42
俺の好きな人……か。
言えたならどんなにか楽なことか。
でも、言っても振られるのは目に見えているしな。
今日は相原と一緒に遊びに行く約束をとりつけた。
なかなか「うん」と言わない相原を連れ出すのは大変だった。
しかも塾をサボって。
この頃、ようやく相原がタメ口をきいてくれるようになり、友達、という感じになってきた。
カラオケに行き、歌を歌ったが、相原のうまさは格別だった。アニソン、ボカロ系ばっかりだったけど。
「唯はさぁ」
と話しかけると、びっくりした顔でこちらを見た。
「あ、唯って呼んでもいい?」
先にこっちを言うべきだったな。
「べ……別にいいよっ!」
「唯はアニメが好きなの?」
「う、うん……それくらいしかすることないし」
「じゃあさぁ、またこうしてカラオケに来てもいい?」
「か、構わないわよっ!」
相原がそう言うと、俺は右手を差し出した。
相原は一瞬きょとんとした顔でこちらを見ると、理解したらしく、真っ赤になりながら手を握ってきた。
「べ、別にあんたと仲良くなりたいだなんて思ってないんだからねっ」
相原……ういやつよのぅ……
そのあとゲーセンへ流れた。クレーンゲームで相原が欲しがっていたぬいぐるみを狙う。
最初は百円でトライしていたのだが、らちがあかないと、五百円を三回、注ぎ込んだ。
相原がお金の心配をしている。
「だーいじょうぶだって。お小遣いもらったばっかりだから余裕余裕」
相原には嘘をついた。
沙織が言っていた、昔の友達との話を思い出していたからである。
相原はお金に釣られるような子じゃないとは思っていたが、念のため。
あと一回で取れそう、となって俺は再び両替に走った。
急いで戻ってくると、相原がぬいぐるみを手にしていた。
「それ、どうしたの?」
と焦って聞く俺に、
「勝手に落ちてきたの」
と言う。
とりあえずぬいぐるみをゲットしてご機嫌な相原をプリクラに誘った。
「わ、私は可愛くないから写りたくない!!」
「それじゃ今日、何しにゲーセンに来たかわからないでしょっ!!」
無理やり引きずり込んでプリクラを撮った。
落書きコーナーへ移動すると、落書きを始めた。
「私、こういうの初めて……」
「なかなか面白いでしょ?」
「うん……悪くないかな」
できたシールを半分に切ると、俺はすぐに手帳に貼り付けた。それを見ていた相原も、ごそごそとバッグを漁り、手帳を取り出した。
革でできたちょっとレトロな手帳。
「その手帳、すごいね!!」
「えっ?そう?」
「年期が入っていてかっこいい!」
「これは亡くなった父の形見なの」
「えっ?お父さん亡くなっているの?」
「私が中学の頃にね……癌で」
「そうなんだ……」
「同情とか、安っぽいことはいらないからね!!」
相原にそんな過去があったなんて知らなかった……
その後はコンビニスイーツを買ってアパートで食べよう、という話になり、盛り上がってアパートへ戻ってきた。手慣れた感じにコーヒーを淹れていると、
「ここって?」
と聞かれた。
俺は迷った挙げ句、
「私の好きな人のアパートなの」
と言った。
「彼氏?」
と聞かれ、
「片想い」
と言うと、相原はうーん、と考えて言った。
「嫌いな人にはあがって欲しくないはずだから、少なくとも嫌われてはないよね」
その瞬間、鍵ががしゃっと開き、沙織が帰ってきた。しかも安野を連れて。
「珍しい組み合わせだね」
入ってきて一言目がそのセリフだった。
「相原さん、元気だった?」
俺は慌てて目配せをする。それに気づいた沙織はしまったな、という顔をして続けた。
「相原さん……だよね?沙織からよく話を聞いてるよ」
相原は赤くなりつつ頷いた。
安野が後ろから入ってきた。今夜は宅飲みらしい。
正直、まだこんなタイミングで安野に会いたくはなかった。
色々気持ちの整理もついていないだろうし……
ところが、安野は至って普通だった。こちらの気が抜けてしまうほどに。
沙織は知ってか知らないでか、微妙に間合いに入ってくれる。
それだけでも充分俺は助かった。
その日は人見知りの激しい相原も普通に打ち解けてしゃべっていたので、よしとすることにしたのだった。




