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私は至って順風満帆な人生を送ってきた。
父は中小ながらも企業の社長。母はデザイナーの仕事をしていた。
普段は保育園とシッターさんがお世話をしてくれるけど、母も父も優しくて、寂しいと思ったことなんてなかった。
保育園の先生はみんな優しかったし、シッターさんもいつも母のように優しかった。
保育園のとき、初恋をした。相手はお姉さんクラスの担任の先生。
若くていつもにこやかな先生だった。
お姉さんクラスの先生だったので、接点はあまりなかったのだが、時折年少さんクラスに来て遊んでくれた。
私は先生に手紙を書いた。
それは「先生大好き」という手紙で、一生懸命折った折り紙を貼り付けてあげた。
先生はとても喜んでくれて、私も嬉しかったことを昨日のことのように覚えている。
小学校にあがり、やはりシッターさんと過ごす時間は長かったけど、寂しくはなかった。
いつも大勢の友達に囲まれていて、毎日が楽しくて仕方がなかった。
二年生の時に好きな人ができた。
お相手は同じクラスの樺山くん。
バレンタインデーに告白をして、ホワイトデーにお返しをもらった。
まだ付き合うとか、そんな年齢でもなかったけど、樺山くんには大事にされたと思う。両想いだったと思う。
両親は仕事で海外にいることが多く、お土産と土産話をいつも楽しみにしていた。
この頃からお小遣いは普通の子たちより多くもらっていたと思う。
中学に上がってから、初めて彼氏が出来た。
お相手は一つ年上の神酒くん。
私の中学はエスカレーター式の女子校で、神酒くんとは塾で一緒だったのだ。
神酒くんは優しくて、みんなの憧れの的だった。そんな神酒くんと付き合える自分が誇らしく思えたりした。
周囲はいつも賑やかだった。
しかし、そのまま時が経って自然消滅してしまった。
高校はエスカレーターでそのまま女子校だった。
一年生の頃は彼氏が欲しくて合コンとかにもいったけど、好みの人もおらず、そのままだった。
中学からの連れの由美子と瞳は相変わらず仲がよくて、三人とも彼氏がなかなかできずにいた。
理想が高すぎるのかな?
包容力のある男子がいいなと思いつつそのまま日々をわいわいと暮らしていた。
この頃になるとお小遣いは月十万円だった。
母曰く、
「甘やかしてあげてるんじゃないの。今のうちからお金というものの使い道を知ってて欲しいの。沙織なら有意義な使い道、わかるわよね?」
しかし、化粧品を買ったり服を買ったり、思い切り遊ぶことばかりに使った。
そんな私に群がる輩も多く、私は毎月のお小遣いを無駄に消費していた。
そんなときに、少しお金を使い込み過ぎて、友達のカラオケ代をだしてあげることもできない月がたった一月、あった。
甘味処のお金も自腹を切ってもらわねばならなくなったとき、私の周りには由美子と瞳しか残らなかった。
このとき、初めて利用されていたということがわかり、ショックだった。
しばらくは誰とも話せない時期が続いた。
でも、そんな私を救ってくれたのは、由美子と瞳だった。
いつもと変わらない笑顔で接してくれて、私は嬉しかった。
そんな頃にこの事件は起こった。
私はお先真っ暗な気持ちになり、死のうかとさえ思った。
だけど、他人の身体を傷つける勇気はなく、また、誠一郎も頑張って馴染もうとしてくれているのがわかったとき、生きようと思った。
そんなときに出会ったのが安野だった……
◇
私はここまで語るとワインを一口口にした。
最近はお酒を飲むことが楽しい。
沙織でいた時には出来なかったことだった。年齢的に、ね。
私は話終えてすっきりした気持ちになった。
誠一郎には感謝している。それを伝えたかったのだった。




