30
俺は一日中昨日の沙織とのことを思い出してはため息をついていた。
由美子と瞳はそのことに気づいているのかいないのか、いつも通りに接してくれていた。
だが、俺の三十七回目のため息に、瞳が言った。
「ため息ばっかりついてると、幸せが逃げていくよ」
由美子も言う。
「なんでも相談に乗るって言ったでしょ」
「うん……」
俺は話さないでいようかとも思ったけど、他人の意見が聞きたくて、思いきって打ち明けることにした。
「実はね、好きな人がいるんだ」
由美子と瞳は驚きもせずに聞いてくれた。
「昨日、彼が辛い目にあっているのが我慢できなくて、夜、会社まで会いに行ったんだ……」
「うんうん」
二人とも真剣に俺の話を聞いてくれる。
「その前の電話とかから察するに、彼は同僚のことが好きみたいなんだ。でも、自分でも気づいているのか気づいていないのかわからないみたいで……」
「それでどうしたらいいかわからない、ってわけね」
「その同僚の人には好きな人はいるの?」
俺は精一杯の勇気を出して言った。
「その好きな人っていうのが、私みたいで……」
「「へっ?」」
二人はハモった様に言った。
「それって……」
「沙織の好きな人がホモなの?それともその好きな人がレズなの?」
聞かれると思った。どうせならここで一気に話してしまいたい。俺は迷いに迷ったが、結果こう言った。
「私の好きな人がホモ……っていうか、心は女の子なの」
「性同一障害?」
「まぁ、そんなとこかな」
「そっかぁ……そりゃ複雑だわ……」
「でも、沙織はそんな彼のことが好きなんだよね?」
瞳は改めて聞いてきた。
「うん……」
「それって、コクっちゃえばいいんでない?」
「えっ……?」
「そうだよね、そしたらこっちを向いてくれるかも……」
「でも俺、自信なくて……」
由美子が口を開く。
「俺、ってまた言ってる……」
「俺、でいいじゃん!」
瞳がそう言って続けた。
「相手の中身が女の子なら、沙織が男になればいいんじゃん?」
「そ……そうかな……」
俺は自然と俺を認められた気持ちになってなんだか嬉しくなった。
「瞳、ナイスアイデア!」
由美子もそう言った。
「そっかぁ……そう……だよね」
俺はなんだかすっきりしていた。
「だけど、コクるのは無しで」
「え?どうして?」
「話を聞いてもwったらずいぶんすっきりした。コクって負担をかけたくないんだ」
「そんなの、負担になんてならないよ!!」
「そうだよ!一度ぶつかってみたらいいじゃない!」
「まだ自信ないし」
そう言ったら二人は顔を見合わせて言った。
「大丈夫だよ!沙織可愛いし、優しいし、大丈夫だよ!」
俺は頭を横に振った。
「俺の中身をもっと知ってもらってから、それからトライしてみるよ」
そう言うと二人はそっか、と言ってそれ以上追及しないでおいてくれた。
今まで友達って言える友達がいなかった俺には、この、相談というものが初体験な出来事だった。
それは一人じゃないっていうこと。俺には味方がいるんだという強い安心感。こんなことは初めてだった。
こんなに心地よいものだったなんて、初めて知ったよ。
俺はそんなこんなで立ち上がることができた。
あとは気になっているのは相原のことだった。相原は相変わらず一人で過ごしており、友達って素晴らしいと実感した俺は、相原にもぜひこの体験をさせてやりたかった。
昼休みになり、弁当を出すと、由美子と瞳に
「ごめん、今日は一緒に食べられない」
と言うと屋上まで上がっていった。
屋上では、案の定相原が一人で弁当を開いていた。
「横、いいかな?」
自然な感じを装って俺は隣に腰かけた。
塾で結構しゃべるようにはなっていたが、仲良しというまでには程遠い感じだった。
俺は勝手に横に座ると、弁当を広げたのであった。




