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久しぶりに来たビストロで、私は誠一郎がおどおどしていることに気がついた。

「テーブルマナーはおしえてあげるから安心して」

と言うといくらかは落ち着いたようだった。


「まず、ナプキンは膝上に乗せて、料理を待ちましょ」

というと誠一郎は私のことを見よう見まねでナプキンを膝に置いた。


そのあとは食事が運ばれてくるまで、誠一郎のマシンガントークに付き合った。

久しぶりに二人で会うこともあっただろう、誠一郎のおしゃべりは尽きることを知らないかのようだった。


前菜が運ばれてきて、誠一郎は一瞬緊張する。

「ナイフとフォークは一番端のやつから使うんだよ」

「へぇ……」

と言いながら誠一郎はまたおしゃべりを始めた。

話の内容は主に学校と由美子と瞳のことだったが、相原の話をしてきたときはびっくりした。


相原唯。

クラスで一番の秀才で、人見知りというか、いつもぼっちだった。

体育で二人組を作るときに一度一緒になったくらいで、あとは接点が全くなかった女子である。

私の通う高校はエスカレーター式の女子校だったため、中学から浮いていた彼女は、高校になってからもずっと一人だったように思う。


そんな相原の話をしてくる誠一郎に、一つ質問をした。

「こないだも思ったけど、誠一郎は相原さんとどうして話すようになったの?」

誠一郎は

「塾、どこかいいところはないかな、って相原さんに聞いたんだ」

よく聞く気になったな。

私なら彼女は避けて別の人に聞くけどな。


相原の話も楽しそうにする誠一郎。なんだかもやっとした気持ちになる。


このもやっとした気持ちはなんなんだろう?

前にも確か感じたことがあるような……


しかし、その気持ちがなんなのかわからないまま、誠一郎のおしゃべりを聞いていた。


誠一郎は相原を友達にしたいらしい。

私の過去からすると無理難題だったが、誠一郎は徐々に彼女に近づいていっているらしい。

それはすごいことだ。彼女は今まで誰ともしゃべらず、いつも読書に耽っていた。


そんな彼女が一人なのは理由があるという。

小学校三年生の頃、親友を一人失って、それ以来ずっと一人でいたのだと言う。

「初めて告白紛いのことをしたよ」

と、その日のことを思い浮かべるように誠一郎が言った。

「友達になってください!って握手を求めたんだ」

「それで、返事は?」

「ノーだったよ。これからあなたのことを知りたい、知ってから友達になりたい、ってさ」

「なにそれ、お見合いの常套句みたい」

「ぼっちが長いとね、人との距離感がわからなくなるんだ」

「なにそれ、まるで自分がぼっちだったみたいじゃん」

「みたい、じゃなくてぼっちだったのさ」

「でも、安野くんがいるじゃない」

「俺は安野くんとはそこまで親しくなかったよ」

「えっ、そうなの?」

私はてっきり、仲のいい後輩なんだと思ってたけど……

「俺は今までこんなにしゃべるキャラでもなかったし、いつも一人ぼっちだったよ」


私は以前友達に電話をしようとして、アドレスが会社の人しかいなかったことを思い出していた。

今でこそ誠一郎と安野がいてくれて、そこそこ電話もメールもしているけど、そういやその他の人とメールしたりしていない。

「俺は中学のころからぼっちだったよ……当時はこんなに太ってなかったけどね」

意外な真実だった。でも、確かにアドレスには高校の友達も中学の友達も載っていなかった。

「厨二病が長引いたんだ」

それをきっかけに、誠一郎は昔の話を始めた。

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