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とりあえず沙織の誤解は解いた。

問題は永澤だ。

「俺が『彼氏がいるから』って言ったら、俄然その方が燃えるって、こんなメールが……」

俺は沙織にメールを見せた。

永澤が一生懸命なのがよくわかるメールだった。

「これ、こんなに好かれてるのに、いいの?」

沙織が尋ねてきた。

「いいの?もなにも、俺には沙織がいるじゃん」

「でも、それは私の会社に帳面あわせするためだけのことだったから……」

「本気でそれだけ?俺のことはこれっぽっちも気になってない?」

「それは……」


「正直にいう。俺は沙織が好きだ」


一瞬周りの時が止まったかのような気分がした。


驚く沙織の顔。


驚きすぎてはしを落とした沙織の元に、新しいはしが届けられる。

全てがスローに感じられた。


「ちょっ……ちょっと待って。それって自分の身体が好きっていうこと?」

驚きのあまり、声がひっくり返った沙織。

「いや、違うよ。俺は中身の沙織自身が好きなんだ」

言ってて自分の顔が熱くなるのを感じた。


「誠一郎……言ってる意味がよく……わからない」

炒飯が届いた。

しかし、二人ともはしをつけれずにいる。


「つまりは、だ」

「うん」

「俺は男として、沙織が好きだ」

「……うん……」

沙織は涙目になり、俺は炒飯をついだ。沙織の方にテーブルを回した。完全に照れ隠しだった。


「話はそれで終わりじゃない」

「うん?」

「今日、放課後、永澤に待ち伏せされた」

「えっ?昨日の今日で?」

「向こうは本気らしい。どうしたら諦めてもらえると思う?」

「そりゃ、ラブラブなところを見せるとか……あと、無視し続けるとか……そういうんじゃないと……」

俺は唾を飲んで聞いた。

「ラブラブ作戦、協力してくれる?」

「当たり前でしょ?」

そう言ってくれる沙織に、俺は微笑んだ。


――そういえば沙織の返事を聞けてない……


そのことに気がついたのは帰宅してからだった。

でも、今さら話すなんて出来ないし、どうしたものだろう?


クリスマスを控えて、俺の心はさ迷うばかりだった。





永澤は、ストーカーのように毎日待ち伏せしてきた。

やっと残業がない日がやって来た。

俺と沙織は途中で待ち合わせてアパートへ帰る作戦だ。

自転車を押しながら、わざと永澤に見せつけるように、きゃっきゃうふふ、と歩く。案の定永澤はついてきている。

スーパーに寄って買い物をして帰る。まだ永澤はついてきている。

一体いつまでつける気なんだろう。

そのままアパートへ入るが、窓の隙間から、まだ見張っている永澤が見える。

「やっぱりやつはおかしいぞ」

「ストーカー気質ね」

今日の夕飯はお鍋にした。簡単だし、片付けも楽だ。

帰り道、もしかしたらまだ見張っているかも、と沙織が家まで送ってくれた。

案の定、まだ永澤は見張っていたらしく、こそこそついてきているのがバレバレだ。

沙織が、

「ちょっと走れるかな?」

と聞いてきた。

「少しなら、なんとか」

すると沙織は住宅街の中へと走り出した。

永澤が慌てて追いかけだす。

沙織は塀を乗り越えてなおも走る。

やっと走り終えると、辺りを見回した。

「これで大丈夫だね」

と咳き込みながら沙織は言う。

「でも、なんでまいたの?」

「そりゃ、あんた。あれだけ粘着質な男に実家を教えるわけにはいかないでしょ?」

「あー、そういえばそうだな」

明日からの通学の足が重たくなりそうな一件であった。

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