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私は由美子に電話をした。由美子の電話番号は非常に覚えやすいものだったからだ。

一コール目では出なかった。知らない番号からかかってくれば当然のことである。

二コール目、三コール目、ここで由美子がやっと携帯に出た。

「由美子!教えて、お願い。誠一郎が危険なの!永澤の住所とか連絡先とか覚えてない?」

『えっ、何の話?っていうか、あなた誰?!』

私は少し深呼吸をすると、少し落ち着いて話始めた。

「沙織の彼氏の本宮です。今、沙織が行方不明になっていて、永澤という男といる可能性が高いんです。彼について知っていることがあったら何でも教えてくださいませんか?」

ここで警官に電話を代わった。


「なにか、わかりましたか?」

両親が聞いてくる。

電話を切った警官が、

「容疑者は楠のアパートに住んでいる可能性が高いです」

「こちらも調査結果、二人の番号のGPSが楠から発せられています」

「えー、容疑者は楠三丁目の32の12のアパートに住んでいる。ただちに現場に急行してください」

『三〇二了解』

『四〇二了解、急行します』


この間、私たちはなにもできず、現場に行くことも許されず、ただおろおろと待つだけだった。


私は落ち着きなく席を立ったり座ったりしていた。私がしっかりしていなかったせいで、誠一郎を危険に遭わせている……

それは重大な失敗だった。あのとき一瞬考えずにいれば……いや、過去のことを思っても仕方ない。これからのことを考えねば。


「本宮……くんと言ったね」

お父さんが話しかけてきた。

「はい」

「もしも、娘が戻らないことになったら……」

「沙織さんは絶対大丈夫です!!私が約束します!」

「君の約束なんて信じられないね。なにしろ目の前で沙織がさらわれるくらいなんだから」

「ちょっと、お父さん、言い過ぎ」


警察は奥の部屋で指示をだしているため、あまり明確に聞こえない。

『こちら警ら三〇二、現場に到着。容疑者は家にいる模様。四〇二が到着次第突入を試みる』

「了解」

それだけははっきり聞き取れた。

「突入なんてして、娘は無事なんでしょうか?」

お母さんが尋ねる。

「大丈夫ですよ」

と警官に肩をポンポン、と叩かれて力なく座り込む。


とても長い時間に感じた。


「容疑者は実家を出て、独り暮らしのようです。まず、囮の警官が、実家からの宅急便だと言ってドアを開けさせます。そのあとはそのまま犯人を押さえ込みますから、大丈夫です」


警官の説明は分かりやすかった。


あとは突入の時を待つばかりだ。

何も出来ない自分がはがゆい。


『警ら四〇二、突入します』



それからしばらく無線の音は消えていた。



長い沈黙。



『突入しました。被害者は軽傷、無事保護しました』

その無線が入ったとき、私は思わずお父さんに飛び付いて喜んだ。

「では、お父さんとお母さん、彼氏さんは、北署までご同行をお願いします。

「なんだ、ここで終わりじゃないのか?」

お父さんが言う。

「娘さん、北署のほうに保護されますので、そちらに……パトカーで送りますから」

「うむ、仕方ないな。あ、君は来なくていいよ。自分を守ることができなかった相手に沙織は会いたくないだろうからな」

「そんな……」

「じゃあ、お父さんとお母さんだけ、行きますよ」

パトカーは行ってしまった。


私は一人、取り残された。

元はと言えば、あのときオカマちゃん、という言葉にびびってしまった私のミスだ。確かに誠一郎も会いたくないだろう。

でも、私は会いたかった。

会って抱き締めたかった。


ポツリポツリと涙をこぼしながら、ひとりアパートへ帰ったのだった。

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