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私は気が動転した。
なんで誠一郎が安野と……!
会社の休憩室からは通りがよく見える。向こうは気づいていなかっただろうが、こちらからは丸見えだった。
私が動転したのは安野が誠一郎といたからか?誠一郎が安野といたからか?
――それはわからなかった。
ただ、一つ、二人が手を繋いで歩いていた、これは事実だった。
その後の残業は悲惨だった。いつもなら手伝ってくれる安野も、
「今日は所用がありまして」
と帰ってしまったし、帰ったというか誠一郎と会ってたし、量はさほどではなかったが、ショックでパソコンを触る手がおぼつかなかった。
安野は沙織に何の用事だろう……決まってるじゃないか、告白するのに!
私は珍しく遅くまで仕事をしていた。
安野は誠一郎になんて言ったんだろう。誠一郎はそれになんと答えたのだろう。
誠一郎には好きな人がいると言っていたが、男に戻れない今、考えが変わっているかもしれない。
そうすると、二人は付き合うことに……
いや、誠一郎に限ってそんなはずはないよね。誠一郎、好きな人のこと、ホントに好きだって言ってたもんね。
その日は午前様だった。
◇
翌日、私は真っ先に安野の元へ行き、昨日のことを根掘り葉掘り聞いた。
「やっぱり好きな人がいるからって断られましたよ」
自嘲気味に安野が言う。
「俺、諦めるっす。新しい恋を探します」
私の心のもやもやはずいぶん良くなった。
ただ、誠一郎の好きな人、というところには、まだまだもやもやしていた。
そのもやもやが何なのか、今の私にはわからなかった。
◇
また二人で出掛けることになった。
塾はさぼっちゃダメだといってあるのに、たまの息抜きは必要だとか。
今日はイタリアンにした。
私がどんどん先に歩いていくと、誠一郎が小走りに後ろをついてくる。それが可愛くて、何度も先に行っては止まった。
「全く、身長差を考えて歩いてほしいですよ」
私の身長は178センチ。対する誠一郎の身長は151センチだ。
「悪い悪い、つい、ね」
いらいらモードの誠一郎の頭をくしゃっと撫でる。
「なにするんですか?!」
「いや、なんとなーく」
それより、冬服買わないとな、さすがにそれじゃ季節外れだわ。
そう思って再び服屋に入っていく。
さんざん横から口出しして、やっと決まった。
当たり前のように誠一郎の財布からお金を払った。
イタリアンのお店につく。テーブルマナーは以前行ったフレンチでしっかり覚えていた。
料理が来るまでの間、会社であったこと、学校であったことを報告し合う。
その中には安野とのことがあった。
「期待させるのもよくないんで、きっぱりお断りしました」
「誠一郎の好きな人ってさ、誰なの?」
「そ、それは……」
「教えてよ!!」
「いずれ、時が来たらお話しますよ」
うまくはぐらかされた。
それ以外は二人は楽しく過ごした。プリクラも撮った。
誠一郎がバッグをごそごそすると、手帳が出てきた。
「まだ、それ使ってくれていたんだ……」
「うん!ちゃんと中身も書いてるよ!」
見せてもらうと中身がぎっしり書かれていた。所々にみんなでとったプリクラが貼ってあり、私の時より充実した日々を送っているようだった。
悔しくはなかった。むしろホッとした。
私の手帳はということでリュックの中を漁られ、発見された手帳。仕事のスケジュール以外にはなにも書いていない。そこへ、誠一郎がさっき撮ったプリクラを貼り付ける。ちょっとは賑やかになったかな。と笑う誠一郎につられて私も微笑んだ。
その日も門限ギリギリに誠一郎は帰っていったのだった。




