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俺は道中幸せそのものだった。

沙織にあーんしてお菓子を食べさせたりして、発作のことなんか完全に忘れてしまっていた。周りに人は一杯いたが、気にならなかった。


俺はこの瞬間を、一瞬一瞬をとてもいとおしく思った。

俺の中で沙織は憧れの人でもあり、いとおしい恋人でもあった。

キスもまだなにもしたことはなかったが、手を繋いでいたり、こうしておしゃべりをしたりするだけで、充分に幸せを感じていた。


女だからか性欲はなかったが、沙織はどう思っているだろう?ふと気になってしまった。


「沙織はさ、エッチしたいと思わないの?」

沙織はぶふっとお菓子を吹き出した。

「なんなのよ、一体?」

「いや、男だったらムラムラっとすることがあると思うんだけど、そういうとき、沙織はどうしてるの?」

「どうって……そのまま……我慢……かな」

「そのまま……って?」

「ほら、朝からパンツ替えないといけなかったり」

そこまで我慢してるんだ……

「だって、女の子みても興奮しないし、ね」

そうなんだ?そういうもの?

「男の人のなんて見る気もないけど、見たらホモじゃん?」

そりゃそうだけど……そりゃ、そんなの見てても嫌だけど、女の子のをみてるのも正直妬けるかなと……って、俺ってどっちに焼きもち焼けばいいのかな?


どっちにしても焼きもち焼くけど……


電車の旅は続く。乗り換えは二回しなければならない。


途中、トイレ休憩をとる。

もう女子トイレにはいるのも慣れたもので、当たり前に入っていく。ちょっと前までは堂々と入れず、人が入っていると飛び出してきてしまうくらいだったが、今はもう平気だ。

ハンカチも持ち歩くようになった。


男だったときは手洗いなんてせずに平気で出てきてたけど、よく考えると汚いよね。アレを触った手でどこでもさわっちゃうんだから……

ズボンの中身はいつも財布と携帯とタバコだけだった。


沙織はきちんとハンカチを持ち歩いているようで、いつもきちんと手が湿っていた。

やっぱり元が女の子だと違うもんだな、と感心した。荷物が多くなった分、ショルダーバッグを買っていた沙織はショルダーバッグに全ていれて持ち歩いていた。今回はリュックだけど……


そんなことを考えていたら、沙織にデコピンを喰らった。

「ったぁああ。何すんだよ!」

「なんかエロいことでも考えているのかな?と思って」

にしし、と沙織が笑う。

「そんなことあるわけないだろ、小学生でもあるまいし」

「さぁ?それは小学生の誠一郎くんが一番知っていることじゃないのかな?」

にやにやしながら沙織が言う。


おっと、乗り換えの駅を過ぎてしまうところだったよ。


乗り換えると結構人が多かった。ここから三十分鈍行だ。座ることができなかったので、俺はつり革を持って立ち、その後ろを庇うように沙織が立った。

いまでこそ慣れたが、最初は「それって男がすべきことでしょー?」とあたふたしていたこともあったかな。つり革に微妙に背の高さが合わない俺は、手すりに掴まることにした。沙織から少し距離は離れてしまうが問題ないだろう。降りる駅名も聞いている。


そのとき、ぞわっと背中に悪寒が走った。

服の上からだが、お尻を触られている。その手が徐々にスカートをめくり始める。

声も出せなかった。

怖い。怖い。

誰か助けて!!

と思っていると、痴漢に割り込んで来てくれた人がいた。

沙織だった。

沙織は痴漢の手を後ろに回し、抵抗ができないようにして大きな声で言った。

「痴漢だ!痴漢がいるぞ!」

次の駅で降りて、警察が来るのを待った。

とんだ誤算だった。

しかし、これで男が余計怖くなってしまったのだった。

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