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俺は唇に違和感を感じて目を覚ました。
なんとなく息苦しい。
なんと、沙織からキスされているではないか!
憧れていたファーストキス。
ずっと思い描いていたのは、放課後の教室で、二人きりになり、どことなく照れながら唇を合わせる二人……
それがよもやこんな形で実現されようとは思ってもみなかった。
沙織はゆっくりと唇を離した。
俺は寝たふりを続けた。
すると、今度はあからさまに胸を揉み始めたのである。
今の沙織を止めることはもはやできなかった。
俺は自分でパイ揉みをする時とは違う快感に身を任せていた。
沙織とならこのまま最後までいっちゃってもいいかな……という気持ちが湧いてきた。
あ、ゴムなんか買ってあったかな?
すると、沙織はピタリと手を止めて胸から手を離した。
罪悪感があるのだろう、薄目で見ると、すごく落ち込んでいた。
続きを期待した俺は、色っぽい吐息を出してみた。
だが、沙織は釣られなかった。
にしても、ファーストキスをこういう形で奪われるとは……
沙織もファーストキスなのかな?
という疑問が頭を渦巻いて埋め尽くした。
「ねぇ……」
俺は沙織の後ろ姿に声をかけた。
ビクッとして明らかに挙動不審な沙織。そこまでビビるならしなきゃいいのに……
「な、なに?」
沙織が挙動不審なまま答える。
「今のって……ファーストキス?」
「えっ……」
――沈黙が二人の間に流れた。
「今のってファーストキス?」
俺はもう一度聞いてみた。
「い、い、今のは……」
ごくりと唾を飲み込む。
「ふ、ふ、ファーストキス……だよ」
「やっぱり?俺もファーストキス」
沙織はガバッと振り返って言った。
「魔がさしたんだ!悪かった!」
俺は起き上がると体育座りをして言った。
「魔がさした……ねぇ」
「お、男の生理現象だよ!誠一郎も男だったらわかるでしょ!」
「じゃあ本気でキスしたわけじゃないのか……」
俺の声は落胆していた。
でも、落胆していることに沙織は気づかないようだった。
沙織は罪悪感で埋め尽くされていた。
「そんなに落胆するなよ。俺は嬉しかったよ」
「でも、私は我慢が出来なかっただけで……」
「じゃあ今のはなしで、もう一度キスしよう?それがファーストキスってことで」
「……いいの?」
「いいに決まってるじゃん。俺は――」
沙織のことが好きだから、という言葉は飲み込んだ。
「目、閉じてよ」
俺は言うと、顔を沙織に近付けた。
沙織はぎゅっと目を閉じた。
――そして俺たちはキスをした。
翌朝、起きると沙織はもうスーツに着替えていた。そして食卓にはベーコンエッグが乗せられていた。
沙織は真剣に弁当を作っていた。
俺が起き上がると、
「起こしちゃったかな?」
「ううん、大丈夫」
そう言うと台所に近づいていった。そこには弁当が二つ出来上がっていた。
「これ、誠一郎の分」
いくぶんか照れたように沙織が言った。
「うぉっ、サンキューな!」
「今日はお昼食べたらきちんと家に戻ること」
「えー、今日こそご飯食べにいきたいよ」
俺のわがままを聞いたか聞かないか、
「今日はとりあえず残業なしで帰るけど、誠一郎はきちんと家に帰りなさいね。帰宅したらご挨拶に伺うから」
「えー。やっぱりご飯食べてから帰る」
沙織は仕方ないなぁとため息をついて、
「ご飯食べたら私も一緒に挨拶に行くから」
と言ってくれた。
沙織を玄関で見送ってから、俺はゲームのスイッチを入れた。




