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「へぇ……そんな過去があったんですね」

俺は感涙というか、感傷というか、沙織の話に聞き入っていた。

そっか、だから由美子ちゃんと瞳ちゃんは、俺を守るようにいつも接してくれていたんだな。


でも、他のクラスメイトとも仲良くやっているみたいだったし、そんな過去があったなんて思いもしなかった。


俺はいつも俺だけが不幸の星の下に生まれてきたんだと思っていた。

でも、沙織みたいに恵まれている人にも辛いこととかあったりするんだ……

そう思ったら涙が勝手に出てきた。

「やだ、ちょっと、泣かないでよ」

「あっ、ごめ……」

バッグからハンカチを取り出すと涙を拭った。

「ホントに、よく泣く男だなぁ……」

「ごめ……いろいろ思い出したら泣けてきちゃって」

「許す。」

「えっ?」

「今日は徹底的に泣くがよい!」

「 えっ?」

沙織は親指を立ててグーの形にすると、

「係長のいじめのこととか、私もあんたになってからいろいろ知ったし勉強になった。だから、今日は泣いてもいいの。明日からまた再出発、ね」

と言ってくれた。

「でも、泣いてたら料理の味なんかわからなくなっちゃう」

「そっか。それもそうだね」

二人で笑った。



どうしよう。やっぱり沙織のこと、好きだ。

今すぐに抱き締めたいくらいに好きだ。


でも、沙織には安野がいる……

今ほど安野を羨ましく思ったことはこれまでになかった。

今ほど人を好きだと思ったことはなかった。


今ほど自分の身体に戻りたい、と思ったこともなかった。





食事を終えると、代金は前もって渡してあったお金から沙織が払った。

俺は俺の給料から出していいと言ったが、沙織は

「どうせ使い道なくて困ってるんでしょ」

と笑いながら言った。

「なんで使い道ないってわかるんだ?」

「だって化粧もしてないし、塾にはいつも制服で行ってるだろうから、服なんて買わないだろうし」

図星だった。だから、今日は俺のために服を買ってくれたんだ。


この財布は俺が持ち歩いているけど、沙織のものだ。やたら無駄遣いはできない。


そう思ったこともお見通しというわけだ。



沙織がお金を払うのを待って、俺たちは店を出た。



「そういや、劇的に痩せたな」

沙織に声をかける。

「今まで太っていたのは不摂生のせいでした!」

と沙織が舌を出す。

「そっか、確かに、そうだよな……」

「そっちはどうなのよ?まさか太ったりはしていないでしょうね??」

「まさか。ただ、最近ブラジャーが少しあってないんじゃないかなとは思うけど」

「具体的にはどうなのよ?」

「そんなの公衆の面前で言えないよ!」

沙織は時計を見て、

「まだ時間は大丈夫だね」

と言ってずんずん歩き出した。

「どこに行くの?」

「もちろんブラ買いに」

そのままずんずん歩いていく。そして、高そうな下着屋の前でとまった。

「え?入るの?」

「入らなくて下着が買える?」

俺はおとなしく下着屋に入った。もちろん、沙織も一緒に。

だが、店内は意外と男性同伴で買いに来ている人が多かったので安心する。

俺たちはカップルに見えるのかな?まさか、援交とかに見えてたりして。

そう思うとゾッとした。

沙織にそんな思いさせたくない……


そこに店員さんがやって来た。

俺はパニックしかかった。

だが、沙織は落ち着いた声で、

「彼女のサイズが最近合わなくなってるみたいで。見てもらえますか?」

よくそんなにすらすらと言えるな!


って、彼女って、彼女ってどういう意味で使ったの??恋人って意味……じゃなさそうだった。


バストを測ってもらうと、Eの65だとわかった。

沙織は

「でかくなってる……」

と唖然としていた。


サイズ的に三種類しかないようで、店員さんはそれらを持ってやって来た。

「それ、全部いただくわ」

と言い、俺が持っている沙織の財布からお金を払った。


帰り道、

「お金使いすぎだぞ!」

と言うと

「必要経費でしょ」

だと言う。

「ブラ、3つしかないけど、洗い替えしてとりあえず使ってね。足りなかったらさっきのお店に行くといいから。私、常連だから」

「常連な店に男と入って平気なのかよ?」

沙織はしばらく立ち止まって考えると、

「そっか、そういう考え方もあるよね」

と言った。


要は深く考えていなかったということだ。


今後またそういうことが起きないように注意しよう、そう思う俺だった。

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