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沙織が迎えに来ていない。

俺はショックに打ちのめされた。

脳内シミュレーションでは、帰ってきた俺を沙織が抱き上げて涙の再会のはずだったのに。


警察で事情聴取を受ける。

「連れていかれるとき、抵抗はなさらなかったのですかね?」

「いえ、もちろんしました。だけど、刃物を見せられて、怖くて声もだせませんでした。」

「で、乗ったタクシーはどこのとか、全然わかりませんか?」

「合同タクシーだと思います。以前乗ったことがあって、色がそんな感じだったような……」

「わかりました。きみ、合同タクシーをあたって」

刑事さんが、ほかの刑事に指示を出す。

「あのう……」

「なんですか?」

できるだけ柔らかい口調になるように心がけているのがわかる刑事さん。

この人になら尋ねても大丈夫だろうと思い、尋ねる。

「あの、本宮さんは……」

「あぁ、帰られましたよ。無事で何よりって。本宮さんの聴取はもう終わりましたからね」

「そうですか。何か言ってませんでしたか?」

「いえ、特にはなにも……」

「……そうですか。ありがとうございます」

なぜ俺に会わずに帰ってしまったのだろう。俺は彼女にとってなんなんだろう?

頭の中ではそれが渦を巻いた。


「では、この事件は、ストーカーによる拉致監禁事件として立件します」

「なにか、しなきゃいけないこととかありますか?」

「法廷に出ていただくことにはなると思います。ですが、大丈夫ですよ。犯人の永澤達也とは会わないで済むように配慮します」

「永澤さんは、どうなってしまうんでしょう……」

「ストーカーの上に拉致監禁ですからね、五年は懲役になると思います。その後はあなたに会わないように別の県へ行ってもらうことになるでしょう」

「そう……ですか……」

俺は少し安心した。これで永澤とはおさらばだ。

これだけのことを起こしたんだ、罪は償ってもらわないと。



にしても、真っ先に駆けつけるはずの沙織がいないのは、どこかいびつだった。


聴取も終わり、今日は帰ってもいい、と言われ、両親とタクシーに乗った。

乗った途端に冷や汗が出始め、呼吸が困難になった。

父が慌ててタクシーを停め、母が俺を介抱する。

だがしかし、タクシーに乗ってしばらくするとまた同じ状況に。

もしかしたらタクシーがダメなのかもしれない。そう両親に言うと、ちょっと待ってなさい、と言って父は車をとりに交番まで帰っていった。


母はずっと俺を支えてくれていた。寒い中、手袋もしないで出てきた母の手は、とても冷たくなっていた。

近くの自販機で温かいコーヒーを買って、二人で飲んだ。

そのとき初めて、母が沙織のことを口にした。

「本来なら通報してくださった本宮さんにもきていただくところなんだけど……」

「それ、ずっと気になってた」

「お父さんがね、帰らせちゃったの」

「えっ?お父さんが?」

「うん……沙織を助けられなかったお前が会うなんて非常識だって、怒って……」

「でも、通報してくれたのは誠一郎なんだよね?」

「そう。彼の判断が遅かったら、どうなっていたか……」

母が泣き始めてしまった。

俺も泣きたかったが、男なら我慢だ!と思い、泣かなかった。



父が車をとって戻ってきた。念のため、母が一緒に後ろの座席に座った。

「お父さん、今からいう道いって?」

すると、

「あぁ、いいけど、どこに行くのか?」

「誠一郎の家」

すると、父は車を停めて言った。

「あの男のことは、もう忘れなさい」

「どうして?」

「目の前にいたお前を助けれなかった男だぞ!?」

「でも、私のことを心配して真っ先に動いてくれた」

「それは……して当然のことだ」

「それでも会いたいの!会ってお礼を言えるまで私帰らない!」

そう言うと俺は車を降りて走り出したのだった。

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