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私は普段通り、いや、普段よりもっと仕事をした。斜め前の席には安野がいたが、もう気にしないことにした。

あんな嫌味をいうやつぁ、こちらからごめんだよ。

資料作りのサポートは平野さんにしてもらった。

平野さんはパソコンの資格をいくつも持っているパソコンのエキスパートだ。安野がいなくても、私が、自分で、何とかする。

それが今の私にできることだった。

沙織は大丈夫なのかな?

相原が一緒にいたという話はしたが、喧嘩になっていなければ良いが。

考えても仕方ないことだ。自分は女である。

最近はそれを忘れがちになっているけれど、ふとした時に思い出したりした。特に安野がいるときは。

でも、もう私の中に安野はいない。ビジネスパートナーとしての安野しかいない。

少し胸が痛んだが、それがベストな判断だと思った。


昼休み、珍しく誠一郎から電話があった。


「もし、会社で噂になったら、俺のこと彼女だって言っていいから。俺はいつでも沙織の味方だから」

「彼女って、こんなおっさんの彼女なんかでいいの?」

「沙織だから、いいんだよ」

一瞬ドキッとしたが、さらりと電話を続けた。

「あー、あたしが彼女かぁ……勿体ないね」

「でも、最近の俺、めまぐるしくイケメンになったと思うよ。あとは少しお腹が出てるけど」

「お腹が出てるけどってのは余計な一言なの。じゃあ、なんかあったらあんたを彼女扱いするからね。覚悟してね」


電話をして、少し気分が楽になった私は屋上に出た。

安野がご飯を食べていた。

そんな安野に、

「私、沙織と付き合うことになったから、よろしく」

と言い残して屋上を去った。

これで火元は消したはずである。

事務室に戻ってきたら、みんなが一斉にこっちを向いた。


「本宮係長、こんなファックスが流れてきて……」

それは私が女であるという怪文書だった。

安野は屋上にいた。ファックスは流せない。となると、火元はあっちか。

私は極めて冷静に、

「こんなものを信用するの?そんな暇があったら仕事しなさい!仕事!」

「でも……係長、これ本当なんですか?」

「本当のわけないでしょ。現に彼女がいるし」

「係長、彼女いるんですか?」

「どんな子ですか?」

「かわいい?」

「なれそめは?」

一気に質問モードだ。

私は手を叩いてみんなを落ち着かせた。

「だから、この怪文書は嘘ということになるよね」

私はそのファックスをぐしゃぐしゃに丸めて捨てた。

もう、負けない。誠一郎が勇気をくれたから。


実際、彼女がいる設定は効き目抜群だった。


仕事の目処がついたら、また質問攻めだった。

「彼女歳いくつですか?」

「17だよ」

「それって犯罪じゃないですか?」

「双方の意思の元、プラトニックなお付き合いをしてるよ。なにか問題でも?」

「じゃあ、ダイエットしたのも彼女のため?」

「うん、釣り合う男になりたくてね」

「でも、17歳は犯罪でしょう?」

「女性は16歳から結婚できる。何ら問題はないよ」


隣の事務室にも話が伝わったらしく、黄色い声援が響き渡る。

営業にまで「彼女若いんだってな?羨ましいぜ、色男!」と言われた。


これだけ言われてると、真面目に誠一郎のことが気になってくる。

だけど、誠一郎は家族だ。彼女なんかじゃない。何度も自分に言い聞かせた。それでも気になってしまう。

パワーポイントの授業中もボーッとしていた。

その後にジムに行ったら、安野が来ていた。

「やっぱり沙織さんの気持ちは先輩にあったんですね。早めに諦めて正解でしたよ」

と言われた。

「そっちはうまくいってるの?」

「まあ、なんとか、ぼちぼちね」

「ふうん、うまくいくといいね」

嫌味じゃなく、素直にそう言えたのだった。

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