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おみくじを見たあとは甘酒のコーナーへと移動した。

二人分二百円を払うと熱々の甘酒をもらった。

あまりの熱さに口をつけることもできない。

沙織は普通にふーふーして飲んでいた。

「熱くないの?」

と聞くと、

「うーん、少し熱いかな?」

と返す。

俺が猫舌なだけなのかな?

沙織は先に飲み終えて、タバコに火をつけた。


最近沙織はタバコを吸うようになった。

俺としては禁煙できるなら禁煙していて欲しかったのだが、アパートに一人でいると、口寂しいらしく、俺が吸っていた銘柄をそのまま吸っていた。

灰皿の前にあるベンチに二人で座り、俺は熱々の甘酒を必死に冷やした。

沙織が二本目のタバコに火をつけたとき、ようやく飲める熱さになって飲み始めた。

「急がなくていいからね」

と沙織が言う。

「うん、わかった」

と答える私。

寒空の下熱々の甘酒を飲む。

去年の今日は一人で部屋でパソコンしてたっけ……ぬちゃんねるに書き込みをしていた気がする。

今じゃそんなところに行きもしなくなった。

学校に、恋に精一杯だから、そんなところに行く必要がなくなったのだ。


たった九ヶ月でこうも人生が変わるとは思ってもみなかった。


沙織にぶつかったのが四月。

それからいろいろあったなぁ……

俺は沙織のことがすぐ好きになった。

その行動力、思考、すべてにおいて沙織は俺の理想像だった。

だからなのか、気づいたときにはもう、好きになっていた。

自分が自分に恋をするようで、気持ち悪いと最初は思ったりもしたが、いつの間にか、それが沙織の内面だということに気がつき、納得した。


今も沙織は憧れの人でもある。


甘酒を飲み終えて、帰り道、うちに寄っていかないかと沙織を誘った。

去年実家に連れていってもらったお礼をしたいと思ったのだ。

だが、沙織はそれを断った。

まだ、父が私を認めてくれていないのにあがることはできない、と。


俺は認めさせるためにもあがってよ、と言うが、あがらない、と言う。


そんな話をしていたら、もう家についてしまった。

門の前で話し込んでいると、年賀状を取りに母が出てきた。

「本宮さん、あがってあがって」

母はにこやかに沙織を後ろから押して歩く。

さすがに沙織もこれには参ったらしく、おとなしく家にあがった。


「お父さん、本宮さんがいらしたわよ」

母が玄関口で大きな声を出す。

するとリビングの扉が開いて、父が顔を見せた。

「あがりなさい」

父が言った。

その一言がどんなに嬉しかったか、きっとみんなにはわかるまい。


沙織は

「お邪魔します」

と言って靴を並べてからスリッパをはいてリビングへ通された。


父は飲んでいた。

「本宮くんも、一杯、やるかい?」

珍しく父の機嫌がいい。

「はい、いただきます」

沙織もドキドキしている顔をしながら、父に応えた。


「お母さん、ビールを取ってくれないか?乾杯しよう。お前もジュースを持ってきなさい」

と言われ、炭酸ジュースを取りに行った。

「お父さん、機嫌がいいのね」

と母に聞くと、

「今日は本宮さんが寄るだろうから、お酒を多目に買ってくれって言われてたのよ」

父はそんなことは一言も俺に言わなかった。

父は父なりにいろいろ考えてくれているんだ、と思うと涙が出そうになった。


全員が揃ったところで、乾杯をした。

ホントは俺もビールで乾杯したかった。未成年ということを今ほど悔やんだことはなかった。


父は積極的に沙織に話しかけていた。仕事の内容とか、収入の話。これは婿入りチェックだな。

父は厳しそうだからなぁ。俺は一人っ子だし、娘だからな、慎重にもなるだろう。

そう、思った。

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