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「はい、倉田です」

夕方電話をもらった。

相手は安野だ。

『今日の夜、よかったら会えないかな?』

「まぁ、塾をサボれば会うには会えますけど……」

『大事な話があるんだ』

「それなら、どこで待ち合わせしますか?」

『ポチ公前でどうかな?』

「はい、大丈夫です」

『じゃあ、ポチ公前で六時に』

「わかりました」

電話を切ったあと、沙織に言っておいたほうがいいかな?と思ったけど、事後報告でもいいか、と思い直してそのままにした。

最近沙織は忙しいらしく、毎日残業だと言っていたし、邪魔をしたら悪いしね……


俺は一旦アパートに帰り、一月前に買ってもらってアパートに置いている私服に着替えた。外はコートを羽織るので、中は多少季節外れでもいいか、と思ったのだ。

買ってもらったブーツを履いてアパートを出た。

ポチ公前には約束の十分前についた。こういうところは社会人のときの癖で思わず早出してしまう。

使いなれてきたスマホをポチポチとしていると、五分前に安野はやって来た。

「ごめんね。待たせちゃった?」

「いえ、さっき来たばかりです」

嘘をついた。期待されても困るから。

「ところで、どこに行くんですか?」

と聞くと、

「最近会社の近くにお洒落なカフェができたんだ。そこでもいい?」

「はい、構いません」

やつは今日、告白するつもりなんだろうな。薄々直感でわかった。やっぱり沙織に連絡すべきだったか。

会社の前を通りがかったとき、私は小石につまづいた。安野がさっと手をのべ、こけずに済んだ。

まさかこの瞬間を沙織に見られているとは知らずに。

二三歩歩いたところで、大丈夫です、と手を離そうとしたが、安野が外してくれない。

こいつ、こんなに強引なやつだったか?いや、それはないな。今までの安野なら……

今日は違っているということだ。


しばらくそのまま歩くと、木造の小さなかわいらしいカフェがあった。

沙織ならこんなとき喜んだのだろうけれど、同伴者は俺だ。たいして嬉しくもない。

黙っていると、

「ここじゃないほうがいい?」

と焦って安野が聞いてきた。

「いえ、そんなことないです。ここ、素敵ですね」

沙織と来れたらもっと素敵だったのにな、と思いながら店へ入っていった。

北欧調の家具で揃えられた店内は意外に広く、清潔感にあふれていた。

店員に案内され、一番角の奥へと案内された。

メニューを一読し、

「ブレンドでいいや」

と言うと、

「沙織ちゃん、ここはデザートも美味しいんだよ!!」

と妙に進めてくる安野。

「じゃあ……」

とパンナコッタを頼んだ。最近は甘味処にもいけていないけど、沙織の身体になってからは甘いものが美味しく感じられるようになっていた。


店員が去って、しばし沈黙があった。

先に口を開いたのは安野の方だった。

「沙織ちゃん、大事な話なんだけど……」

「はい」

そこへデザートとコーヒーが運ばれてきて、仕切り直し。

「大事な話っていうのは……」

「はい」

俺は顔をあげずにパンナコッタに食らいつきながら聞いた。

「俺、実は沙織ちゃんのこと、大好きなんだ。」

「……」

俺はなおもパンナコッタから口を離さない。

「一回り近く歳が違うけど、付き合って欲しい」

俺はようやくパンナコッタを食べ終わり、口をペーパーで拭くと、コーヒーを口にした。

「ごめんなさい。私は好きな人がいるの……」

「それは先輩からも聞いてる。今日、来てもらったのは、その叶わぬ好きな人より、俺との未来を考えてくれないかなと思ったんだ」

俺は悲しくなった。

安野が、あの同僚の安野が、こんな高校生な俺に頭を下げていたことが無性に悲しかったのだ。

「安野さんには安野さんに合う人が絶対に訪れますよ」

安野は泣いているようだった。一大決心だったのだろう。

俺はそのまま席を立つと

「ごちそうさまでした」

とペコリと頭を下げて店をでたのだった。

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