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俺がついたときには、沙織はぐったりとして、スーツのままベッドで倒れていた。


とりあえず買ってきたゼリー飲料などを冷蔵庫に突っ込む。

それからおかゆの作成にかかった。

運よく炊飯器には余ったご飯があった。

それを鍋にぶっ混むと、水を足してぐつぐつ煮立てた。

買ってきた鰹節と梅を添えて、ベッドの脇まで持っていく。


と、その前に体温計。


沙織に熱を計らせると、八度を越えていた。

熱冷ましを飲んだのにこの高熱。

俺はおかゆを一旦床に置くと、沙織に

「病院に行くよ!」

と声をかけた。一〇四に電話して近辺のタクシー会社の電話番号を調べると、すぐにダイヤルした。

五分かからずやって来たタクシーに、懸命に沙織を押し込み、自分も乗った。

一番近い病院……運よく今日は遅くまでやっている日だった。


沙織を座らせると、背中をなでていたが、だんだん意識が朦朧としてきているらしく、ふらふらだった。

「本宮さん」

と呼ばれたときには、目はうつろになっていた。

俺も続いて診察室に入ろうとしたが、看護師さんに止められた。


それから沙織はベッドに寝かされ、点滴を打つことになった。

インフルエンザは陰性だった。

連日の疲れと風邪が重なったのだろうと言うことで、二時間、点滴をした。

俺は二時間の間、ずっと沙織の隣にいた。

沙織のスマホを取り出してゲームしたりしながらずっと待った。

沙織は途中から寝てしまい、俺は一人、院内の自販機でジュースを買ってきて飲んだ。


二時間経ち、沙織は目覚めた。点滴もちょうどなくなったところだった。看護師さんに言って針をはずしてもらう。

沙織はずいぶん顔色もよくなり、元気になったようだった。


会計を済ませると、一番最後の患者だった。


「遅くまですみません」

と俺が言うと、事務の人が、

「いいえ、お大事に」

と言ってくれた。


薬はさっき俺が取りに行った。風邪薬に解熱剤、胃薬が出された。


帰りのタクシーでは、沙織はしっかりしていて、点滴一つで、こうも違うものかと感心した。

アパートについてから、さっきのおかゆを温め直して沙織のベッドまで持っていった。


沙織は旨い、旨いと言いながら完食してくれた。

さっきゼリーを食べたのと点滴で、しばらくはよさそうだったので、おかゆの残りにラップをかけ、冷蔵庫にいれると俺は帰路についた。


沙織が倒れるなんて、よほどきつかったんだな、と俺は思った。


だが、最近は残業も減り、ジムにも週二回くらいの割合だし、過労というには程遠いものがあった。


よく考えてみて、やっぱり平野さんの件しか思い付かなかった。

沙織にそこまで心配されて、と俺は嫉妬心でいっぱいになっていった。

俺が倒れたら、沙織は一体どうするだろう?実家暮らしだから、見舞いに来るくらいしか出来ないだろう……

そう思うとなんだか悔しさが込み上げてきた。

俺はこんなに沙織のことが好きなのに、沙織は時々心ここにあらず、のようなときがある。

平野さんのことを心配でもしているんだろうと思うと、余計妬ましくなって、そんな自分に嫌気がさして、悶々とした。


こういうときに友達って要るんだよね。昔なら考えもつかないことだったが、由美子に話を聞いてもらうことにした。


三コール目で由美子は電話に出た。

『もしもし?』

「もしもし?由美子、ごめん。愚痴りたいことがあってさ……」

『なーに、どうしたの?』

俺は今日の出来事を懸命に由美子に訴えた。

由美子の返事は

『それ、考えすぎだよ。嫉妬しすぎ。まず、彼氏を信じなきゃ』

だった。

そっか……考えすぎか……確かに勝手に疑心暗鬼になっていたな……

俺は反省すると、由美子との電話を切ったのであった。

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