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私は永澤の執念が怖かった。

あんな男に気に入られて、誠一郎もとても迷惑だろう。


昨日はまいたけど、今日は誠一郎一人で帰る予定だ。

もしかしたら、もう実家まで特定されているかもしれない。昨日私に会うまではアパートに来て、塾へ行き、そのまま帰るという生活を送っていたらしいから、その時に嗅ぎ付けられていたらアウトだ。

今日は私が塾まで迎えにいって、それから一緒に帰る予定だ。


私はいつものごとく残業をこなすと、自転車に乗ってアパートを目指した。



ところが、だ。



「本宮誠一郎さん……ですよね」

後ろからふいに声をかけられた。

ゆっくり振り返ると、そこには永澤の姿があった。

「どうして……」

私は呟いた。





「あなたのことはつけさせていただきました」

コーヒーショップへ入った私たちは、それぞれのカップを手にしていた。

「単刀直入にいいます。倉田沙織さんと別れてください」

「待ってよ、なんの権限があってそんなこと言えるの?」

「権限ではありません。ただ、一人の男としてのお願いです」

「別れてくださいって、そんなこと言われて、はいそうですか、ってわけにはいかないでしょう?」

「俺には沙織さんとあなたが不釣り合いにしか見えません。即刻別れていただきたい」

「不釣り合い?年齢のことか?」

「失礼ながら、あなたについて少し調べさせていただきました。年齢もですが、見た目も、地位も、彼女にふさわしくないと思われます」

私はコーヒーに一口つけると、笑いながら言った。

「それでも沙織は私を選んでくれた。それだけで充分なんだよ」

「沙織さんのお宅が大きな建設会社だというのはご存知ですよね?」

「あぁ、それが何か?」

「実は俺、その会社に内定が決まっているんです」

「…………」

「俺なら、見た目も、これからの地位も、年齢差も関係ありません。あなたは、向こうのご両親に面と向かって会えますか?俺なら、会えます」

「そういう問題じゃないでしょ。沙織の気持ちがどこにあるか、それが問題でしょう?」

永澤は言い切った。

「俺なら、沙織さんを振り向かせる自信があります」

「そうかい、それなら振り向かせてみなよ。ただし、ストーカー行為はやめてもらう。これ以上そうした行動を起こしたら、警察につき出すから、覚悟なさい」

ふふっ、と永澤が笑う。

「なにを笑っているの?」

「いえ、なに、女性を相手に話しているような感じだなと思って」

私は久しぶりに血の気が引くのを感じた。

会社ではもう、これで通ってしまっている。最近行けてないジムでも、そのままの自分でいる。

パソコンの研修は、人と話すこともないので、全く意識していなかったのである。


私が女だってバレたら、誠一郎身が危険だ――

そう思った。





時計を見ると十時少し前だった。いけない、誠一郎を待たせている。私は自転車にまたがると、超特急で塾へと向かった。


沙織は塾の前で寒そうにしながら立っていた。

「ごめん、遅くなって」

「ううん、大丈夫」

最近ではすっかり女の子らしくなった誠一郎。永澤が狙うのもわかる気がする。

自分の身体だが、綺麗で少し色気も出てきた。


「永澤が話にきたよ」

「えっ?もう沙織のところに?」

「しかも話し方が女っぽいと指摘された」

「それで、永澤はなんだって?」

「あなたを振り向かせてみせる、と言っていたわ」

「なにそれ?」

私は誠一郎にカイロを渡しながら言った。

「年齢差、見た目の差、地位の差、全てが誠一郎に合わない、と言ってきたわ」

「そんなこと……」

「そんなこと、あるわよね。大手建設会社のご令嬢なんだから」

自分のことは一番自分がよく知っているつもりだった。

「そんなこと、関係ない!」

「じゃあ、私を彼氏だと、両親に言える?」

「そ、それは……できるよ!」

「強がってもだめ。もし、本当に永澤に心変わりしたら、すぐに言ってね。諦めるから」

私は帰り道にそれだけを話した。

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