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その日の夜、沙織から平野さんのことを相談する電話が入った。

とりあえず平野さんにはいつも通りに接すればいいんじゃない?

とアドバイスして電話を切った後、なんだか無性にもやもやした。

最初それが何なのかわからずにいたけれど、それが嫉妬だと気づくととてもイライラした。

沙織が誰かから告白される。沙織は優しいから断れないかもしれない。俺とは情で繋がっているだけかもしれない。

そう思ってむしゃくしゃしたし、そんなことでむしゃくしゃしている自分自身にもイラついた。


気がつくと真っ暗な部屋で、一人クッションを抱き抱えて泣いていた。

階下から母が

「沙織ーお風呂いいわよー」

と言った声にドキッとし、

「はーい、今いく」

パジャマを握りしめて涙を拭くと小走りにお風呂へ向かった。


お風呂の中でも始終その事が頭を占めていた。

平野さん。

決して顔はよくはないけれど、しっかりしていて真面目だし、仕事の要領もよかった。

ブスではないんだけど。


平野さんは俺が勤め始めたときにはいて、いつもみんなのコーヒーやお茶を淹れてくれる、心根が優しいひとだった。

それだけに、俺のことを好きだったなんて、想像もつかなかった。

もしかしたら痩せた俺を見て惚れたのかな?それならありだ。


どのみち、沙織が決めることだ。


俺には手の出しようがない。



俺はそう思うと勉強を始めた。

来週は中間テストなのだ。平野さん騒動にかまけている場合じゃない。

何度もそう思っては、途中から平野さんのことを考えたりしていた。集中出来ない。


平野さん。

決して嫌いではなかった。ぼっちの俺にもちゃんとお茶をいれてくれていたし、親しく話しかけてもらったりもしていた。

もちろん俺は無言だったが。

好きでもなかった。女の子を好きになることはまずなかった。

リアル女子はなんだか怖い生き物のような気がしていたからだ。

好きになるなら二次元で充分だった。


そういえば、机の下にあったエロ漫画はさっさと捨てられていた。苦労して集めたのに、沙織がぽいっと捨ててしまった。あのときには泣けた……


っと、話が逸れてしまった。

平野さんのこと、そう考えれば昔から俺を気にかけてくれた気がする。





学校に行ってもため息ばかりだった。

由美子が、

「ため息一つつくと幸せが十逃げていくんだよ」

と言った。

瞳は

「彼氏と喧嘩でもしたん?」

と聞いてくれる。

俺はそれだけで充分幸せな気分になった。

ことの一部始終を二人に話すと、

「それは彼氏が悪いよ」

「うんうん」

二人は沙織が悪いと言う。

「そもそも手作り弁当を受け入れた時点でだめだね」

「だね」

「そうかなぁ、そういうもん?」

「だいたい、その時に普通は察するものでしょ?」

「普通ならね……」

私のその一言で

『私の彼氏の中身は女の子である』

と言ったことを全員思い出していた。


「女の子だから、自然と受け取ってしまったのかも……」

由美子が発言する。

「私もそう思う……」

と俺が言ったが、瞳は

「それでも気づけなかったのは罪だね」

と言った。

「いっとき、その平野さんのこと、普通に接していればよくなるよ」

結局結論はそうおさまった。


まさか自分が誰かに好かれるなんて考えたこともなかった。

今までぼっちで暮らしてきて、沙織のことだけでも驚きだったのに、まさか自分を好きになる人がいるなんて、それこそ驚きだった。


驚きを通り越して、狂気だった。

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