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永澤は肩に手を回してきた。
俺は嫌だったが、みんなが盛り上がっているのに拒否なんてできなかった。
さらに永澤は腰に手を回してきた。さすがにそれは無理だ、と思い、やっとの思いで手を払いのけた。
ファミレスについてから、注文をして、しばらく待った。
永澤はえらく積極的に俺に話しかけてくる。周りもまんざらじゃないようだ。
俺はぼっちだった頃を思い出していた。
あの頃の俺は、目立たないように必死だった。勉強もそこそこ、スポーツもそこそこ、なんでも全てにおいてそこそこを保っていた。
目立たないように真ん中辺りの席に座って、いつも本を読んでいた。といっても本当は本を広げていただけでなにも読んでいなかった。俺に話しかける人物は限られていた。隣の家に住む、隣のクラスの洋子ちゃんくらいなものだった。
洋子ちゃんは活発で、頭もよく、隣のクラスながらも人気が高かった。
そんな洋子ちゃんに話しかけられるたび、俺はびくびくしていた。
誰かが俺のことを悪く思ってないか、洋子ちゃんとの関係を勘違いされていないか。
そんなことを考えてびくびくしていた。
その頃のことをなぜか思い出して、永澤が話しかけてくるたびにびくびくと怯えた。
そんな俺に気づいた永澤は、笑いながら言った。
「そんなにびくびくしないで。取って食べやしないから」
取って食われたらこっちは困るが!!と思い、会話をスルーすることに決めた。
由美子や瞳には悪いけど、やっぱり俺には沙織しかいない、そう思ったのだ。
そう思ったとたん、肩の荷が下りた感じがして話をスルーすることができるようになった。
なにか話しかけられても、うんうん、とにこやかにスルーした。食事を食べているから答えられない、というふりをした。
ガラスの向こうに座っていた人が会計を済ませていた。俺は、それが沙織に見えたが、声をかけることもできずにただ見送った。
食事を終えて、そろそろ解散、というときに、永澤からメアドを聞かれた。
「私、彼氏いるんで」
と、スパーンと言ってやった。
「彼氏ってどんなやつなの?」
「……年上。少し中年ぶとりしてるけど、いい人よ」
「彼氏とはどのくらいの頻度で会うの?」
「今は仕事が忙しいから二週間に一度くらいかな」
「ふーん。俺がもし彼氏になったら、毎日でも会いにいってやるのにな」
沙織が放置プレーみたいな言い方をされて少しカチンときた俺は、
「会えればいいってもんでもないと思います。」
と言ってのけた。
すると永澤は、
「その位根性の座っている女の子って最高!やっぱりメアド教えて」
としつこく食い下がってきた。
さすがの俺も、みんなが盛り上がってる中でわを乱すのもいやだな、と思ったのでメアドだけは教えた。
その日はそれで解散だった。
翌日、学校に行くと由美子と瞳が大盛り上がりしていた。
「どうしたの?」
「先週合コンで知り合った彼と付き合うことになったんだ」
と由美子。
「私も、幹事同士盛り上がっちゃって、そのまま付き合うことになったんだ!」
と瞳。
「そ、そう?よかったね……」
俺はそう言いながら席についた。
「沙織はどうするの?」
「え……だから私は彼氏がいるから」
「永澤さん、かなり沙織が気になってたみたいだよー!」
「でも、私は彼氏がいるから……」
「彼氏って、あの、中身が女の子な人でしょ?本気で付き合うなら、まともな男の方がいいって」「それに、その彼氏って、まだあの人のこと、好きなんでしょ?」
俺は、はっきり聞いたわけでもなかったし、強がりで安野のことを好きじゃない、と言っている可能性も含めると、確かに由美子と瞳が言うことも一理あるな、とは思った。
だけど、俺は男だ。男が男を好きになるなんて、ないない、そう思った。




