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俺は泣いていた。
沙織の言葉に。
『誠一郎だけは絶対に守ってみせるから』
彼女は強くそう言った。
俺は彼女の優しさに泣いた。強さに泣いた。自分のしてしまったことに泣いた。
翌日学校へ行くと、一番に相原の元へ行った。
「――本宮さんの話、安野さんに話したって本当?」
「さぁねー。どうかな?」
「しらばっくれないで。昨日のことは聞いてるんだよ!」
「あぁ、中身が女の子だって話?面白すぎたからさ、つい」
笑いながら言う相原に俺はぶちギレした。
「人一人の人生がかかっているんだよ!!」
「そぉんなこと言われてもぉー」
相原はこんなやつだったのか。今までぼっちだからよかれと思ってやってきたこと、全てが覆された。
「あんたには人の気持ちがわからないのか?!」
「わかるもなにも、私は何もしてないわよ」
「でも、本宮が女の子だって言うことをしゃべった」
「事実なら仕方ないんじゃない?」
俺が大声で怒鳴っていると、慌てて由美子と瞳が駆けつけた。
「何にもしらないくせに、勝手にしゃべりやがって、このやろう!!」
俺が殴りかかるのを由美子と瞳が止めてくれた。
「沙織、何があったかわからないけど、落ち着いて」
由美子が俺の頬を軽く叩く。
瞳が後ろから抱き締めてくれている。
俺はどうにか落ち着いたが、そこにはもう相原の姿はなかった。
由美子と瞳は購買でジュースを買ってきてくれて、屋上に登った。寒いせいか、誰もいなかった。
「沙織、どうしたん?ん?」
由美子が聞いてくる。瞳は俺にコートをかけてくれた。
「二人だから、信用して話すけど――」
「うん、誰にも言わないよ」
俺は意を決して話始めた。
相原と、仲良くなって、相原も明るくなってきて、私は嬉しかったんだ。
そして友人だと信用してた。
だから、私の好きな人……前に話したよね?中身が女の子の人……
その話を唯がその彼、好きな人に話しちゃったらしくて……
彼、すごく落ち込んでた。彼の好きな人は会社の部下で、否応なしに顔を合わせないといけない人なの。
それなのにそんな話になって、ふいに彼は好きな人に好きだってばらしちゃったらしいの。
それで私、頭に来て……
泣きながら話す俺の背中を、瞳はずっとさすってくれた。由美子は目をそらさず話を聞いてくれた。
「問題は彼がどう切り抜けるか、だよね。」
「ばらしちゃったのは問題だけど、あとは彼の問題で、沙織にできることといったら……話を聞いてあげることなんじゃないかなぁ」
と、由美子と瞳。
「うん……でも私、彼だけが傷つくのは見たくないんだ」
すると由美子が言った。
「逆にチャンスなんじゃない?」
「え?」
「彼は失恋して今、辛いはずだよ。そばにいてあげるのって、一番嬉しいことだもん。もしかしたら沙織のこと好きになってくれるかもよ」
「そんな……そんな汚いチャンスなんて欲しくない」
「でも、彼にも一生のことなんだよ?ここで沙織を好きになれば、中身が女の子だなんてばれはしないし、はったりも効くんじゃない?」
そうかなぁ、そんなことでいいのかなぁ。
でも、失恋したら新しい恋が一番の薬だっていうし……
「とにかく相原は、私らが締めてくるから、沙織は次の授業、休まず出るんだよ」
「締めるって……」
「大丈夫。怪我とかはさせないから」
「でも、唯にはやっと出来た友達なのに……」
「あんた、そこまでして相原を庇う理由はなに?」
「私が……こっちがわの世界に連れ込んだから」
そう、私がこの世界に連れ込んだんだ。だから、元々私が悪かったんだ。
このときになって、やっとわかった。
ぼっちのままのほうがいい人だっているということに。




