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俺は少し安心していた。
沙織がキスをしてくれた。額にだけど。
その上、俺とのことを想像して一発抜いてくれたようだ。
俺のこと、一応女の子として意識してくれてたんだ……
そう思うとホッとした。
男の俺が言うのはおかしいが、女性として意識してくれていないのでは?と、内心不安ばかりだった。
でも、額にでもキスをしてくれたのは事実だし、その上、大切だと言ってもらった。
これほど嬉しいことはない。
俺を大切にしたいから、先に進まないんだって。うふふ。
翌日、学校へ行くと、由美子と瞳に自慢した。
由美子と瞳は、うらやましげに聞いてくれた。
それがまた嬉しくて、俺は相原にまで自慢をした。
相原はその話をふんふん、と聞くと、
「よかったね」
とだけ言った。
それが気に入らなかった俺は、
「大切だから今はしないんだって」
と、もう一度言った。
相原は、
「それってただの言い訳じゃないの?」
と冷めたように言った。
「言い訳?」
「だって、中身は女の子なんでしょ、あの人。それを周りに知られたくないからあなたと一緒にいる。でも、それ以上進まないのは、やっぱり女の子同士ではできないからじゃないの?」
一瞬俺はドキッとした。
その可能性は否定出来ない。
昨日抜いてきたかどうかなんて、実際はわからない。ホントのことは、誰も知らないことだ。
俺も反応から勝手に抜いてきただなんて思ったが、想像に過ぎないと言われればそれまでだ。
「でも、私のこと考えて抜いてきたって言ってくれたし……」
必死に弁解する。
それでも相原は、
「それが事実だって証拠はあるの?」
と聞いてきた。
「それは……ない……けど……」
俺はしどろもどろに答えた。
それを相原は見逃さなかった。
「ほら。わからないんでしょ?普通付き合っていたらやりたくなるのがホントでしょ?」
「唯は……安野さんと、シテるの?」
「当然でしょ。何ヵ月付き合ってると思ってるのよ?」
その答えを最後に、俺は相原から離れた。
授業中もそのことが気になって気になって、授業に身が入らなかった。
やっぱり、好きじゃないのかなぁ……
帰り道、気になって仕方がなかった俺は、沙織に電話をかけた。
三コール目で沙織は電話に出た。
「今日、残業だったりする?」
『いや、残業は今日はしない。体調が万全とは言えないし』
「じゃあさ、今日ご飯食べに行かない?」
『いいけど……なんかあった?』
「ううん、特には、何にも」
『なんか声に元気がないぞー?』
「……ちょっと……考え事」
『そう?ならいいんだけど。一回帰ってから食べにいこうかな』
「うん……待ってるね」
俺はそう言うと電話を切った。
いつもご飯代、俺が出してるけど、もしかしたらそれも俺を都合よく使っているだけなのかな?
疑い始めたらきりがなくなった。
沙織が帰ってきた。
俺は待ち構えたように、沙織を質問攻めにした。
相原の言った通りに質問をしていった。
「沙織はさ、ホントは俺のこと好きじゃないんだよね?」
「なんでまたそういう……」
「だって中身が女の子なのに、女の子に興味を示すわけないもんね」
「それは、誠一郎だって同じことじゃないの?」
「やっぱり付き合ってるのに何もないって、正常じゃないよ!」
「それは昨日も言った通り、大切にしたいからで……」
「嘘!ホントはやる気なんてないんでしょ?」
「一体誰に何を言われたのか……」
沙織の言葉が終わらないうちに言葉を吐いた。
「ご飯代だしてくれる、ラッキーな存在なんだよね!」
――パシン、と頬を叩かれた。
その途端俺は力が抜けたようになり、へたへたと座り込んだ。




