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土曜日。
たまには誠一郎とデートしてやろうと電話する。
だが、誠一郎は出なかった。仕方ないのでメールを送る。
『今日、夕飯一緒にいかない?』
しばらくしてメールが返ってきた。
『ごめん、今日友達と一緒。またね』
誠一郎にしてはえらくあっさりな文章だ。誰といるんだろう?純粋に興味があって尋ねた。
メールはしばらく経ってから届いた。いつもならすぐ返信してくるのに、なんだろう?
『由美子と瞳とカラオケ。忙しいからメールはまた後で』
由美子と瞳とならメールくらい出来そうなものだが、まぁ、いいか。そう思い一人で街をうろつくことにした。
そういや、もうすぐクリスマスだな。誠一郎になにか買ってあげよう。
そう思って女性用衣料品売り場へやって来た。
安月給だから、たいしたものはあげれないけど、マフラーとかはどうだろう?マフラーならば常に誠一郎と一緒にいられる。
私はマフラーを購入するとバッグに詰め込んだ。
さっきはマフラーなら一緒にいられる、と思ったが、別に一緒にいなくてもよかったのでは?と思い直す。
好きでもない誠一郎とのためにそんな風に考えるのはおかしい。
そう、どう考えてもおかしい。
好きでもない、と思う心がチクリと痛む。
まさか……
まさか、私、誠一郎のこと気になってる?
いやいや、そんなはずはない、と思い直す。
だいたい、こんなおっさんと付き合いたいなんて誰が思うんだよ?そりゃあ、誠一郎からしたら自分の身体なんだから嫌いってことはないだろうけど、自分の身体のことを好きだっては思わないはずだ。
どこかで食い違ってしまった。私はそう思った。
男が男を好きになるなんてあり得ない。
現に私は安野を好きだった。でも、それは異性としての好きだった。
誠一郎の好きな人は誰かわからないけれど、きっと可愛い女の子に違いない。
そしたら、自分に出来ることというのは、ターゲットに近づくことだろう。誠一郎の幸せを祈るならそうするべきだ。
私の中で一つ結論が出た。
そのまま街を徘徊していると、誠一郎を見つけた。なんて運命的な出会いだろう。
私は誠一郎に声をかけようと、歩みよった。
そのときだ。誠一郎の肩に手を回してきた男がいた。
大学生のように見える、長髪のイケメンだ。
意思の強そうな眼差し、がっちりした体つき、優しそうに笑うその仕草は、絶対に私が敵わないものだった。なにより若さが違う。
私はまだへこまないお腹をさすりながら、ふらふらと後をつけた。
見つからないように距離をとりつつ進む。
男の手が、肩から腰へ移動した。後ろから見ているので表情はわからなかったが、腰に手を回されても嫌がるそぶりはなかった。
彼らはファミレスに入る。私も続いて入る。
彼らとはすりガラス一枚隔てた隣の席に座ることができた。
どうやら合コンのようだ。由美子と瞳と、あと一人の友達と四対四での合コンらしい。誠一郎の腰に手を回していたのが永澤という男らしい。あごひげを伸ばしていた。
彼らはそれぞれ注文を済ませた。
私はドリンクバーを注文すると、コーヒーを取りに行った。
戻ってくると、なにやら話が盛り上がっていた。
しかし、誠一郎だけは黙っていた。永澤と呼ばれる男が、熱心に誠一郎に話しかける。それに対して
「うん……」
としか答えていなかった。
私は少しだけホッとした。誠一郎はどこに行っても変わらないでいてくれる。
ところが、由美子と瞳はどんどん誠一郎を推してくる。
永澤もまんざらじゃないようだ。
このままいくと誠一郎はあの男の彼女になってしまうかもしれない。
それ以上そこにいることはできなかった。伝票を持ってレジまで行った。
誠一郎はなにも気づいていなかったようだった。




