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小学校の頃までは、普通にサッカーやったり、友達もいたんだよ。体育の成績も悪くはなかったし、むしろ他の教科の方が問題あったかなって感じで。
友達もたくさんいたし、放課後も友達と遊ぶことが多かったんだ。
でも、それは中学にあがるとき、引っ越しをして変わってしまった。
中学に上がったとき、俺は完全にアウェイになっていて、友達らしい友達は一人も出来なかったんだ。
俺はただひたすらに本を読んだ。くだらない本から難しい専門書まで、たくさん。
そうしたら、そのうち、自分には特殊能力があるんだ、なんて思い始めて、魔方陣やらそういうことばかり考えるようになった。
空想の友達がいたから、寂しいとは思わなかった。むしろ、リアルに動いている人間の方が、俺にスパイ工作をしているんじゃないかとか、そういうことを考えていた。
今考えるとそっちの方がおかしいのにね、どっぷり浸かっていたんだね。
誰からも攻撃もされず、自分の殻に逃げ込んでいたと思う。
中三になってもそれはよくならず、俺は成績的に、地元の高校に通った。
地元だから、知った顔ばかりで、今さら高校デビューも飾れずにいた。まぁ、高校デビューなんてする気もなかったし、まだ俺は厨二病を継続していた上に、さらに魔術書とか買って悪化させていた。
さすがに生け贄の儀式こそはやらないものの、屋上にでっかい魔方陣を書いたりして先生に怒られたりしていたよ。
同級生からはいじめられることもなく、むしろ、空気扱いだった。いてもいなくても一緒、みたいな。
それでも俺は夢見てた。
いつかきっと、俺の力が必要になることがある、と。
そのとき、俺は皆が尊敬する黒魔術師として君臨するんだと。
俺は信じて疑わなかったね。特殊能力はいざってときに発生するもので、普段は出ないものだと思っていたからね。
そのまま大学へあがって、経済学部だったんだけど、どうも自分の力を勘違いしているようだ、と薄々感じ始めたんだ。
俺は本当は能力者なんかじゃなく、ただの平凡な人間じゃないかってことにね。
今さら気づいても、もう友達を作る作り方なんて忘れたし、一人でいるのも気楽かなって。
それでも寂しくなって、出会い系サイトを利用して女の子数人と会ったけど、俺はビビリだからホテルに行ったりなんか出来なかったよ。
まあ、女の子からしてみれば都合のいい男だったりしたかもしれないけど、そんなのどうでもよかった。
なんとか大学も卒業して、日大ハムみたいないい企業に入り込めて、目立たないように、目立たないようにやってきたつもりが、余計係長の癪に触ったんだろうな。係長からは目の敵にされて、毎日仕事を押し付けられていたよ。
俺は要領の悪いやつだったから、押し付けられた仕事が終わらず、午前様とかしょっちゅうあった。
周りからはやっぱり空気のような存在で、誰も庇ってはくれなかった。それもこれも俺が悪いんだけどね。
今は沙織の姿になって、初めて友達ができて、いろんな人に会えてよかったと思ってる。
友達のよさもわかったし、毎日が楽しい。充実してる。
沙織には悪いけど、感謝してる。
俺に青春をやり直す機会を与えてくれた。
沙織は――
沙織は……
おれにとって、なくてはならない大事な人だと思うんだ。
初めてなんだ、こんな気持ち。
◇
そこまで言ってあとの言葉を飲み込んだ。好きだよと言いそうになった。だから飲み込んだ。
結論としてはこれでよかったと思う。沙織は懸命に話を聞いてくれた。
俺は
「一生のうちの半分くらいしゃべった気がする」
と言うとまた食事に手をつけたのであった。




