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母にあんなことを言われた私はショックで、ふらふらとアパートに帰った。
そうだよね、おじさんだもん……
母が心配してくれるのはよくわかった。それは元の身体にいたときよりももっと感じた。
うまくいかないな……
ふふっ、と私は笑ってお風呂にお湯を張った。
すると、ガチャガチャ、とドアの開く音がした。
振り返ると誠一郎が立っていた。
「今晩、ここに泊めて」
誠一郎はそう言うとするりと中へ入ってきた。
「泊まるって、ここへ?」
「当たり前だろ。他にどこがあるっていうんだよ」
「だって、私は一応男だよ?」
「沙織は信じてる」
なにか様子がおかしい。
「家でなんか言われた……?」
「あんなおじさんと付き合うなって言われた」
「おじさん……付き合ってるんじゃないって否定しなかったの?」
「あんなところを見られたら誰も信じてくれないと思う。」
私はお風呂のお湯を止めに行くと、
「ちゃんと誤解ないように説明に行こっ!!」
「沙織は……沙織は俺といるのがそんなに嫌なの?」
「そうじゃないけど、ここで泊まったらそれこそ黒ですって言っているようなものじゃない」
誠一郎は机をバン!と叩いて言い返してきた。
「今までの行動全部、誰が見たって付き合ってるとしか言えないじゃない!!」
私は後ずさってベッドへ腰かけた。
「アパートの合鍵持ってるのだって、付き合ってるからとしか考えられないじゃない!」
誠一郎は涙を流しながら訴えた。
「今日……今日だけでいいから、そばにいてよ!」
私はしばらく考えたが、結論を出した。
「わかった。今日だけ泊まっていいけど、お母さんには電話で話す」
「そんなことしたら連れ戻されちゃうよ!!」
誠一郎は大号泣だ。
「連れ戻されない。安心して。電話を貸して」
涙を拭いながら誠一郎は電話を渡してきた。
「もしもし?」
『あなたは……?』
「先程お会いした本宮です。沙織さんがうちに来ています」
『そんな……』
「大号泣して、今やっと落ち着いたところですが、家に帰りたくないと言っています」
『沙織に代わってください』
「それが、お母さんとは口もききたくないと言っています。どうしても帰りたがらないので、今晩はうちに泊めます。でも、誤解しないでください。沙織さんと私は本当に友人関係で、それ以上のことはありません。沙織さんを信じてあげてください。お願いします!」
長いセリフの後、母はしばらく黙って、
『わかりました。沙織をよろしくお願いいたします。』
と言った。
「ありがとうございます。では。」
誠一郎の方を振り返ると、オッケーサインを出した。
誠一郎は泣きながら笑った。
その日は私は床で寝た。さすがにベッドに一緒に入るのは気が引けたのだ。
誠一郎は構わないし、なにもしないからおいでよ、と言ったが、私のほうが男の生理現象を我慢できないかもしれない、と思ったからだ。
男になって、一度もそういう行為をしたことがない。男ならするんだろうな、と思いつつ、朝からパンツを変えて、という日々が続いていた。
エロ本はここに来た時に全て捨ててしまったので、おかずはインターネットから探すしかなかったし、そこまでしてしたい、と言う気持ちにはならなかったのだ。
だが、私のベッドに誠一郎が寝ている。それだけで興奮して下半身が落ち着かなかった。これが男の生理現象ってやつか。
初めての体験に、目がギラギラして一睡も出来なかった。
一方、誠一郎はと言うと、ベッドですやすやと寝息を立てていた。
私は我慢できなくなり、誠一郎の唇に自分の唇を押し当てた。
ファーストキスだった。




