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清楚な子が好き……

安野の口から出た言葉に絶句した私は、次の言葉が出ずに固まった。

「好きな人が、いるんですね……」

安野は遠い目をして呟くように言った。

「せ、清楚なって、どこを見てそう思ったの?」

「うまく言えないんですけど、あの敬語使いといい、年齢より大人びて見えるというか」

敬語……ということは、私でなく誠一郎を好きになったってことか……

見た目だけで好きになったわけではなさそうだ。

それがより一層私を泣かせた。といっても表には出せずに、心の中でだけど。

「ふぅん、そ、そっかぁ……」

私はそう言うのが精一杯だった。

「先輩は」

安野が口を開いた。

「先輩は好きな人とか、いるんですか?」

その質問にどう答えようかとしばらく迷ったが、

「好きな人、いるよ」

と答えた。

「まさか、沙織ちゃん?」

慌てて聞いてきた安野を制すると、

「違うよ」

と、はっきり言い切った。

「まさか、庶務の平野さん?」

なぜ平野さんの名前が出てきたのかはわからなかったが、

「違うよ。教えることはできない」

と言った。

「私の好きな人には好きな人がいるんだ」

「じゃあ、俺と一緒ですね」

安野がちょっとだけホッとした顔を見せた。


安野のアパートを後にすると、私はジムへ行った。最近は休まず毎日来ている。十一時までやっていてくれるので助かる。


最近は腹筋も十回できるようになって、ダンスもなかなかうまく踊れるようになっていた。ウォーキング以外のマシンにも積極的に乗るようにしていた。

そのおかげか、体重は先月より四キロ近く痩せていた。

お腹はまだでていたけれど、足元が見える程度にはなってきた。

スーツのズボンが少しブカブカになるほどだった。

やっぱり運動不足だったんだ……

そう思うと、さらに私はレッスンに打ち込んだ。

宮本さんの教え方がうまいのだろう、少しずつではあるが、贅肉が筋肉になってきていた。


会社では相変わらず残業があったが、おかげで十八万円の給料をキープできており、順風満帆だった。

安野のことを除いては。


私は電話で誠一郎に聞いた。

「誠一郎の好きな人って、誰?」

大いにむせた誠一郎は答えた。

「そ、そんなの、秘密です!」

いっそ安野とくっついてもらえばこんなもやもやした感情はなくなるのに!

私は叫びたい衝動を喉の奥に飲み込みつつ、言った。

「まぁ、あんたの好きなんてどうせ叶わないけどさ。このデブスじゃあね」

「それはそうですが、そんなにストレートに言われると困ります」

「それもそうね」

「それに、俺の好きな人には好きな人がいますから。」

なんだ、みんな片想いの連鎖か……

「沙織は安野くんが好きなんだよね?」

改めて言われると恥ずかしい。顔が赤くなるのを感じた。

「で、安野くんは誠一郎が好き……」

「うまくピースがはまらないね。でも俺は、沙織の味方だからね」

誠一郎のその一言が嬉しくてたまらなかった。



はずれたピースをあわせることほど難しいことはない。しかも、それが人間関係だとなおさら。



誠一郎から相原のことを聞いた。

相原。相原唯。クラスで浮いていた女子だ。

誠一郎は、最近仲良くなったらしい彼女のことをとても気にしていた。

私の気持ちは一瞬もやっとしたが、誠一郎の友達が増えるのは喜ばしいことであり、私も嬉しかった。

なにやら、相原に友達のよさを知ってほしいらしく、私に相談してきた。


私は友達がいなかったことなんてなかったし、だから今、このぼっち状態を多少なりとも気にしていたくらいだったので、名案など浮かぶはずもなかった。


「あんまり無茶して嫌われたら一緒なんだからね」

とだけ、口を挟んでおいた。

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