86
おみくじを見たあとは甘酒のコーナーへと移動した。
二人分二百円を払うと熱々の甘酒をもらった。
あまりの熱さに口をつけることもできない。
沙織は普通にふーふーして飲んでいた。
「熱くないの?」
と聞くと、
「うーん、少し熱いかな?」
と返す。
俺が猫舌なだけなのかな?
沙織は先に飲み終えて、タバコに火をつけた。
最近沙織はタバコを吸うようになった。
俺としては禁煙できるなら禁煙していて欲しかったのだが、アパートに一人でいると、口寂しいらしく、俺が吸っていた銘柄をそのまま吸っていた。
灰皿の前にあるベンチに二人で座り、俺は熱々の甘酒を必死に冷やした。
沙織が二本目のタバコに火をつけたとき、ようやく飲める熱さになって飲み始めた。
「急がなくていいからね」
と沙織が言う。
「うん、わかった」
と答える私。
寒空の下熱々の甘酒を飲む。
去年の今日は一人で部屋でパソコンしてたっけ……ぬちゃんねるに書き込みをしていた気がする。
今じゃそんなところに行きもしなくなった。
学校に、恋に精一杯だから、そんなところに行く必要がなくなったのだ。
たった九ヶ月でこうも人生が変わるとは思ってもみなかった。
沙織にぶつかったのが四月。
それからいろいろあったなぁ……
俺は沙織のことがすぐ好きになった。
その行動力、思考、すべてにおいて沙織は俺の理想像だった。
だからなのか、気づいたときにはもう、好きになっていた。
自分が自分に恋をするようで、気持ち悪いと最初は思ったりもしたが、いつの間にか、それが沙織の内面だということに気がつき、納得した。
今も沙織は憧れの人でもある。
甘酒を飲み終えて、帰り道、うちに寄っていかないかと沙織を誘った。
去年実家に連れていってもらったお礼をしたいと思ったのだ。
だが、沙織はそれを断った。
まだ、父が私を認めてくれていないのにあがることはできない、と。
俺は認めさせるためにもあがってよ、と言うが、あがらない、と言う。
そんな話をしていたら、もう家についてしまった。
門の前で話し込んでいると、年賀状を取りに母が出てきた。
「本宮さん、あがってあがって」
母はにこやかに沙織を後ろから押して歩く。
さすがに沙織もこれには参ったらしく、おとなしく家にあがった。
「お父さん、本宮さんがいらしたわよ」
母が玄関口で大きな声を出す。
するとリビングの扉が開いて、父が顔を見せた。
「あがりなさい」
父が言った。
その一言がどんなに嬉しかったか、きっとみんなにはわかるまい。
沙織は
「お邪魔します」
と言って靴を並べてからスリッパをはいてリビングへ通された。
父は飲んでいた。
「本宮くんも、一杯、やるかい?」
珍しく父の機嫌がいい。
「はい、いただきます」
沙織もドキドキしている顔をしながら、父に応えた。
「お母さん、ビールを取ってくれないか?乾杯しよう。お前もジュースを持ってきなさい」
と言われ、炭酸ジュースを取りに行った。
「お父さん、機嫌がいいのね」
と母に聞くと、
「今日は本宮さんが寄るだろうから、お酒を多目に買ってくれって言われてたのよ」
父はそんなことは一言も俺に言わなかった。
父は父なりにいろいろ考えてくれているんだ、と思うと涙が出そうになった。
全員が揃ったところで、乾杯をした。
ホントは俺もビールで乾杯したかった。未成年ということを今ほど悔やんだことはなかった。
父は積極的に沙織に話しかけていた。仕事の内容とか、収入の話。これは婿入りチェックだな。
父は厳しそうだからなぁ。俺は一人っ子だし、娘だからな、慎重にもなるだろう。
そう、思った。




