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安野が相原と番号交換をしていたのには正直、引いた。相原もそんなに軽い女でもないだろうに……
相原は
「安野さんからメールがあった!」
などとうきうきしていたが、一言忠告しておいたほうがいいと思い、言った。
「唯、気をつけて。安野さん最近好きな子に告白して振られたらしいよ。だから、あんまりはしゃがないほうがいいと……」
思う、と言おうとしたところで相原が言葉をかぶせてきた。
「振られたなら関係ないでしょ!!」
「でも、そんな軽い男と……」
「軽いか軽くないかは私が判断することでしょ。沙織には関係ない」
そう言われてしまうとその通りだった。
次の休み時間から、俺は相原から無視された。
せっかく仲良くなったのに……これじゃ前よりひどい関係だ。
沙織に相談してみよう、そう思った。
◇
沙織に相談すると、
『それは謝るっきゃないでしょ』
と言われた。
「謝って許してくれるかな?」
『許してくれるまで謝る』
「うん……そうだね」
『そうそう、私も相談があってね……』
沙織は自分の気持ちを正直に話してくれた。
俺はなんと言ったらいいのだろう……
「それは自然な気持ちじゃないかな?好きな人とは一緒にいたいものじゃない?」
『誠一郎も好きな人とは一緒にいたい?』
「うん、できれば、ね……」
『ね、誠一郎の好きな人って誰?私が知ってる人だよね?』
「そりゃそうだけど」
『私がその人と結ばれたら嬉しい?』
「うーん、どうかな?」
沙織が沙織と結ばれたら、って、そりゃおかしな話だ。
『教えてよー。好きな人』
「今はまだ言えない」
『同僚の平野さんとか?』
「それはない」
俺は言うと、少し伸びをした。
「こういうことは、自分の胸にしまっておかないと」
『えー。じゃあ私が安野くんのこと相談するのもタブー?』
「いや、そうじゃないけどね……」
『じゃあ教えてよ、好きな人』
「口に出したら壊れてしまいそうだから、言わない」
『えー、なにそれー』
沙織の膨れっ面が目に浮かぶ。
「うまくいきそうになったら話すよ」
『わかった。応援してるよ!』
そこまでで電話を切った。
「うまくいきそうに、か……」
期待できない希望に胸を馳せるのだった。
◇
「唯、ごめんね。私、唯の気持ち考えてなかったね」
無視され続ける俺。
「ゆーい、ホントにごめんってば」
「うるさいな。気が散るから黙っててくれない?」
相原は本から目をそらさない。
「許してくれるまで離れないから」
俺はそう言うと、相原に粘着し始めた。
「ゆーい、お願いだからさ」
「唯、許してよ」
「唯、ごめんってば」
六時間目が終わって相原のところへ行くと、相原はため息をついて言った。
「わかったわよ。許す。許したらいいんでしょ?」
「わぁー!唯、ありがとう!!」
「ただし、私と安野さんのことに口出ししないでね」
「わかってるって」
相原のことは心配だったが、それよりも許されたことのほうが大きかった。
由美子と瞳も、徐々にではあるが、相原と仲良くなりつつあった。
あとは安野をどうするか、だ……
俺は久しぶりに安野にメールを送った。
内容は、「相原のことをどう思ってメールしているのか」だった。
なかなか返事がこない。さてはジムにでも行っているのか……
時計とにらめっこをしていると、メールが届いた。
『沙織ちゃん、久しぶり。相原さんのことはいいお友達だと思ってる。誤解しないで欲しい』
いいお友達って……それはそれでイライラする。相原が安野を気にしていることがわかっているからである。安野もそれには薄々なりとも伝わっているはずだ。
俺はイライラをどこにぶつけていいのかわからなかった。




