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暫く経ったある日のこと。私が家に帰ると林檎は倒れていた。ここ数日彼女は体調が悪そうだった。
「どうしたんだい?」
駆け寄って訪ねる。彼女が体を起こそうとしたので私は手伝った。
「虫喰いが酷いみたい」
彼女は涙を流しながらも、無理に笑ってそう言った。熟しきった林檎の香りが強く漂う。
「ごめんね」
「あなたが謝ることじゃないわ」
「早く食べておけば君は苦しまなかったのに」
林檎は何も答えずに微笑み、そして私を抱きしめた。
「お願いがあるの」
掠れた声で言う。
「私が死んだら、私の種をどこかに植えて」
「わかったよ」
「それと、私の屍体を食べてくれると更に嬉しいわ」
そう言って笑う彼女に私はキスをする。口いっぱいに熟れた食べ頃の林檎の香りを残して彼女はそっと倒れた。
彼女は甘かった。
そして、私は彼女の言葉通りに種を庭に植えた。
数年後、林檎の樹は立派に実っていた。彼女達は静かに眠りながらも歌っていた。
Ŝi diris.
Mi estas la pomo.
Li diris.
Mi estas blua.