していた。



病室からエルナが出る時だった。彼女はこちらを向かなかったがはっきりとこう言った。


「一人称、僕よりオレの方が君には似合うわ」





















お読みいただきありがとうございます!!


今回は一人称がオレに変わったことの伏線をやっと拾えました。

それから今まで言われなかった「彼女」の名前など。今まで名無しでよくやって来れたと思います。

主人公の名前決まってないですけど(ボソリ)

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