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パシン、と誠一郎の頬を叩くと、私は自分のしたことに動揺した。


「あの……ごめん……そういうつもりじゃ……」

誠一郎はとうとう声をあげて泣き始めた。


「大切だって言ったのに、ぶつなんて……」

「ごめん、でも誠一郎おかしいよ。私が言ったことがそんなに信用出来ない?」

「信じたいよ!俺だって信じたいよ!だけど、唯が……!!」

「相原さんになに言われたの?」

「付き合ってるのに何もないなんて、おかしいって……!!沙織が女の子だから、俺を好きになれないんだろうって……!!」

私はドキッとした。

確かに女の子だから手を出せないということは一理ある。

でも、それは女の子だから、大切にしたいって思ってる気持ちと同じ。

やたらと軽々しく自分の身体を他人にどうこうされたくないというのも本音。


でも、とにかく今は誠一郎にわかってもらうより、大事なんだとわかってもらうほうが先決だ。


「私は、身体を好きになったわけじゃないよ。誠一郎が誠一郎だから、好きになったのであって、決して身体目当てとか、奢ってくれるとか、そういうんじゃない」

「ホントに?」

「うん」

「ホントのホント?」

「ホントのホントに」

「信じていいんだよね?」

「当たり前でしょ?」

そう言うと、誠一郎は泣き止んだ。

そして私に向かって微笑みかけると、泣きはらした目で頷いた。



「今日はなに食べようか?」

と明るく聞いてくる誠一郎。

さっきまでの涙はどこふやら。

「今日は……カレーが食べたいかな」

「カレー?本格的なほうのカレー?」

「うん、インドカレーとか」

「ちょっと待ってね、ググってみる」

そういうと誠一郎はパソコンに向かってキーボードを叩いた。


「ここから一番近いのは、街の外れにあるみたい」

「そっか、じゃあ、たまにはタクシーで行ってみるかな」

最近は誠一郎もすっかり女の子になって、しゃべりかたも女の子らしくなった。私の前でだけ「俺」というけれど、その他の言葉遣いはホントに女の子らしくなった。


私は?と振り返ってみるが、私は全く成長できていない気がする。

確かに係長になって、人に指示することも増えたけど、敬語は難しい。一応使えるようにはなったけれど、まだまだ甘いな、と感じる。ふとした時に女言葉になっていたりもする。

周りはみんな慣れてしまい、そのことについて言及してくる人もいなくなったけど、この間、ゴキブリが出たときなんざ、うわぁ、とかうぉぉとかではなく、

「キャー!!誰か、誰かやっつけて、早く!!お願い〜!!」

と叫んでしまい、係中を騒然とさせてしまった。

結局ゴキブリは安野の手によって退治され、ことなきを得たのだが……


あとは最強なかなかいけてないジムでも、ふとしたときに女言葉が出たりする。

もう、コーチの宮本さんも気にしていないみたいだが、他の生徒がいるときは、妙な顔をされる。



誠一郎がタクシーを呼ぶと、五分程でタクシーはやって来た。

二人でタクシーに乗り込むと、街の名前を言ってタクシーは走り出した。


まだ正月気分が抜けていないのか、門松を飾ったままの店が何軒かある。

もうすぐ十五日だから、どんどやにでも出すのだろう。



タクシーが店の前で止まると、支払いは私が済ませた。

いつもは自転車で来ているので、なんだかくすぐったい感じがする。


カレーの匂いはいい匂いで、店の外まで匂ってきた。食欲をそそる香りだ。


私が先に入り、誠一郎はあとに続いた。

インド人らしき人が店内を案内する。

二人用の席に腰かけると、メニューをもらった。

私はすぐにメニューを決めたが、誠一郎はうんうん唸っている。

どうやら辛いのはにがてらしい。



カレーが届くと、二人でわけあいっこしながら食べたのだった。

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