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父が言うこともごもっともだった。

娘を危険な目に遭わせた超本人だからである。

しかし、父は忘れていた。それを最も早く迅速に救いだしてくれたのも沙織だということを。


永澤があんなやつだとは思いもしなかった。今、思い出しても寒気がする。これって、俺だからまだこのくらいの恐怖感で済んでいるけれど、本物の女の子だったら、トラウマになって、男性恐怖症になってもおかしくないな、と思った。


あの部屋に貼られた写真の数々。捨てたはずのゴミたち。まさに、狂気だった。あれで人のことを愛してるだなんて、ちゃんちゃらおかしい。そんな歪んだ愛情を誰も止められなかったのか。


俺はアパートに帰ってきてようやく気持ちの整理がついてきた。


「沙織。帰るぞ」

父はぶっきらぼうにそう言うと車に向かった。

「わたし、今日、泊まっていく」

父にそう言うと、父はかんかんに怒り出した。さすがに沙織もそれは無理だと思ったのだろう、

「今日はいろいろあって疲れているんだから、帰ってよく休みなさい」

「いやだ。帰らない」

俺が言うと、母が俺のそばに来て言った。

「ちゃんとよく休んで、明日会えばいいじゃない?」

「でも、初めてのクリスマスイブ……」

父が怒鳴った。

「沙織にはもう、会わせない!」

すると母がきっちり言い返した。

「でも、沙織を助けたのも本宮さんでしょ?」

そして続けた。

「もし、あのとき、沙織が一人でいたとしたら、誰も沙織を助けられなかったかもしれない。そうでしょう?あなた」

俺は母に感謝した。

やっぱり母は俺のことを一番わかってくれる人かもしれない。

「だけど、今日は家に帰りますからね」

と付け加えたように俺に言った。

「えっ、でも、初めてのクリスマスイブくらい一緒にいたい……」

そういう俺に、沙織が言った。

「クリスマスイブなら、来年だってあるから。明日、美味しいもの食べに行こうよ。ね?」

俺はその一言を聞いて諦め、実家に帰ることにした。


車に乗り込む俺に小さく手を振った沙織。そんな沙織が見えなくなるまで、俺は後ろを向いて手を振り続けた。





翌日、クリスマス。

母が沙織のところへ行ってもいいと許可を出してくれたので、いそいそとファッションショーを繰り広げた。途中から母も加わって、楽しく服を選んだ。

まるで昨日のことがなかったかのように。


それでもときどき思い出して、永澤がいないか、家の周りを見回してしまったりした。

そんな俺に母も気づいているようで、そっと手を握りしめてくれた。


沙織が迎えにきた。

今日は一日中一緒にいられる。


母が玄関先まで見送りにでてきてくれた。

「本宮さん、沙織をよろしくお願いしますね」

「はい!」

沙織は大きな声ではきはきと答えた。


とりあえずタクシーを拾うと、先に俺が乗り、沙織があとから乗った。

ところが、走り出してまもなく、俺は過呼吸の発作を起こした。

一旦タクシーから降りると症状は治まった。

再びタクシーに乗ると、また同じ症状が。


仕方ないので近くのバス停まで行って、そこからはバスで移動した。


「これって、やっぱり……」

俺が言うと、沙織が、

「トラウマ……かな」

と呟いた。


確かに昨日も同じような症状でタクシーには乗れなかった。

そういえば、拉致されたときにタクシーに乗り込んだな……とふと思い出していた。


「明日、心療内科にいってきてごらんよ」

沙織は言う。

「そんな、大したことじゃないって」

と言って歩き出した。

前方に永澤似の男が歩いているのを発見する。

また過呼吸の発作が起きる。

やっぱりトラウマになっているのだ。


俺はなんでもない、大したことじゃないって思っているのに、身体が言うことを聞かない。


それは体験したものにしかわからない、恐怖というやつだった。

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