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俺は出てくる料理に驚いた。

本格的なイタリアンのお店みたいなラインナップだった。


並べられていく様はお見事!と言うしかなかった。サラダにもカシューナッツや生ハムなどを使って豪華な料理だ。


つまみ食いしようとしたら沙織に見つかって怒られた。

「つまみ食いなんて、はしたない!」

「俺、はしたない!なんて怒られたの初めてだ」

「とにかく、あとはご飯をよそっていくだけだから」

「はーい」

俺は上機嫌に返事をした。



ご飯が並ぶ。

沙織も座って、「いただきます!」と相成った。

ご飯はめちゃくちゃ美味しかった。特にミネストローネ。これは三回もおかわりをした。サラダもしゃくしゃくしていて、生ハムと相性よく、とても美味しかった。ドレッシングはなにを使っているのかと聞くと、オリーブオイルと塩だけだという。塩だけでここまでうまいとは思わなかったよ。

チキンローストはこれまた旨かった。バジルソースがぴったりの、外側パリパリ、中はじゅわっ、と最高の味だった。


沙織がここまでやるとは正直思っていなかったので、恐れ入った。

沙織に聞いたらレシピを見て、ちょっと改造しただけだと言う。

レシピを見て、かぁ……そこがちょっと残念だったけど、とても旨い食事だった。

どこの嫁に行っても恥ずかしくない。

というか、うちに婿入りしてもらうんだけど。

母にお土産ももらったし、今日はカラオケの約束だったので、後片付けをしてカラオケに出発した。


カラオケも手慣れたもので、どんどん歌いたい曲を入れる。古い曲が多いが、周りに感化されて、最近は新しいアイドルの歌も歌うようになった。

沙織は相変わらず女子アイドルの曲を歌っている。これって新年会の二次会、カラオケ、やばいなと思い始めた。三十過ぎて女子アイドルばかり歌っていたら変に思われはしないか?

そこからは、俺の指導のもと、中高年が歌う歌を叩き込んだ。メロディラインが今最近の曲とは違って単調だから覚えやすかったらしい。五曲ほどマスターした。得点も九十点代がほとんどでいい感じだ。


うちの会社は忘年会をしない代わりに新年会がある。


沙織に、

「飲みすぎたらダメだよ」

「タクシーはミハナタクシーがいいよ」

「三次会までいっておくといろいろと情報が入っていいよ」

と言っていたら

「うざい。そんなん適当に決めるわ」

と言われてショックだった。

確かに口うるさいかもしれないけど、俺は沙織のためを思って言ったのに……


「なーんてね。わかってるよ。サンキュー」


その一言で一喜一憂できる俺って凄いと思う。



カラオケのあとはカフェでお茶しようということになり、半地下のカフェへ入った。


ところが、そこに後ろ姿が誰かによく似たひとが働いていた。

俺は目を見開く。発作がくる。そう思って身構えた。

すると、沙織が

「私の方を見て。ゆっくりでいいから」

と言ってきた。

沙織は薬を取り出すと、私に渡しながら言った。

「彼は別人だよ。よくみてごらん」

と言った。

「そばには私がいる。何も怖いことは起こらない、ね?」

俺は言われた通りにすると、不思議と発作が治まった。薬も飲んでないのに。

ただ、手は冷たくなり、あまり動かせなくなっていた。

それを沙織がほぐしていってくれる。

「よく我慢できたね、偉いよ」

と褒めてくれた。

俺はなんとか動かせるようになった手でコーヒーカップを持ち上げ、一口飲んだ。まだ手は震えていたが、いくぶんかましになっている。

もう一口、コーヒーを飲むと、そこはいつもの日常世界だった。

トラウマを一つ、乗り越えたんだ。

沙織のおかげでもある。

俺は今日のことも忘れない、そう思った。

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