表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/112

76

誠一郎の言う通り、日帰りで行くと言ったら、微妙な顔をしながらも父は許可してくれた。

母は、

「じゃあ、なんか手土産持っていかないとね!」

と、微妙に気合いが入っている。

俺は喜んで父に抱きついた。

父は目を白黒させながらも嬉しかったらしい。


ただ、一つだけ懸念事項があった。

それは、PTSDのことだった。

電車で行くということは、人が多い中に行くということ。そうすれば、誰かを見て発作を起こす可能性があることだ。


「本宮さんが一緒にいるなら大丈夫だとは思うけど……」

母が語尾を濁した。

俺は思いっきり笑顔を作ると、

「大丈夫!心配ないって!」

と母を宥めた。


急いで沙織に電話をする。

まだ仕事中か、ジムにでも行っているのか、電話に出ない。

俺の中では嬉しすぎてすぐにでも報告したいのに。

少しイラッときた。


それから二時間くらいして、沙織から連絡があったが、俺は明らかに不機嫌だった。

『ごめん、会議が長引いちゃって』

そう言う沙織に仕方ないか、と思いつつ返事をする。

日帰りなら行ける、と言ったら、

『そっか、よかったね!』

と言われて少し機嫌が戻った。



「手土産って何がいいのかな?」

母に相談する。

「そうねぇ、ケーキとか、そういうもの……でも混んでたら崩れちゃうし……焼き菓子とか、どうかしらね?」

「焼き菓子?クッキーとか?」

「そうそう、マドレーヌとかね」

「私、自分で作って持っていこうかな?!」

「沙織に焼けるの?」

くすくすと笑う母に

「焼き菓子くらい焼けます!」

と言い切ってしまった。


言ったからには実行しなければ。俺はネットでクッキーの焼き方を調べた。

いくつもレシピがあり、どれにするべきか迷う。

チョコチップ入りのものもあれば、ココアパウダー入りのものもある。

いくつものレシピを見て、結局バタークッキーにした。

材料を揃えるべく台所に向かう。

母が米をといでいた。

「あら。レシピは決まったの?」

と、母。

「うん。一番簡単そうなのにした」

それから砂糖や小麦粉の量を確認して、足りないものをメモしていった。


実家に帰るのは年末の31日にしたので、まだ日数は少しある。

一度作って食べてみてから、30日にもう一度作るか。と俺は思った。


明日、バターを買ってきて早速作ってみることにした。





近所のスーパーにバターとバニラエッセンスを買いに行った。

そこで相原に会った。

「久しぶり」

「うん、久しぶり」

「安野さんとは……うまくいってるの?」

「うん、まぁね……このあと、時間があるならカフェでも寄っていかない?」

「え?いいけど……」

というわけで、今カフェにいる。

「ホットコーヒー、2つ」

メニューも見ずに、しかも俺の希望も聞かずにいきなりそれかよ!

「ホットコーヒーでよかったよね?」

順番逆じゃん!まぁ、コーヒーは好きだからいいけど。

「久しぶりにゆっくり話せるね」

と言う相原。頷く俺。


「前のこと、謝ろうと思ってて、ずっと言いそびれてたの」

「?」

「安野に中身が女の子だっていってからかったこと」

「あぁ……」

あったね、そんなこと。永澤の一件ですっ飛んで忘れてたけど。

相原はずっとそのことが頭に引っ掛かっていて、それで俺から離れていったらしい。

「謝るなら、私じゃなくて彼の方に謝って……」

「会う機会もないもの。沙織から伝えておいてくれない?あのときは、ほんっとうにごめんなさい、って」

「それもそうだね」

「ところで本宮さんと付き合い始めたって?」

「安野さんから聞いたの?」

「うん。彼ね、本宮さんのこと、ホントに尊敬してるの。だから、私も、なんか悪いな、と思っちゃって。ずっと言えなかったんだけど……ホントにごめんなさい」

「わかった、誠一郎には私から伝えるよ」

こんがらがっていた糸が、一つほどけていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ