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沙織から電話があった。

『誠一郎、彼女だって紹介したからね』

「うん……」

俺は複雑な心境だった。

沙織の恋人になれたのはいいけど、所詮世間体を気にしてのことだった。何の気持ちもない、それはわかっていたことだったが、虚しくなった。

俺はいつでも沙織を見てるのに、沙織の気持ちはまだ安野にあった。


沙織が傷つかないようにと、自分を恋人にしていいと言ったが、所詮本物の恋じゃない、名前だけの彼女だった。



俺はそんな虚しい気持ちを抱えたまま、今日もアパートへ向かう。

今日はパワーポイントの講座を受けてジムに行って帰ってくると言っていた。

俺は洗濯物が溜まっているのを見て、洗濯を始めた。四十分くらいで洗い終わるはずだ。

夫婦になったら、これが日常なんだな、と思ったら、胸がキューンとなった。

いつも沙織を見送って、掃除は苦手だけど、掃除して、お夕飯を作って帰りを待つ。憧れる……

結婚したら……俺の妄想は暴走気味だった。


ゲームをして時間を潰すと、洗濯機が止まる音がした。

かごに洗濯物を入れるとベランダに出た。するとそこにはプランターが並べられ、名札がつけてあった。トマト、パセリ、その他いろいろ。

プランターに足をかけないように注意しながら洗濯を干した。


夏になったら、あのプランターにいっぱい、作物が生えるんだろうな……


沙織はなんでも器用にこなしてしまう。料理も上手だし、アパートの中はいつもきちんと片付いている。

最近では俺用にお菓子まで買い置きをしてくれている。

まるでお母さんだ。

そう、お母さんだ。

沙織は俺を家族だとしか見ていないに違いない。



クリスマス前の週末、合コンの約束が入った。由美子が、頭数が揃わないから、絶対出席してね!と言っていた。

「私、彼がいるから」

と言う俺に、

「大丈夫、頭数だから」

と言って強制的に行くことに決まった。

もちろん沙織には黙っておいた。なにか罪悪感を感じたのだ。


合コンの日、俺は適当にパーカーを着ると下にダメージジーンズを履いた。

それで集まってみると、女子は三人全員がスカートだった。

「沙織、メイクもしないで来たの?!」

「だってメイクの仕方がわからないし、そのままでいいかなって」

「せめてグロスくらいは塗ろうよ」

「やだ。あれ、ベタベタがコップにつくから」

前に由美子が学校でメイクをしてくれたことを思い出す。

何が可愛くなったのか、全然わからなかった。以来、メイクはしていない。

「しかも、その格好、男の子じゃないんだからさ、もっと色気のある服着てこれなかったの?」

みんながブーブーいったが、俺は構わなかった。


やがて合コンの面子は揃った。

大学生の男子四人と俺たち四人。

まずはお約束のカラオケボックスへ。

若い子の歌が全くわからない俺は全く歌わなかった。

受話器の一番そばにいたので、みんなのドリンクを取りまとめて注文した。

すると、すぐ横の長髪イケメンが、すかさず話しかけてきた。

「沙織ちゃんは歌わないの?」

「私、歌うの、苦手だから」

本当は歌いたい。矢沢の永ちゃんの曲とか、歌謡曲。でも、場違いなので歌わなかった。

長髪イケメンは名前を永澤と言った。

永澤も歌わず俺に合わせてくれる。だが、俺としてはばっちり俺に構っていないで、あっちのグループに戻って欲しかった。数回、そう促したが、さらりとかわされた。

「沙織ちゃんは可愛いよね」

「ご、ごめんなさい」

謝る必要はなかったのだが、なんだかぼっちだった頃を思い出していた。

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