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帰りの電車で俺は爆睡していたらしい。起こされて気がつくと、もう乗り換え駅だった。


俺は改めて今日のことを思い出し、ゆっくりと噛み締めた。

やはり家族というのはいくつになってもホッとするものである。

今は沙織の家族と過ごしているが、やはり小さな頃から慣れ親しんだ家族のほうが心が温まる。

決して沙織の家族が悪いとかではないのだが、自分の家族という存在に、俺の胸はキュンと鳴るのだった。


歩きながら、沙織に今日のお礼を言った。

「沙織、今日はありがとうな」

沙織はニコッと微笑むと

「このくらいのことで、お礼なんていらないよ」

しかし、俺は本当に感謝していた。だから、乗り換え待ちの間、沙織の手を握りしめていた。

沙織は、もう反対側の手でカイロを出すと、俺の反対の手に握らせてきた。

「今日は久しぶりにとっても緊張した!」

と沙織が言う。

「だろうね」

ほぼ固まったままだった沙織を思い出して吹き出した。

「なんで笑うの?」

「だって、ずっと固まったままだったから」

「そう?私、結構しゃべったよ?」

と言う沙織に

「余計なことをしゃべられるよりよかったんだけどね」

と笑いながら答えた。


やがて電車が来て、乗った。年末も末の電車だったので、乗っている人は少なかった。どこかへ初詣に行こうかと言うグループばかりで、帰省している人はほとんどいなかった。


無言が続く。


なにか話したほうがいいのか、俺が迷っていると、

「初詣、何時ごろから行こうか?」

と沙織が聞いてきた。


「朝は家族で過ごすって言ってたから、午後からかな」

「わかった。自転車で迎えに行くよ」

「わかった」

あとは帰り道、一言もしゃべらなかった。

でも、それは嫌な感じの沈黙ではなく、わかりあってるからしゃべらない、温かい時間だった。





家に戻ると、母が年越しそばの準備をしていた。

「おかえり、沙織。どうだった?」

と母が聞く。

「快く迎えいれてもらえたよ」

「そう……よかったわね。パニックとか、発作は大丈夫だった?」

「うん、一回だけ行き道に薬を飲んだけど、あとは平気だった」

「そう?それならよかったわ」

時計を見ると、もう午後十一時を回っていた。

「沙織、これ、できたやつから持ってって」

と言われ、熱々のそばを持っていった。


父はもう飲んでいて、赤い顔をしながら紅白を見ていた。

父の前にそばを置く。

「おっ、うまそうだな、どれどれ?」

とつまもうとして母に怒られた。

「年越しくらい、がまんできないの!?」

父は舌をペロッと出して見せた。

まったく、お茶目なんだから。


年越しそばも揃い、家族でいただきますと言って食べ始めた。

「おいしいよ!お母さん!」

「毎年同じことを言う」

と笑われて、沙織がいつもどんな風に過ごしていたかが垣間見えた。


そばを食べ終えて、茶碗を洗うと、再び父の横に座った。

珍しく家族でテレビを見ている。

沙織は今頃一人なんだな、と思ったら、胸がキューンとなったので、俺は電話しに二階へあがった。

沙織はすでに酔っぱらっているようだった。紅白を見る音が聞こえる。

「一人にしてごめんね」

と言うと、

「たまにはゆっくりこういう時間も必要だってことだよ」

とのんびり答えた。

「身体は一緒にいれないけど、心はいつも一緒だからね」

と言うと、電話の向こうで吹き出してむせる沙織がいた。

「ちょっと、なんで吹き出すんだよ!?」

と聞くと、

「似合わないことをいうからだよ」

と笑われた。


そんな会話すらいとおしいと思った。


やがて、時刻は0時へ――


「明けましておめでとう」

今年の最初の会話はやっぱり沙織だった。

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