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寿司屋につくと、お母さん、お父さん、私、誠一郎と兄貴の家族は別れて座った。

誠一郎も落ち着いていて、いい感じに会話がはずんでいた。

私はそれを見ているだけで楽しかった。

「こいつ、おとなしいでしょう?」

お父さんが誠一郎に聞いた。

「そんなことはないと思いますよ。会話がちょっと苦手なだけで……」

横から口を挟むと、誠一郎に腕をつねられた。

私はしかたなく家族に関するわずかな情報だけを頼りに口を開いた。

「お父さん、手術のあとはどう?どこも変わりない?」

お父さんはニコニコして答えた。

「おかげさまで、元気だよ」

お父さんは三年前、大腸癌の手術を受けているそうだ。

「お前が体調を心配してくれるなんてな。」

お父さんはニコニコして言った。

お兄ちゃんに

「仕事のほうはどうなの?」

と聞くと

「相変わらず第一信用金庫だよ。融資部長になった」

「ちょっと!それすごいじゃない!」

誠一郎がわめきたてる。

私は誠一郎をなだめながらお兄ちゃんの様子を伺った。

「たかだか融資部長にそんなに大騒ぎすることじゃないさ」

誠一郎が、すかさず

「誠一郎さんだって、今は総務部の係長さんなんですよ!」

と言う。

お父さんもお母さんもびっくりして、身を乗り出してきた。

「お前、それ本当なのか?」

「本当だよ。嘘ついたって仕方ないでしょ」お父さんとお母さんは、大喜びして、

「一杯食べて栄養をつけなさいね」

と言った。


私は、家族ってやっぱりいいな、と思った。

最近はたまに自分の実家に上がらせてもらったりしているけど、やっぱり家族って一番だよね。


寿司屋の帰りはショッピングモールに足を運んだ。

お父さんが、スーツを買ってやると言って聞かなかったのだ。

「スーツは男の戦闘服だからな!」

私は遠慮したが、どうしてもと言うことで、甘えることにした。

「それにしても、痩せたなぁ。病気とかじゃないのか?」

「ダイエットしたんだよ。結構きつかったけどね」

「昔からお前は太めだったからな。今は面影しかないわ」

ははは、とお父さんは笑った。そういえばお兄ちゃんは細身だ。

「昔からお前は俺に似てたからなぁ。でも、ダイエットって、無理してるんじゃないのか?」

「無理なんてしてないよ。ちゃんとご飯も食べてたでしょう?」

「ならいいんだが」

甥っ子はゲームコーナーで遊んでいる。

早く決めないと、お兄ちゃんたちに迷惑がかかる。そう思って少し焦ったが、お兄ちゃんがそれに気づいて言った。

「ゆっくり、いいぞ。いつものことだから」


結局、スーツ一式とネクタイを買ってもらってしまった。

「昇進祝いだ、なぁ、母さん」

お母さんはうんうん、と頷いていた。


やがて時間が経ち、夕方になった。

お手製のおせちと雑煮と年越しそばがでてきた。

「まだちょっと早いけど、お正月帰ってこれないって言うから」

お母さんは優しい笑顔で私にそう言った。



やがて帰る時間になり、玄関先までみんなが見送りに来てくれた。


今日は来てよかった!

そう思えたのも誠一郎のおかげだった。

別れ際、誠一郎が少し泣いていたが、見なかったことにしておいてやったのであった。

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