06
昼御飯を食べた。小さい弁当が一つ。それを食べたらずいぶんお腹が落ち着いて、惣菜パンはもういいや、と思った。
沙織はすごい勢いで食べ終わると、惣菜パンを片手に、
「まだ足りないなぁ……」
と言っていたので俺の分の惣菜パンをあげることにした。
「えぇー。こんなに食べたら太っちゃう」
と言いつつ惣菜パンを頬張る。
俺も食べたかったんですけどね……お腹がギブアップしましたよ。
お昼を食べたら、今度は沙織の学校を見に行くことになっている。
俺は小さな弁当箱を片付けながら聞いた。
「学校、ここから遠いですか?」
「そう遠くはないよ。電車で三駅分くらい」
まさか、自転車通学じゃないだろうな?と思いつつ聞いてみると、さすがに電車通学だと言った。
俺は安心して麦茶を飲んだ。
沙織は一旦家まで帰ると、そこからの道のりを俺に示してきた。
俺は家族とかに見つかるんじゃないかとびくびくしていたが、沙織は心配ない、と言いきった。
家族はみんな仕事に出かけてるから、と言う。
それでも近所の人が見てるかもしれない、というと、それもそっか、と言って足を早めた。
駅までは俺も知っている道のりだったので、わざわざ一旦帰る必要はなかったと後からわかった。
沙織は
「それならそうと先に言ってよ!」
と怒っていたが、先に駅名を言ってくれていたらわかったのに……と俺が言い返すと膨れっ面をして見せた。
俺がそんな顔をしても可愛くないって……
駅からの道はよくわかってなかったので、教えてもらって助かった。
学校は駅から割りと近くにあり、道のりも簡単だったので、一発で覚えた。
俺は周りに見つからないようにと気遣って歩いていたのに、沙織はそんなこともお構い無しだった。
「こ、こんな時間に制服のままうろついて見つかったらどうするんですか?」
「早退中って言えばいいじゃない?」
それはそうだけど……落ち着かない。
俺は早々に帰路へついた。
アパートに着くまでにクラスの位置などを聞いた。だけど、明日になったらわからなくなりそうだった。
生徒手帳を確認しておく。
いざというときはこれを使えばいい。
アパートに帰りつくと、俺はのんびり漫画を読んで過ごした。
沙織は風呂に入りに行った。
でてくるなり、
「あー!!この臭い、なんとかして!!」
と言う。
「臭い……しますか?」
と言って恐る恐る臭いを嗅いでみる。確かに、汗臭い。脂臭い。
自分が自分のときには意識しなかった。
自分を匂ってみる。石鹸とシャンプーの香りが鼻をくすぐる。
沙織は頭をがしがしと拭くと、ドライヤーで乾かし始めた。
「ドライヤー使わなくても乾くのに……」
と言うと、
「なんか言った?!」
と返してきたので、反論はしないことにした。
沙織は服を着替えると、俺の前までやって来て言った。
「ジムとか、行ってみてもいい?痩せたいの!!」
「ジムって……あの、スポーツの?」
「そう!他にあるの?」
「いいはいいですけど……」
沙織はそう言うとダウンページを持ってきて調べ始めた。
「ここから近いのって……あ、ここ、会社からの帰り道だ」
沙織の行動力には目を見はるものがある。よくも悪くも猪突猛進である。
「ちょっと電話するから静かにしてて!」
と言いながら電話をかける。
ホントにその行動力には頭があがらない。
値段などを確認して沙織は電話を切った。
「使い放題で三万円だって!安い?」
「はぁ、よくわかりませんが……」
「給料から、高い?」
「はい、高いですね……」
「いくらもらってるの?」
「え……?」
「お給料、いくらもらってるの?」
「残業代もあわせると、十八万くらい……ですかね?」
「ちょっと、安いじゃない!」
「そ、そうですね……」
そう言うと、俺は少し困った。
「あと、髪切ってきていい?今時パンチなんて流行らないって!」
「いいですけど……俺は癖毛ですよ?」
「そんなことは大丈夫!私に任せて!!」
自信満々に言う沙織。不安などは微塵も感じなかった。
俺は沙織に全て任せることにした。