08
ラインの音を消して、やっと自由になった気分。
そこで、風呂に入ることにする。
脱衣場にある鏡で、くまなくチェックする。
よし、今日もバッチリ、可愛い可愛い!!
お風呂に入ると、まず身体を洗う。沙織には見ないように努力しますと言っていたが、ガン見である。
真っ白な身体。くびれるところはくびれて、ちょっとだけ小さいサイズのおっぱいを上から眺める。うん、爽快だ。
そして、長いその髪を洗った。洗うだけ洗って、あがったら髪がきしきし言って、ドライヤーがなかなか通らなかった。
なんとかやって乾かすと、髪にブラシをあてる。
「痛たたた……」
ブラシがなかなか通らない。これは沙織に相談すべきだな、と思う。鼻唄まじりに部屋へ戻る。
沙織の身体になって以来、身体が軽くてすっきりとした気分だ。シャンプーの匂いもいい匂い。
自分の部屋へ戻ると、恒例化しつつある、ぱいもみを始める。
もまれて気持ちいいわけではないが、もんでいる手の方は最高に気持ちいい。マシュマロをもっと柔らかくしたような、そんな触感。最高だ。
沙織にはもちろん秘密なお話だ。これを言ったら殺されかねない。
俺はしばらくぱいもみをして、満足すると、明日のために早めに寝ることにした。
だが、寝つけない。
仕方がないので漫画を読み漁ることにした。
少女漫画、捨てたもんじゃないな、なかなか面白い。
中学から男子校に通っていた俺には、女子成分が不足していた。
今まで周りに仕事以外で女子がいたためしはなかったので、新鮮な気分だ。
ふと鏡台を見ると、化粧品が一杯乗っていた。
ふーん、女の子ってこんな高校生の頃から化粧するもんなんだな。
どれどれ、化粧水、乳液、スクラブ……
スクラブって何だ?
わからなかったので、パソコンを立ち上げる。
スマホには慣れていないので、スマホで検索する気持ちにはなれなかった。
「す・く・ら・ぶとは……?」
『角質層をケアする研磨剤のこと。』
ふむ……これを顔に使うのか……?なんだか痛そうだが。
そういえば、洗面所に洗顔料が置いてあったな……朝から歯みがき粉と間違えて使いそうになった。
歯ブラシもどれを使ったらいいのかわからなくて母に聞いた。
あれはヤバかったかな……
洗顔料って、父親のでもなさそうだし、俺が使うんだよね……?
まぁ、明日沙織に聞けばいいさ!
俺はパソコンを落とし、本格的に寝る体制に入った。
「沙織!起きなさい!!」
母の大声で目を覚ました俺は、驚いてガバッと勢いよく起き上がった。
なんで目が覚めなかったんだろう……
考えてみると、携帯の音を出なくしていたことに気づいた。
いつもは携帯のバイブレーションで起きていたから、起きれなかったのだ。
マナーモード、どうやるんだろう。
俺は制服に着替えると、階下へ降りていった。
制服がブレザーでよかったなぁ、と思う。セーラー服なんて、リボンがどうなっているか、全くわからないからだ。
ダイニングへ行くと、美味しそうなベーコンの香りが漂っていた。
俺は適当に席に座ると、母が
「あらやだ、沙織、そっちはお父さんの席よ。そっちのほうがよかったの?いつもこっちに座るのに……」
と言う。
ヤバい、疑われる!
「あー、うん、えーっと……今日はこっちの席に座りたいかなぁって、なんとなく……ですけど……」
最後の方は聞こえないほど消え入りそうな声で言った。
「それなら、お皿を取り替えなさい。お父さんにはこっちに座ってもらうから」
「は……い」
呟くように返事をすると、お皿を入れ替えた。
父はあくびをしながらやって来ると、
「おっ、珍しいな、沙織がそっちか」
と言いながら頭を撫でて行った。
「珍しいな、頭を撫でても怒らない。何かあったか?」
ニヤニヤ顔で聞いてくる父を無視することは出来ず、
「たまにはそんなことだってあるんです!」
と言い訳をした。
「です?です、だってよ、お母さん!こりゃ今日は雨でも降るかな?」
父が茶化したことで、とりあえずは無事に朝を乗り越えた。
気合いを入れて、俺は学校へと出発するのであった。